海外の情報
過敏性腸症候群
Irritable Bowel Syndrome
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
- 過敏性腸症候群:知っておきたいこと
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英語版最終アクセス確認日:2024年12月要点は?
過敏性腸症候群に対する補完療法の有用性についてわかっていることは?
栄養学的アプローチ
心理的・身体的アプローチ
- 腸管に焦点をあてた催眠療法[腸(管)指向催眠療法]がIBSの症状を改善し、健康に関連した生活の質(Quality of life:QOL)を向上させるというエビデンスがいくつかあります。
- IBSに対する鍼治療に関する研究は、決定的なものではありません。
- IBSに対する瞑想やマインドフルネス、ヨガ、リラクゼーション法に関する研究はほとんどありません。
過敏性腸症候群に対する補完療法の安全性についてわかっていることは?
- プロバイオティクスとペパーミントオイルは明らかに安全に使用されてきた歴史がありますが、どちらも副作用があります。また、プロバイオティクスの安全性を詳しく検証した研究はほとんどないため、副作用の頻度や重症度に関する確かな情報は不足しています。
- プレバイオティクスには、安全に使用されてきた長い歴史があります。しかし、大量に摂取した場合(成人で1日20グラム以上)、副作用としてガスの発生、膨満感、腹痛、痙攣、下痢などが現れる可能性があります。
- 心理的・身体的アプローチは、一般的に、正しく使用された場合には良好な安全性実績があります。しかし、だからといって誰にとってもリスク(危険)がないわけではありません。補完療法の安全性は、健康状態や特別な状況(妊娠など)に左右されるかもしれません。
過敏性腸症候群について
IBSは、最も一般的に診断される胃腸(gastrointestinal:GI)疾患です。症状は、便通の変化(下痢、便秘、またはその両方)を伴う腹痛の繰り返しです。IBSは、脳と腸の連携の障害です。
米国では、IBSは男性よりも女性に多く、50歳未満の人は50歳以上の人よりも発症しやすいです。米国では約12%の人がIBSです。
IBSはかつて、大腸炎や痙攣性大腸炎などさまざまな名前で呼ばれていましたが、現在では医師が3つの種類に分けて呼んでいます:便秘型IBS、下痢型IBS、または混合性型IBS。IBS患者の多くは、ある日は正常な排便をし、ある日は異常な排便を経験します。
IBSの詳細については、米国国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)のIBS[英語サイト]に関するウェブページをご覧ください。
補完療法について
補完医療とは、主流の医療以外の分野から生まれた、多様な医療およびヘルスケアシステム、施術・療法、製品を指します。ハーブ系サプリメント、その他のダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)(eJIMサイト内:一般向け・医療関係者向け)、瞑想、脊椎マニピュレーション、鍼治療などの製品や施術・療法が含まれます。
補完療法は、その主要な治療法(どのように治療法を取り入れるか、または提供するか)によって分類することができます:
栄養学的アプローチには、米国補完統合医療センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)が以前は天然物と分類していたものが含まれ、心理的・身体的アプローチには、心身療法と呼ばれていたものが含まれます。
IBSに対する補完療法の有用性の科学的見解
栄養学的アプローチ
- ペパーミントオイル
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腸溶コーティングされたペパーミントオイルカプセルが短期間でIBSの症状を軽減する可能性があるというエビデンスがいくつかあります。ペパーミントオイルが長期的に有用化どうかについては、まだ十分なエビデンスがありません。
(※補足:日本では、ペパーミントのエッセンシャルオイルの経口(口から)摂取は認められていません)
- 2020年に報告された参加者684例を対象とした11件の研究のレビューと解析によると、ペパーミントオイルは、短期的には、全般なIBS症状に対して安全で有用な治療法であると報告されています。
- 2021年の研究では、IBS患者133例に腸溶性ペパーミントオイルの錠剤またはプラセボ(偽薬)の錠剤を6週間投与したところ、IBSの症状はどちらのグループでも同じ程度改善したと報告されています。ペパーミントオイル投与群では、より多くの人が副作用を報告しましたが、重篤なものはありませんでした。
- 消化器系疾患を治療する医師の専門組織である米国消化器病学会が2021年に報告された診療ガイドラインでは、IBS症状の緩和に有用と思われるいくつかのアプローチの一つとしてペパーミントオイルが挙げられています。しかし、この推奨は質の低いエビデンスに基づいています。
- ペパーミントオイルによる副作用は通常軽度で、逆流、胸やけ(特に錠剤が腸溶性コーティングされていない場合)、腹鳴、肛門周囲のほてりなどがあります。
- ペパーミントオイルは、ヘルニアや胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)のある人は、特に高用量では摂取すべきではありません。
ペパーミントオイルの詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- ハーブ製品
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ペパーミントオイルのほかにも、IBSに有用であるとされるハーブ製品が研究されていますが、それらの研究はごくわずかで、その多くは質が限られています。
- 2018年に報告された参加者326例を対象とした3件の研究の解析では、ハーブのウコンに含まれるクルクミンという物質が、一部のIBS患者の症状治療に有用であるかもしれないことが示唆されました。しかし、エビデンスの質は非常に低く、有用であるかどうかを確認するには十分ではありませんでした。これまでウコンは安全だと考えられてきましたが、最近の研究では、特定の遺伝子を持つ少数の人において、ウコンと肝障害との関連性が懸念されています。
