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海外の情報

セレニウム
Selenium

最新版(英語版オリジナルページ)はこちら
英語版最終改訂年月(翻訳時):2016年2月

はじめに

セレニウムについての簡単な説明は、一般向けファクトシートを参照のこと。

一般向けファクトシートの翻訳サイトは以下を参照してください

セレニウム(セレン)は自然界に存在し、多くの食品に天然に含まれる微量元素で、さまざまなものに添加され、サプリメントでも摂取することができる。セレニウムは人の必須栄養素で、約25個のセレノプロテインがあり、生殖、甲状腺ホルモン代謝、DNA合成、酸化的傷害や感染の予防に重要な役割を果たしている[1]。

セレニウムには無機(セレニウム酸塩、亜セレニウム酸)と有機(セレノメチオニン、セレノシステイン)の2種類があり[2]、どちらもセレニウムのよい摂取源となる[3]。土壌には無機セレニウム化合物である亜セレニウム酸とセレニウム酸塩が含まれ、それらを植物が蓄積し大部分を有機セレニウム化合物であるセレノシステイン、セレノメチオニンやメチル誘導体に変換する。

セレニウムの多くは動物やヒトの組織でセレノメチオニンとして存在する。セレノメチオニンはセレニウムがメチオニンに非特異的に組み込まれたもので体内のタンパク質に存在する。セレニウムは主に骨格筋に貯蔵されており、全セレニウム量の約28%~46%を占める[3]。セレノシステインと亜セレニウム酸は還元されてセレニウム化水素を生成し、セレノリン酸に変換されてセレノプロテインに生合成される[4]。

セレニウムの測定には血漿や血清中のセレニウム濃度が一般的に用いられる[1]。血液や尿中の濃度は最近のセレニウムの摂取量を反映する。髪や爪のセレニウム含有量を分析すると、数カ月から数年にわたる長期間の摂取量を測定することができる。また、複数のセレノプロテイン(グルタチオンペルオキシダーゼ、セレノプロテインPなど)を定量化することで、セレニウムの機能的測定が行われる[3]。セレノプロテイン合成には、健康な人で一般的に8µg/dL以上の血漿・血清セレニウム濃度が必要である[5]。

推奨摂取量

米国科学アカデミー医学研究所の食品栄養委員会(FNB)が設定した食事摂取基準(DRI)には、セレニウムや他の栄養素の推奨摂取量が提示されている[6]。DRIは、健常人の栄養摂取の計画と評価に関する一連の基準値に対する総称である。これらの基準値は年齢や性別ごとに異なり、次のような項目がある。

  • 推奨栄養所要量(RDA):ほとんどすべての(97~98%)健常人が栄養所要量を満たすのに十分な平均1日摂取量。
  • 適正摂取量(AI):RDAを設定するためのエビデンスが不十分である場合に示され、十分な栄養が確保できると推定される値に設定されている。
  • 推定平均必要量(EAR):健常者の50%において所要量を満たすと推定される平均1日摂取量。通常、個人ではなく、母集団の栄養摂取量の妥当性を評価するために使われる。
  • 許容上限摂取量(UL):健康上の有害作用を引き起こすとは考えにくい1日最大摂取量。

表1では最新のセレニウムのRDA(µg)を表している。生後12ヵ月までの乳児には、FNBが母乳で育てられた健康な乳児の平均セレニウム摂取量と同等のAIを定めている。

表1:セレニウムの推奨栄養所要量(RDA)[6]

年齢 男性 女性 妊婦 授乳婦
生後6カ月以下 15 µg* 15 µg *
7~12カ月 20 µg* 20 µg*
1~3歳 20 µg 20 µg
4~8歳 30 µg 30 µg
9~13歳 40 µg 40 µg
14~18歳 55 µg 55 µg 60 µg 70 µg
19~50歳 55 µg 55 µg 60 µg 70 µg
51歳以上 55 µg 55 µg

*適正摂取量(AI)

セレニウムの摂取源

食品

魚介類や内臓はセレニウムの宝庫である[1]。筋肉の多い部位や、シリアルなどの穀物、乳製品などにも含まれる。飲料水に含まれるセレニウムの量は、多くの地域で栄養的に十分ではない[2,6]。アメリカ人の食事で主なセレニウムの供給源は、パン、穀物、肉、魚、卵である[7]。