ウコンの詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- プロバイオティクス
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プロバイオティクスとは、生きた微生物(細菌や酵母など)のことで、ダイエタリーサプリメントとして摂取したり、ヨーグルトなどの発酵食品や一部の美容製品に含まれていたりします。
一部のプロバイオティクスがIBSの症状を改善するかもしれないことを示唆するエビデンスもありますが、決定的なエビデンスではありません。プロバイオティクスの中には、単独で使用するか、異なる組み合わせで使用するかによって、他のものより有用性が高いものがあると考えられています。
- 2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインによると、IBSに対するプロバイオティクスの有用性については、その使用を推奨できるほどの強力なエビデンスはありません。ガイドラインでは、この推奨に対する現在のエビデンスは非常に弱いとされています。その理由は、多くの異なる種類のプロバイオティクスが研究されており、ほとんどの研究は小規模で、結果もまちまちであるためです。
- 2022年に報告された便秘優位のIBS患者757例を対象とした10件の研究のレビューおよび解析によると、プロバイオティクスは便の粘りを改善しましたが、疼痛や腹部膨満感の軽減や生活の質(Quality of life:QOL)の改善には役に立ちませんでした。レビューされた研究のエビデンスの質は低いものでした。
- 2021年に報告されたIBSの小児651例を対象とした9件の研究のレビューおよび解析によると、プロバイオティクスを摂取した小児は、プラセボ(偽の治療薬)を摂取した小児と比較して、腹痛の程度と頻度が少なかったことがわかりました。しかし、プロバイオティクスの用量や種類は研究によって異なっており、プロバイオティクスの用量とIBSの小児の疼痛との関連は明らかではありません。
- 2020年に報告されたIBS患者3,452例を対象とした35件の研究のレビューおよび解析によると、プロバイオティクスを4週間摂取することで、腹痛、腹部膨満感、ガスの発生などのIBS症状が緩和されるかもしれないことがわかりました。プロバイオティクスの組み合わせは、単一のプロバイオティクスよりも良い結果が得られました。しかし、研究規模が小さいこと、プロバイオティクスの種類や研究方法が異なることから、どの種類のプロバイオティクスが最も有用なのかは明らかではありません。
- 2019年に報告されたIBS患者1,695例を対象とした14件の研究のレビューおよび解析によると、ラクトバチルスとビフィズス菌の微生物を含むプロバイオティクスの1日摂取量は、単一のプロバイオティクスの1日摂取量よりも、IBS全体の症状を緩和することが報告されています。
- プロバイオティクスは、特に健康な人々において、一見安全に使用されてきた長い歴史があります。しかし、プロバイオティクスの安全性を詳しく調べた研究はほとんどないため、副作用の頻度や重度に関する確かな情報は不足しています。プロバイオティクスによる有害作用のリスク(危険)は、重い病気にかかっている人や免疫力が低下している人の方が高いとされています。
- IBS患者の場合、プロバイオティクスの副作用は、あったとしてもごくわずかです。報告されている副作用には、けいれんや悪心などがあります。まれに、感染症やアシドーシス(体内の酸が過剰になり、命を脅かす可能性のある状態)など、より重篤な副作用が報告されています。
- プロバイオティクスの安全性に関する研究のほとんどは、乳酸菌とビフィズス菌に関するもので、他のプロバイオティクスについてはあまり知られていません。
プロバイオティクスの詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- プレバイオティクス
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- プレバイオティクスとは、食品やダイエタリーサプリメントに含まれる難消化性の成分で、有益な腸内細菌の増殖や活性をサポートします。
- 2019年に報告されたIBSやその他の機能性腸疾患の患者729例を対象とした11件の研究のレビューおよび解析によると、プレバイオティクスのサプリメントを摂取しても、消化器症状やQOLは改善しませんでした。適度な量のプレバイオティクス、具体的には6g/日以下の非イヌリンタイプのフルクタンがガス感を改善しました。しかし、他のプレバイオティクス(イヌリン型フラクタン)は逆の効果があり、IBS患者のガス発生を増加させました。
- プレバイオティクスは、安全に使用されてきた長い歴史があります。しかし、大量に摂取すると(成人で1日20グラム以上)、ガスの発生、腹部膨満、腹痛、痙攣、下痢などの副作用が現れる可能性があります。
心理的・身体的アプローチ
- 腸管に焦点をあてた催眠療法[腸(管)指向催眠療法](ヒプノシス)
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催眠療法では、施術者は人々が提案を受け入れやすい状態になるよう導きます。腸管指向催眠療法では、施術者が人々に消化器機能をコントロールできるようにするための提案を行います。
腸管指向催眠療法が、IBS患者の消化器症状、不安、抑うつ、障害、健康関連QOLに有用であるというエビデンスがいくつかあります。また、腸管指向催眠療法が、IBSの小児の消化器系の疼痛を和らげるのに有用であるという研究報告もあります。
- 米国消化器病学会が2021年に公表した診療ガイドラインでは、IBS症状の治療に腸管指向催眠療法を含む腸管指向精神療法を推奨しています。しかし、この推奨は非常に質の低いエビデンスに基づくものであり、条件付きです。
- 2020年に報告された4,072例を対象とした41件の研究のレビューおよび解析によると、腸管指向催眠療法は、成人のIBS患者において、教育よりもIBSの症状や疼痛の改善に有用であることが明らかになりました。しかし、認知行動療法やストレス・マネージメントなど、他の心理療法よりも高い有用性はありませんでした。難治性IBS症状(症状が継続し、従来の治療法に反応しない)の人では、認知行動療法と腸管指向催眠療法が長期にわたって最も有用でした。
- 2017年に報告された再発性腹痛およびIBSを含む機能性腹痛障害を有する146例の小児および青年を対象とした4件の研究のレビューでは、質の低いエビデンスに基づき、催眠療法と誘導イメージ療法が、この年齢層の疼痛の頻度と強度を短期的に減少させるかもしれないと報告しました。
- 病状の治療における催眠療法の使用は、安全性において十分な安全性実績があります。しかし、催眠療法は精神的な症状・疾患のある人の症状を悪化させる可能性があります。
催眠療法の詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- ヨガ
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- ヨガやその他の運動がIBSに有用であることを示唆するわずかなエビデンスがあります。2022年に報告されたIBS患者218例を対象とした5件の研究のレビューでは、ヨガをすることでIBSの症状は改善されたが、疼痛やQOLは改善しなかったと報告されています。しかし、この研究の著者らは、エビデンスの質は非常に低いと注意を促しています。
- ヨガは一般的に、資格のあるインストラクターの指導のもとで適切に行えば、健康な人にとって安全な身体活動であると考えられています。しかし、他の運動と同様、怪我をすることもあります。最も一般的な怪我は捻挫と肉離れです。重篤な健康被害を負うことはまれです。ヨガに伴う怪我のリスク(危険)は、衝撃の大きいスポーツ活動よりも低いとされています。
ヨガの詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- 瞑想とマインドフルネス
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瞑想とマインドフルネスがIBS患者の健康増進に有用であるという研究はほとんどなく、その結果も決定的なものではありません。
- 2018年に報告された695例を対象とした5件の研究のレビューでは、従来のケアを受けることに加えて、教育や認知行動療法とともにオンラインのマインドフルネスに参加することで、IBSを含む健康状態にある人の全般的な健康に有用であると結論づけられました。
- 2019年に報告された165例を対象とした2件の研究のレビューおよび解析では、質の低いエビデンスに基づき、マインドフルネス瞑想トレーニングはIBS症状を改善しなかったと報告されました。
- 瞑想とマインドフルネスの実践は通常、ほとんどリスク(危険)がないと考えられています。しかし、潜在的に有害作用があるかどうかを検証した研究はほとんどないため、安全性について明確なことはわかっていません。
瞑想とマインドフルネスの詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- リラクゼーション法
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IBSに対するリラクゼーション法の使用についての研究はわずかです。
- 2021年に報告されたIBS患者278例を対象とした6件の研究のレビューおよび解析によると、リラクゼーション法はIBSによる腹痛や全体的な症状には有用ではなかったと報告されています。
- リラクゼーション法は一般的に健康な人には安全だと考えられています。ほとんどの研究において、悪影響を及ぼした副作用は報告されていません。しかし、時折、不安の増大、侵入思考、コントロールを失うことへの恐怖などのネガティブな経験が報告されることがあります。
- まれに、てんかんや特定の精神疾患のある人、虐待やトラウマの既往歴のある人において、特定のリラクゼーション法が症状を引き起こしたり悪化させたりするかもしないという報告があります。
リラクゼーション法の詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- 鍼治療
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IBSに対する鍼治療の研究はまちまちです。偽鍼治療と比較すると、本物の鍼治療はIBS症状を改善しません。しかし、鍼治療とさまざまな医薬品を比較した研究では、IBS症状の緩和には鍼治療のほうが有用であることがわかりました。
- 2021年に報告されたIBS患者3,220例を対象とした24件の研究のレビューおよび解析によると、鍼治療とさまざまな薬物療法を比較した研究では、鍼治療の方がIBS症状の緩和に有用でした。医薬品やハーブなど他の治療法と併用した場合、鍼治療はIBS症状の治療効果を高めるのに有用でした。しかし、鍼治療は偽鍼治療よりもIBS症状を改善する有用性はありませんでした。著者らは、レビューされた研究のエビデンスの質は低から中程度であったと指摘しました。
- 鍼治療による合併症は比較的少ないと報告されています。しかし、滅菌されていない鍼の使用や不適切な治療の実施によって合併症が生じることもあります。
- 鍼治療が適切に行われないと、感染症、臓器穿刺、中枢神経系の損傷など、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
- 米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は鍼を医療機器として規制しており、滅菌済みであること、一回限りの使用であることを表示することを義務づけています。
鍼治療の詳細については、NCCIHウェブサイト[英語サイト]をご覧ください。[eJIMサイト内日本語訳]
- 補完的な心理的・身体的アプローチについてさらなる情報
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2020年に報告された53件の研究の研究では、IBSの成人および小児を対象に、さまざまな補完的な心理的・身体的アプローチの使用が検証されました。その中には、さまざまなリラクゼーション法、ヨガ、瞑想、催眠、バイオフィードバック(呼吸法や外部機器からの情報を使って、心拍数やその他の身体機能をコントロールする方法を学ぶこと)などが含まれていました。著者らは、薬物治療と併用することで、心理教育や認知行動療法といった従来の心理療法に加え、これらの補完的な心理的・身体的アプローチがIBS症状の重症度軽減に有用であると結論づけました。また、他の補完的な心理的・身体的アプローチが同様に有用であることも判明しました。どれか1つが他よりも有用であるということはないようです。