植物性食品のセレニウム量は、土壌中のセレニウム量やその他の要因(土壌のpH値や有機物含有量など)で異なる。また、セレニウムが、植物が吸収しやすい形態であるかによっても変わる[2,6,8,9]。このため、植物性食品のセレニウム量は、地域によって大幅に変化する[1,2]。例えば、米国農務省食品成分データベースによると、ブラジルナッツのセレニウム含有量は1オンス当たり544 µgであるが、分析によって数値が大きく異なる[10-12]。

土壌のセレニウム含有量は植物のセレニウム量に影響し、その植物を動物が食べるため、動物性食品のセレニウム量も異なる[2,5]。しかし、土壌のセレニウム濃度が動物性食品のセレニウム量に及ぼす影響は、植物性食品に及ぼす影響より小さい。これは、動物が恒常性維持機構によって組織中のセレニウム濃度を維持するため、セレニウム濃度の予測が可能となるからである。また、調整された家畜飼料は一般的に同程度のセレニウムを含んでいる。

セレニウムの供給源となる食品を表2に記載している。

表2:セレニウムの供給源となる食品[10]
食品 1食当たり
(µg)
パーセント
DV*
ブラジルナッツ(30 ml、6~8個) 544 777
マグロ、キハダマグロ(加熱調理、90 ml) 92 131
カレイ(加熱調理、3オンス) 47 67
イワシ(油漬け缶詰、骨付き水なしソリッド缶詰、3オンス) 45 64
ローストハム(3オンス) 42 60
エビ(缶詰、3オンス) 40 57
強化マカロニ(ゆでたもの、1カップ) 37 53
ビーフステーキ(あぶり焼き、外もも肉90 ml) 33 47
七面鳥(あぶり焼き、骨なし3オンス) 31 44
牛レバー(焼いたもの、90 ml) 28 40
鶏の白身肉(あぶり焼き、90 ml) 22 31
カッテージチーズ(乳脂肪1%、1カップ) 20 29
玄米(長粒米、炊いたもの、1カップ) 19 27
牛挽肉(脂肪分25%、焼いたもの、90 ml) 18 26
卵(固ゆで、Lサイズ1個) 15 21
パフ小麦の強化シリアル(1カップ) 15 21
全粒粉パン(1枚) 13 19
ベークドビーンズ
(プレーンまたはベジタリアン缶詰、1カップ)
13 19
非強化オートミール
(レギュラーまたはクイック、調理済み、1カップ)
13 19
ほうれん草(ゆでて冷凍したもの、1カップ) 11 16
牛乳(脂肪分1%、1カップ) 8 11
プレーンヨーグルト(低脂肪、1カップ) 8 11
レンズ豆(ゆでたもの、1カップ) 6 9
精白パン(1枚) 6 9
スパゲッティソース、マリナラソース(1カップ) 4 6
カシューナッツ(ドライロースト、30 ml) 3 4
コーンフレーク(1カップ) 2 3
グリーンピース(ゆでて冷凍したもの、1カップ) 2 3
バナナ(スライスしたもの、1カップ) 2 3
ベイクドポテト(皮付き1個) 1 1
桃缶(液汁入り、1カップ) 1 1
にんじん(生、1カップ) 0 0
アイスバーグレタス(生、1カップ) 0 0

*DV = 1日摂取量。FDAは、消費者が食事全体における製品の栄養素含有量を比較するのに役立つようDVを設定した。セレニウムに対するDVは成人および4歳以上の小児で70 mcgである。DVが20%以上となる食品は高栄養源と考えられる

サプリメント

セレニウムはサプリメントで摂取することができ、マルチビタミン/ミネラルに含まれている。また、セレノメチオニン、セレニウム酵母(高濃度のセレニウムを含む培地で生育)、亜セレニウム酸ナトリウム、セレニウム酸ナトリウムなど、セレニウム単独のサプリメントもある[2,5,6]。人体でのセレノメチオニンの吸収率は90%以上であるが、亜セレニウム酸は約50%である[6]。