NCCIHによる研究助成
NCCIHが支援している研究では、現在、以下のようなことが検証されています:
- ペパーミントオイルが、IBSに似た機能性腹痛を持つ小児の腹痛頻度を減少させるかどうか。
- 脳が腸の感覚にどのように影響を与えるか、IBSの一因となる可能性がある腸の感覚機能障害に関連する脳の行動を治療するための補完的なアプローチを特定することを目的としています。
- IBSを含む機能性消化器疾患と健康における腸の触覚の働き。
さらに考慮しなければならないこと
- IBSの場合、いくつかの治療法-生活習慣の改善、医薬品、プロバイオティクス、メンタルヘルス療法-を試してみて、何が自分に一番合うかを見極める必要があるかもしれません。今かかっている医療機関※が勧めるものを確認してください。
- 催眠療法や鍼治療など、施術者が提供する補完療法を検討している場合は、信頼できる情報源(今かかっているIBSを治療している医療機関や近くの病院など)から施術者を紹介してもらいましょう。検討している補完療法の施術者の研修歴や技能・知識について調べてみましょう。NCCIHウェブサイトでは、補完療法の探し方に関するいくつかのヒント[英語サイト]を提供しています。
- ダイエタリーサプリメントの中には、医薬品や他のダイエタリーサプリメントと相互作用するものがあることを覚えておいてください。また、ラベルに記載されていない成分が含まれているかもしれません。相互作用の可能性については、今かかっている医療機関※がアドバイスしてくれるでしょう。妊娠中や授乳中の人、あるいは子供のためにダイエタリーサプリメントの使用を検討している人は、自身(または子供)の今かかっている医療機関※に相談することが特に重要です。
- 自分の健康を守るために、自分が行っている補完療法について今かかっている医療機関※に相談しましょう。そうすることで、十分な情報を得た上で意思決定をすることができます。
(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)
さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレコム・リレー・サービス(Telecommunications relay service:TRS)7-1-1
ウェブサイト:https://www.nccih.nih.gov[英語サイト]
Email:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)■ National Digestive Diseases Information Clearinghouse(米国国立消化器疾患情報クリアリングハウス)
米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所のサービスであるこのクリアリングハウスは、問い合わせに対応し、出版物を提供しています。
米国内の無料通話:1-800-891-5389
ウェブサイト:https://www.niddk.nih.gov/health-information/digestive-diseases[英語サイト]■ 科学を知ろう
NCCIHと米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。科学を知ろうは、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。
Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(NIH)[英語サイト]
科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)(NIH)[英語サイト]■ PubMed®
米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。 ウェブサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/[英語サイト]
■ MedlinePlus
健康に関する質問に答えるのに役立つリソースを提供するために、MedlinePlus(米国国立医学図書館のサービス)では、国立衛生研究所をはじめ、他の政府機関や健康関連組織からの信頼できる情報をまとめています。
■ NIH Clinical Research Trials and You(NIHクリニカル・リサーチ・トライアル・アンド・ユー)
米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が開設したウェブサイトです。一般の人々に、臨床試験の重要性や、どうすれば臨床試験に参加できるのかを知ってもらうために開設されました。サイトには、臨床試験に関する質問と回答、臨床試験の情報を探す方法(ClinicalTrials.govなどの情報検索サイトやその他の情報源)、臨床試験に参加した人の体験談などが掲載されています。臨床試験は、病気を予防、診断、治療するうえで、よりよい方法を見つけ出すために必要な試験です。
ウェブサイト:https://www.nih.gov/health-information/nih-clinical-research-trials-you[英語サイト]
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謝辞
NCCIHは、本書の更新にあたり、専門的な技術的知識とレビューを提供してくださった以下の方々に感謝します:Elizabeth Ginexi, Ph.D.、D. Craig Hopp, Ph.D.、Beda Jean-Francois, Ph.D.、Sekai Chideya, M.D.、M.P.H.、David Shurtleff, Ph.D.、NCCIH
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- 過敏性腸症候群に対する補完療法:概要
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最新版(英語版オリジナルページ)はこちら
英語版最終アクセス確認日:2024年12月過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome:IBS)は、その多様かつ非特異的な症状、突発性、確定診断のための検査が存在しないことなどから、研究が困難な疾患です。IBSの治療に補完療法が有用であることを示唆するエビデンス(科学的根拠)は出てきていますが、ほとんどの研究には方法論的な欠陥があります。IBS症状に対する補完療法を評価したシステマティックレビューでは、大規模で十分にデザインされた研究はほとんど存在せず、補完医療や統合医療がIBS治療に有用かどうかを判断するにはさらなる研究が必要であると結論付けられています。
本ダイジェストでは、IBSの症状を管理するために一般的に使用されている補完療法に関する現在の研究を要約しています。
科学的見解:過敏性腸症候群に対する補完療法
各種補完療法と現時点での研究の要約
プロバイオティクスとプレバイオティクス
一部のプロバイオティクスがIBSの症状を改善するかもしれないことを示唆するエビデンスは限られていますが、そのベネフィット(有益性)は決定的に証明されておらず、また、すべてのプロバイオティクスが同じ有用性をもたらすわけではありません。2021年に公表された米国消化器病学会(American College of Gastroenterology)の診療ガイドラインでは、全般的なIBS症状の治療にプロバイオティクスを使用しないことが推奨されています。(推奨は条件付きで、"エビデンスレベルは非常に低い")。
プレバイオティクスは特殊な植物繊維で、大腸や結腸にすでに存在する善玉菌に有益な栄養を与えます。難消化性の食材であり、加熱、冷却、酸、時間の影響を受けず、健康にさまざまなベネフィット(有益性)をもたらします。プレバイオティクスは、特定の疾患のリスクを低減し、健康増進に有用であるかもしれないため、関心が高まっています。しかし、IBSにおけるプレバイオティクスの有用性を検証したエビデンスの質は低く、健康強調表示を裏付けるには、より多くの十分にデザインされた長期臨床試験が必要です。
IBSのためのプロバイオティクスとプレバイオティクスについてもっと読む
腸管に焦点をあてた催眠療法[腸(管)指向催眠療法]
いくつかの研究では、消化器症状、不安、抑うつ、障害、健康関連QOLを含むIBS症状に対する腸管指向催眠療法の有用性が示唆されています。小児における疼痛関連の機能性消化管疼痛障害は、標準治療や待機的アプローチと比較して、催眠療法により有意に緩和されることが報告されている。2021年に公表された米国消化器病学会(American College of Gastroenterology)の診療ガイドラインでは、腸管指向催眠療法などの腸管指向精神療法を全般的なIBS症状の治療に用いることが推奨されています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は非常に低い」)。
ペパーミントオイル
腸溶コーティングされたペパーミントオイルカプセルは、特に腹痛、腹部膨満感、ガスなど、IBSの一般的な症状を短期的に緩和するのに、ある程度有用性があるというエビデンスがあります。
(※補足:日本では、ペパーミントのエッセンシャルオイルの経口(口から)摂取は認められていません)
長期的な有用性は確立されていません。2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインでは、IBSの全体的な症状を緩和するためにペパーミントを使用することが推奨されています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は低い」)。
薬草療法
一部の薬草療法がIBSの症状を改善することを示唆するエビデンスは限られています。しかし、入手可能なデータの多くは、方法論が不十分でサンプル数が少ない研究に基づいています。
鍼治療
偽鍼治療と比較したランダム化比較試験では、鍼治療はIBSの症状の重症度や健康関連の生活の質(Quality of life:QOL)の改善において、プラセボと比較して優位性は認められませんでした。他の研究では、鍼治療は2種類の鎮痙剤よりも大きな有用性を示したようですが、これらの有用性が患者の嗜好や改善への期待によるものである可能性は否定できません。
ヨガ
ヨガやその他の運動がIBSの症状に有用であることを示唆するわずかなエビデンスがあります。
瞑想とマインドフルネス
瞑想とマインドフルネスがIBS患者の健康増進に有用であるという研究はほとんどなく、その結果も決定的なものではありません。
リラクゼーション法
IBSに対するリラクゼーション法の使用に関する研究はほとんどなく、その結果も決定的なものではありません。
診療ガイドライン
科学文献
患者のための情報
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- 過敏性腸症候群に対する補完療法:科学的見解
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英語版最終アクセス確認日:2024年12月診療ガイドライン、科学文献、患者のための情報:
過敏性腸症候群と補完療法:概要プロバイオティクスとプレバイオティクス
一部のプロバイオティクスがIBSの症状を改善する可能性があることを示すいくつかのエビデンス(科学的根拠)がありますが、そのベネフィット(有益性)は決定的に証明されておらず、また、すべてのプロバイオティクスが同じ有用性をもたらすわけではありません。2021年に公表された米国消化器病学会(American College of Gastroenterology)の診療ガイドラインでは、全般的なIBS症状の治療にプロバイオティクスを使用しないことが推奨されています。(推奨は条件付きで、"エビデンスレベルは非常に低い")。
プレバイオティクスは特殊な植物繊維で、大腸や結腸にすでに存在する善玉菌に有益な栄養を与えます。難消化性の食材であり、加熱、冷却、酸、時間の影響を受けず、健康にさまざまなベネフィット(有益性)をもたらします。プレバイオティクスは、特定の疾患のリスクを低減し、健康増進に有用であるかもしれないため、関心が高まっています。しかし、IBSにおけるプレバイオティクスの有用性を検証したエビデンスの質は低く、健康強調表示を裏付けるには、より多くの十分にデザインされた長期臨床試験が必要です。
研究でわかったことは?