さまざまな形態のセレニウムについて、相対吸収率とバイオアベイラビリティを比較した研究はごくわずかである。ある研究では、セレノメチオニン、亜セレニウム酸ナトリウム、セレニウム酵母(約75%のセレニウムをセレノメチオニンとして含む)を用いて、十分なセレニウムを有する被験者を無作為に10グループに分け、プラセボ、セレニウム200 µg/日または600 µg/日を16週間投与した[13]。尿中排泄をもとにセレニウムのバイオアベイラビリティを測定したところ、セレノメチオニンが最も高く、また最も低いのは亜セレニウム酸であった。しかし、これらの形態のサプリメントが影響を与えたのは血漿中のセレニウム濃度だけであり、グルタチオンペルオキシダーゼ活性やセレノプロテインP濃度には影響しないため、被験者はセレニウムサプリメントを摂取し始める前に十分なセレニウムを有していたことが確認されている。

セレニウムの摂取状況

ほとんどのアメリカ人は十分な量のセレニウムを摂取している。2009~2010年の米国国民健康栄養調査(NHANES)によると、2歳以上のアメリカ人では、食事によるセレニウムの平均摂取量は108.5 µg/日、食事とサプリメントの両方では120.8 µg/日となっている[14]。成人男性の摂取量(食事のみ:134 µg/日、食事とサプリメント:151 µg/日)は成人女性(食事のみ:93 µg/日、食事とサプリメント:108 µg/日)よりも多くなっている。米国では、18%~19%の成人と小児がセレニウムを含有するサプリメントを利用している[15]。

2003~2004年のNHANESによると、40歳以上の米国成人の血清セレニウム濃度の平均値は13.67 µg/dL[16]である。男性は女性より血清セレニウム濃度が高く、また、白人はアフリカ系米国人よりも高くなっている[16-18]。

米国とカナダにおけるセレニウム摂取量と血清セレニウム濃度は地域によって多少変化する。土壌や地元産の食材に含有されるセレニウム量が異なるからである[6,19]。例えば、米国中西部・西部在住者では、南部・北東部在住者よりセレニウム濃度が高い [18,19]。食品輸送網の拡大により、セレニウムの少ない地域に住む人々が十分な量のセレニウムを摂取することができる[6]。

セレニウム欠乏症

セレニウムの欠乏は生化学的変化をもたらし、ある種の病気を発症するようなストレスを受けやすくなるおそれがある[6]。例えば、セレニウム欠乏症に二次的ストレス(おそらくウィルス感染)を伴うと、ケシャン病(克山病)を引き起こす。ケシャン病は1970年代に中国の一部の地域で発生した心筋症の一種で、中国政府がセレニウム補給政策を実施する前に起こった[2,5,8,20]。補給政策実施前は、ケシャン病発症地域の成人におけるセレニウムの平均摂取量は11 µg/日にすぎなかった。最低20 µg/日の摂取量で成人のケシャン病を予防できる[6].

セレニウム欠乏症は男性不妊とも関連があり、また、カシン・ベック病の一因である可能性もある。カシン・ベック病は中国、チベット、シベリアなど低セレニウム地域で発症する変形性関節症の一種である[1,2,5,6,8,21]。セレニウム欠乏症はヨード欠乏症を悪化させ、乳幼児のクレチン病リスクを高める可能性があると考えられる[2,5]。

セレニウム欠乏のリスク群

セレニウム欠乏症は米国とカナダでは非常にまれで、隔離された地域でのみ、極めてまれに明らかな症状が現れる [6]。セレニウム摂取量が不足する可能性が高いのは下記のグループである。

セレニウム欠乏症地域在住者

低セレニウム地域である北アメリカでもセレニウムの摂取量はRDAをはるかに超えている[18,19]。しかし、低セレニウム地域で生育した野菜を中心とした食事を取る国の人々は、セレニウム欠乏症のリスクがある[6]。セレニウム摂取量が世界で最も少ないのは中国の一部の地域で、土壌中のセレニウム含有量が非常に低く、菜食を中心とする人々が大部分を占めている[5]。また、ヨーロッパでも、特に完全菜食主義者の平均セレニウム摂取量が低い国々がある[5,9,22]。ニュージーランドでもかつてはセレニウム摂取量が低かったが、国が高セレニウム小麦の輸入量を増やして以降セレニウム摂取量が増加した[9]。

腎臓透析を受けている人

血液透析を長期間行っている患者のセレニウム濃度は、健常者と比較して非常に低い。血液透析は血中から一部のセレニウムを除去する[23]。さらに、透析患者は尿毒症による食欲不振や食事制限のため、食事からのセレニウム摂取量が低下するおそれがある。セレニウムの補給は透析患者の血中セレニウム濃度を上昇させるが、透析患者でサプリメントが臨床的に有効であるかを判断するには、さらなるデータが必要である。

HIV感染者

HIV感染者ではセレニウム濃度の低下がよく見られる。おそらく、セレニウム摂取量の不足(特に発展途上国)、下痢による過度の喪失、吸収不良によるものであると考えられる[2,24]。観察研究では、HIV感染者におけるセレニウム濃度の低下と、心筋症、死亡、妊婦から胎児へのHIVの垂直感染、子供の早期死亡などのリスク増加との間で、関連が見られた[25-29]。成人HIV感染者にセレニウムサプリメントを投与した複数の無作為化臨床試験では、セレニウムを補給することで入院のリスクを減少させ、HIV-1ウィルス量が増加するのを防ぎ、その結果、感染と闘う白血球の1種であるCD4細胞の数を増やすことがわかった[30,31]。しかし、ある臨床試験では、妊婦のセレニウムサプリメントの摂取は、乳幼児の早期死亡を防ぐが母体のウィルス量やCD4細胞数には影響しない可能性が示された[32,33]。

セレニウムと健康

本節では、セレニウムが関与すると考えられるがん、心血管疾患、認知低下、甲状腺疾患について説明する。

がん

セレニウムは、DNA修復、アポトーシス、内分泌系、免疫系やその他のメカニズム(抗酸化作用など)に影響するため、がんの予防に役立つ可能性がある[2,9,34,35]。

疫学研究では、セレニウム量の状態と、大腸癌、前立腺癌、肺癌、膀胱癌、皮膚癌、食道癌、胃癌のリスクとの間で、逆相関が示唆されている[36]。セレニウムとがん予防に関する研究のコクランレビューによると、セレニウム摂取量の最も低いグループと比較して、セレニウム摂取量の最も高いグループでは、がんリスクが31%低下し、がんによる死亡リスクも45%低下しており、また、膀胱癌リスクは33%低下し、男性の前立腺癌リスクは22%低下していた[36]。レビューによるとセレニウム摂取量と乳癌リスクとの関連は見られなかった。20の疫学的研究を用いたメタ解析では、足の爪、血清、血漿中のセレニウム濃度と、前立腺癌リスクとの間で、逆相関する可能性が示された[37]。

セレニウムのサプリメントを用いたがん予防に関する複数の無作為化対照試験では、矛盾する結果が出ている。コクランレビューでは、9つの無作為化臨床試験をもとに、セレニウムは消化管癌の予防には有用である可能性があると結論づけているが、より適切にデザインされた複数のランダム化臨床試験による検証を要するとしている[38]。皮膚の基底細胞癌または扁平上皮癌の既往歴を有する米国成人1,312人を対象とした、栄養とがん予防に関する二重盲検ランダム化対照試験の二次分析では、セレニウムパン酵母で200 µg/日のセレニウムを6年間摂取すると、前立腺癌リスクが52~65%低下することがわかった[39]。この効果が最も高く現れたのは、ベースラインの前立腺特異抗原(PSA)値が4 ng/mL以下でセレニウム濃度が最低三分位の男性群であった。セレニウムとビタミンEの癌予防臨床試験(SELECT)は、米国・カナダ・プエルトリコの50歳以上の男性35,533人を対象とした無作為化対照試験で、セレニウム200 µg/日単独またはビタミンE 400 国際単位(IU)/日との併用では、5.5年間摂取した時点で、前立腺癌リスクとの関連性は見られないことが示され中止となった。[40]。被験者がサプリメントの摂取を中止後1.5年間追跡調査したところ、セレニウムサプリメントと前立腺癌リスクとの有意な関連性は見られないことが確認された[41]。