- 2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインでは、全般的なIBS症状の治療にプロバイオティクスを使用しないよう推奨しています。(推奨は条件付きで、"エビデンスレベルは非常に低い")。このガイドラインの著者らは、研究が小規模であること、プロバイオティクスの種類や菌株が複数あること、個々の症状に対する効果が一貫していないこと、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)のエンドポイントに基づいた厳密な試験が行われていないことなどから、既存の文献の解釈には課題があると指摘しています。
- 2022年に報告されたシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、便秘型IBS(constipation-predominant IBS:IBS-C)患者757例が参加した10件のランダム化比較試験が対象とされました。その結果、プラセボと比較して、プロバイオティクスは便の固さを大幅に改善し、便中のビフィズス菌と乳酸菌の数を増加させることが分かりました。しかし、腹痛スコア、腹部膨満スコア、生活の質(Quality of life:QOL)スコアには有意な差は認められませんでした。レビューに含まれた研究のうち、バイアスリスクが低いと評価されたのは3件だけであったことに注意することが重要です。
- 2021年に報告されたシステマティックレビューと小児患者651例を対象とした9件のランダム化比較試験のメタアナリシスでは、プロバイオティクスが腹痛スコアを有意に減少させ、腹痛治療の成功率と腹痛緩和率を増加させ、腹痛の頻度を減少させることが分かりました。しかし、プロバイオティクスの1日の摂取量を増やしても、腹痛をさらに減少させることは認められず、したがって、腹痛とプロバイオティクスの摂取量との間に有意な相関関係は認められませんでした。
著者らは、最適なプロバイオティクスを決定することが、比較的重要であることを示唆しています。 - 2020年に報告されたシステマティックレビューと参加者3,452例を対象とした35件のランダム化比較試験のメタアナリシスでは、プラセボと比較して、プロバイオティクスは持続的な症状を改善し、腹痛、腹部膨満感、鼓腸など、全般的なIBS症状に有益な効果があることが分かりました。著者らは、ビフィズス菌が全般的なIBS症状と疼痛のスコアに対して有益な効果を示す傾向があることを指摘しましたが、原因となっている菌株や菌種は明らかになりませんでした。
- 2019年に報告されたレビューおよびメタアナリシスでは、IBS患者1,695例を対象とした14件の研究を検証し、ラクトバチルス属とビフィドバクテリウム属の微生物を含むプロバイオティクスを毎日低用量摂取する方が、単一のプロバイオティクスを毎日摂取したり、2種類のプロバイオティクスを高用量摂取したりするよりも優れていることが分かりました。
- 2019年に報告された11件の研究を対象としたシステマティックレビューでは、IBS症状に対するプロバイオティクスの有用性を評価したところ、結果はまちまちでした。レビューに含まれた研究のうち7件では、プロバイオティクスはプラセボと比較してIBS症状を有意に改善したと報告していますが、他の4件の研究では、プロバイオティクス摂取後のIBS症状の有意な改善は報告されていません。レビューに含まれた3件の研究では単菌のサプリメントが使用され、残りの8件の研究では多菌のプロバイオティクスが使用されていることに注意することが重要です。全体として、レビューらは8週間以上にわたって投与された複数菌プロバイオティクスのサプリメントは、より明確な有益な効果をもたらすようだと指摘しました。
- 2019年に報告された、厳格なグルテンフリー食を実践しているセリアック病患者109例を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照多施設共同試験では、6週間のプロバイオティクス治療がIBS型症状の重症度を改善するのに有用であり、ビフィズス菌の増加を特徴とする腸内マイクロバイオーム(細菌叢)の変化と関連していることが分かりました。
- 2019年に報告された、IBSまたはその他の機能性腸疾患を持つ729例を対象とした11件のランダム化比較試験のレビューおよび解析では、プレバイオティクスサプリメントの摂取は、プラセボと比較して、消化器症状やQOLを改善しないことが分かりました。適度な量のプレバイオティクス、具体的には6g/日以下の非イヌリンタイプのフルクタンが鼓腸を改善しました。しかし、他のプレバイオティクス(イヌリン型フラクタン)は逆の効果があり、IBS患者の鼓腸を増加させました。
安全性
- 健康な人の場合、プロバイオティクスの副作用があったとしても、通常はわずかです。しかし、健康上の基礎疾患(例えば、免疫機能の低下など)を抱えている人では、感染症などの重篤な合併症が時折報告されています。
- プロバイオティクスの安全性に関する研究のほとんどは、乳酸菌とビフィズス菌に関するもので、他のプロバイオティクスの菌株についてはあまり知られていません。
- 有害事象はまれでしたが、プラセボと比較して、プロバイオティクスを投与された参加者の間では有意に多く発生しました。
- プレバイオティクスは一般的に、ほとんどの人にとって安全と考えられています。しかし、大量に摂取すると(成人で1日20グラム以上)、鼓腸、腹部膨満、腹痛、痙攣、下痢などの副作用が現れる可能性があります。
腸管に焦点をあてた催眠療法[腸(管)指向催眠療法]
いくつかの研究では、消化器症状、不安、抑うつ、障害、健康関連のQOLを含むIBS症状に対する腸管指向催眠療法の有用性が示唆されています。小児における疼痛関連の機能性消化管疼痛障害は、標準治療や待機的アプローチと比較して、催眠療法により有意に緩和されることが報告されている。2021年に公表された米国消化器病学会(American College of Gastroenterology)の診療ガイドラインでは、腸管指向催眠療法などの腸管指向精神療法を全般的なIBS症状の治療に用いることが推奨されています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は非常に低い」)。
研究でわかったことは?
- 2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインでは、腸管指向催眠療法などの腸管指向精神療法を、全般的なIBS症状の治療に用いることが推奨されています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は非常に低い」)。
- 2020年に報告されたシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスでは、参加者総数4,072例を対象とした41件のランダム化比較試験が実施され、腸管指向催眠療法は、教育および/またはサポート、または日常的なケアよりも、IBS患者の成人に有用であることが分かりました。しかし、他の心理療法も解析されましたが、どの療法も他の療法より優れていたわけではなく、認知行動療法と腸管指向催眠療法が最大のエビデンスベースがあり、長期にわたって最も有用でした。
- 2022年に報告された、機能性腹部痛障害を持つ小児2,657例を対象とした33件のランダム化比較試験のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、催眠療法が小児期のこれらの障害の治療法として検討される可能性があることが分かりました。
- 2015年に報告された、IBSに対する腸管指向催眠療法に関する7件のランダム化比較試験のレビューでは、そのうち6件の試験で、支持療法のみと比較して、消化器症状全般の大幅な改善が報告されていることが分かりました。レビューアらは、腸管指向性催眠療法はIBS患者に持続的な有用性を有するが、催眠療法がIBS患者の一次治療または補助療法の選択肢としてふさわしいかどうかを判断するには十分なエビデンスがないと結論づけました。
安全性
- 腸管指向性催眠は、この技法の特別な訓練を受けたライセンスを持つ催眠療法士が指導する場合、一般に小児および成人において安全で忍容性があると考えられています。
ペパーミントオイル
腸溶コーティングされたペパーミントオイルカプセルは、特に腹痛、腹部膨満感、ガスなど、IBSの一般的な症状を短期的に緩和するのに、ある程度有用性があるというエビデンスがあります。
(※補足:日本では、ペパーミントのエッセンシャルオイルの経口(口から)摂取は認められていません)
長期的な有用性は確立されていません。2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインでは、IBSの全体的な症状を緩和するためにペパーミントを使用することが推奨されています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は低い」)。
研究でわかったことは?
- 2021年に公表された米国消化器病学会の診療ガイドラインでは、全般的なIBS症状の緩和にペパーミントの使用を推奨しています。(推奨は条件付きで、「エビデンスの質は低い」)。
- 2020年に報告された、オランダで実施された患者190例を対象としたランダム化二重盲検試験では、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(European Medicines Agency:EMA)が推奨する評価項目を使用した場合、8週間、小腸放出型または回腸結腸放出型のペパーミントオイルを投与しても、腹痛反応または全体的な症状緩和において統計的に有意な減少は認められませんでした。しかし、小腸放出型のペパーミントオイルは、腹痛、不快感、IBSの重症度を有意に減少させました。
- 2020年に報告されたシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスでは、患者4,644例を対象とした51件のランダム化比較試験において、IBSに対する水溶性食物繊維、抗痙攣薬、ペパーミントオイル、腸-脳神経調節物質を評価しました。レビューアらは、6件の試験のデータに基づき、全般的なIBS症状の改善の有用に関して、ペパーミントオイルが第1位であると評価しました。しかし、バイアスリスクが低いのは13試験のみであり、これらの知見にはかなりの不確実性があると思われます。
- 2021年に奉公されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、参加者133例を対象に、IBS症状の緩和におけるペパーミントオイルとプラセボの有用性を比較しました。その結果、両群とも6週間後には臨床的に有意な改善がみられました。しかし、いずれの評価項目(IBS-重症度評価システム得点の改善、IBS症状の全体的改善、症状の十分な緩和)においても、ペパーミントオイルとプラセボとの間に統計学的有意差は認められませんでした。重篤な有害事象は認められませんでしたが、プラセボと比較して、ペパーミントオイルでは有害事象の発生率が高く、有害事象に関連した脱落者も多かったと示しています。
- 2014年に報告されたシステマティックレビューと9件の研究(参加者総数726例)のメタアナリシスでは、ペパーミントオイルが全般的なIBS症状の改善と腹痛の改善においてプラセボよりも優れていることが分かりました。
安全性
- 腸溶性でないコーティングされたペパーミントオイルは、胸焼け症状を引き起こしたり悪化させたりすることがありますが、それ以外は短期的には一般的に安全と思われます。
薬草療法
一部の薬草療法がIBSの症状を改善することを示唆するエビデンスがあります。しかし、入手可能なデータの多くは、方法論が不十分でサンプル数が少ない研究に基づいています。
研究でわかったことは?
- 2021年に報告された3,323例を対象とした28件の研究のネットワークメタアナリシスでは、中国漢方薬がIBS患者のさまざまな臨床症状の緩和とQOLの改善に有用である可能性があるという質の低いエビデンスが示されました。
- 2017年に報告された二重盲検、ランダム化、プラセボ対照試験では、参加者99例が、クルクミノイドと異なるクルクマ属のエッセンシャルオイル(精油)、魚油、ペパーミントオイル、キャラウェイオイル、ビタミンB1、B9、D3を混合したハーブ療法(IQP-CL-101)を受けたところ、プラセボと比較してIBSの症状が大幅に軽減したことが分かりました。
- 2019年に報告された、下痢型過敏性腸症候群(diarrhea-predominant irritable bowel syndrome :IBS-D)の女性240例を対象としたランダム化比較試験では、クロトン・レクレリ(Croton lechleri)の樹液から抽出された有効成分クロフェレマーは、プラセボと比較して、痛みや不快感のない日数に有意な効果は認められませんでした。しかし、試験終了後に行われた解析では、クロフェレマーはFDAの腹痛月次反応エンドポイントに基づき、プラセボと比較して腹痛を改善したことから、クロフェレマーがIBS-Dの疼痛管理に役割を果たすかもしれないことが示唆されました。
- 2006年に報告されたコクランレビューによる、IBS患者7,957例を対象とした75件のランダム化比較試験のレビューでは、一部の薬草療法がIBSの症状を改善するかもしれないものの、厳密さに欠ける試験による肯定的な結果は、不適切な方法論、サンプルサイズの小ささ、確認データの不足により、慎重に解釈すべきであると結論づけました。
安全性
- ハーブ系サプリメントには何十種類もの化合物が含まれ、その成分のすべてがわかっていないかもしれません。
- ハーブの中には、医薬品と相互作用するものもあります。例えば、セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)は、シトクロムP-450酵素と腸P-糖タンパク質の強力な誘導物質です。セントジョーンズワートとシクロスポリン、抗レトロウイルス薬インジナビル、経口避妊薬、クマディン、ジゴキシン、ベンゾジアゼピン系などとの臨床的に重大な相互作用が報告されています。
- ハーブの中には重篤な副作用を引き起こすものもあります。例えば、コンフリーやカバは肝毒性を引き起こす可能性があります。
鍼治療
偽鍼治療と比較したランダム化比較試験では、鍼治療はIBSの症状の重症度や健康関連QOLの改善において、プラセボと比較して優位性は認められませんでした。他の研究では、鍼治療は2種類の鎮痙剤よりも大きな有用性を示したようですが、これらの有用性が患者の嗜好や改善への期待によるものである可能性は否定できません。
研究でわかったことは?
- 2021年に報告されたシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、IBS患者3,220例を対象とした24件の研究が対象とされましたが、鍼治療と薬物療法を比較した研究では、IBS症状の緩和において鍼治療が優れていることが分かりました。薬物療法や漢方薬を含む他の治療法への補助的介入として鍼治療を行うと、IBSの症状の治療における臨床効果の改善に有用でした。しかし、鍼治療はIBS症状の改善において偽鍼治療より優れてはいませんでした。著者らは、レビューされた研究のエビデンスの質は低から中程度であったと指摘しました。
- 2019年に報告された41件の研究(参加者総数3,440例)のメタアナリシスでは、鍼治療は偽鍼治療と比較してIBSの症状に対してそれ以上の有用性はないことが示されましたが、他の治療法と併用することで鍼治療が有用である可能性を示すいくつかのエビデンスがありました。
- 2014年に報告された6件のランダム化プラセボ対照試験のメタアナリシスでは、IBSの症状に対する鍼治療の一定の有用性が認められましたが、6件の研究のうち有用性を示したのは1件のみでした。著者らは、長期的な結果を確立したり、鍼治療を第一選択治療として推奨するにはデータが不十分であると結論づけました。
- 2012年に報告されたコクランレビューでは、参加者総数1,806例を対象とした17件のランダム化比較試験を検証しましたが、症状の重症度やQOLについて、偽鍼治療の対照群と比較して鍼治療で改善が見られるというエビデンスは見つかりませんでした。このレビューには、4件の中国における比較有効性試験も含まれており、鍼治療が、過敏性腸症候群の症状にわずかな改善効果があることが知られている2種類の鎮痙薬(ピナベリウム臭化物およびトリメブチンマレイン酸塩)よりも高い有用性をもたらすことが分かりました。しかし、これらの研究における鍼治療のベネフィット(有用性)が、患者の嗜好によるものなのか、改善への期待によるものなのかは不明でした。
安全性
- 鍼治療による合併症は比較的少ないと報告されています。それでも、滅菌されていない鍼の使用や不適切な治療の実施により、合併症が発生しています。
- 鍼治療が適切に行われないと、感染症、出血、気胸、中枢神経系の損傷など、重篤な副作用を引き起こす可能性があります。
ヨガ
ヨガやその他のタイプの運動がIBSに有用であることを示唆するわずかなエビデンスがあります。
研究でわかったことは?
- 2022年に報告されたコクランによるシステマティックレビューでは、IBS患者218例を対象とした5件のランダム化比較試験を解析し、ヨガやトレッドミル運動などの運動、または運動量を増やすためのサポートは、IBSと診断された人々の症状を改善するかもしれないものの、QOLや腹痛の改善にはつながらないことが示唆されました。しかし、この研究の著者らは、エビデンスの質は非常に低いと注意を促しています。
安全性
- ヨガは一般的に、資格を持ったインストラクターの指導のもとで適切に行えば、健康な人にとって安全な身体活動であると考えられています。
- 重傷になることはまれで、捻挫や肉離れが最も多いとされています。ヨガに伴う怪我のリスク(危険)は、衝撃の大きいスポーツ活動よりも低いとされています。
瞑想とマインドフルネス
瞑想とマインドフルネスがIBS患者の健康増進に有用であるという研究はほとんどなく、その結果も決定的なものではありません。
研究でわかったことは?
- 2018年に報告された、IBS患者695例を対象とした5件の研究のレビューでは、従来の治療に加えて、eヘルスによるマインドフルネス介入と患者教育または認知行動療法を併用することで、IBSを含む健康状態にある人々の一般的な健康状態を改善できると結論づけました。
- 2019年に報告されたシステマティックレビューと2件の研究(参加者165例)のメタアナリシスでは、マインドフルネス瞑想を割り当てられた参加者の症状は、対照群と比較して改善が見られなかったことが分かりました。著者らは、エビデンスの質は低いと指摘しました。
安全性
- 瞑想とマインドフルネスの実践は通常、ほとんどリスク(危険)がないと考えられています。
- マインドフルネスの実践が有害な影響を及ぼす可能性があるかどうかを検証した研究はわずかなため、安全性について断定的なことを言えるほどのエビデンスはありません。
リラクゼーション法
研究でわかったことは?
IBSに対するリラクゼーション法の使用に関する研究はほとんどなく、その結果も決定的なものではありません。
- 2021年に報告されたIBS患者278例を対象とした6件の研究のレビューと解析では、身体療法とプラセボの全体的な反応に違いは見られず、推定値の信頼性は低く、異質性は中程度であることが示されました。
安全性
- リラクゼーション法は一般的に健康な人には安全だと考えられています。ほとんどの研究において、悪影響を及ぼした副作用は報告されていません。しかし、時折、不安の増大、侵入思考、コントロールを失うことへの恐怖などのネガティブな経験が報告されることがあります。
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更新日:2025年3月10日
監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
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