2003年にFDAは、セレニウムを含む食品やサプリメントに対し、次のような条件付き健康表示(ヘルスクレイム)を認めた。「セレニウムを摂取することで一部のがんのリスクを低下させる可能性を示す科学的データがある。しかし、FDAはこのデータを限定的なものであり確定的ではないと判断している。」[42]。セレニウム濃度とがんリスクの関連を確認し、セレニウム補給ががんの予防に有用であるかを判断するためには、さらなる研究が必要である。

心血管疾患

セレノプロテインは脂質の酸化修飾を防ぐのに役立ち、炎症を低下させ、血小板が凝集するのを防ぐ[9]。そのため研究者らは、セレニウムの補給が心血管疾患リスクや心血管疾患による死亡リスクを低下させる可能性を示唆している。

心血管疾患におけるセレニウムの役割に関する疫学的データでは、矛盾する結論が出ている。複数の観察研究では、血清セレニウム濃度と、高血圧リスクや冠動脈疾患リスクが逆相関することがわかった。25の観察研究を用いたメタ解析では、セレニウム濃度が低い人は冠動脈疾患のリスクが高いことがわかった[43]。しかし、セレニウム濃度と心疾患のリスクや心臓死のリスクとの間に、統計的に有意な関連が見られなかった研究や、セレニウム高値が心血管系疾患のリスクの増加と関連するとの結果となった研究もある[44-46]。

セレニウムの補給が心血管系疾患のリスクを低下させるかについて調べた複数の臨床試験がある。60~74歳の健常成人474人を対象としたランダム化プラセボ対照試験では、ベースライン時の血漿セレニウム濃度の平均値は9.12 µg/dLで、プラセボまたはセレニウムを100、200、300 µg/日で6カ月間投与した[47]。プラセボ群と比較して、セレニウムの補給により総血漿コレステロール値、高密度リポタンパク質(HDL)血漿コレステロール値(総コレステロール値からHDL値を引いた値)が低下したが、300 µg/日投与群ではHDL値が有意に増加した。また、その他の臨床試験では、セレニウム200 µg/日単独またはセレニウム100 µg/日を含有するマルチビタミン・ミネラル錠の投与は、心血管系疾患のリスクや心臓死のリスクを低下させないとしている[48-50]。セレニウム単独補給と心血管系疾患の一次予防に関する臨床試験の総説では、セレニウムが致死的・非致死的心血管系イベントに対して、統計的に有意な影響を与えないとされている[51]。これらの臨床試験では、ほぼすべての被験者が栄養状態の良好な米国成人男性である。

これまでの限定的な臨床試験のデータは、特に食事から十分なセレニウムをすでに摂取している健康な人が、心疾患の予防のためにセレニウムサプリメントを用いることがよしとするものではない。心血管の健康状態に対する、食事やサプリメントに含まれるセレニウムの有用性をより理解するためには、さらなる臨床試験が必要である。

認知低下

血清セレニウム濃度は加齢に伴って低下する。セレニウム濃度が必要最低限まで低下したり不足したりすることは、加齢に伴う脳機能の低下に関連する可能性があり、おそらく、セレニウムによる抗酸化活性が低下するためだと考えられている[52,53]。

複数の観察研究で矛盾する結果が出ている[54]。2つの大規模試験では、ベースラインの血漿セレニウム値が低い被験者は、時間とともに認知機能が低下しやすい傾向にあったが、これらの被験者でセレニウムが不足していたかどうかについては不明である[52,55,56]。米国高齢者4,809人に関するNHANESのデータを分析したところ、血清セレニウム値(11.3 µg/dL未満から13.5 µg/dL以上)と記憶力テストのスコアに関連は見られなかった[57]。

研究者らは、セレニウムを含有する抗酸化サプリメントの摂取が高齢者の認知機能障害リスクを低下させるかについて調べている。45〜60歳の被験者4,447人を対象としたフランスの臨床試験(Supplémentation en Vitamines et Minéraux Antioxydants (SU.VI.MAX))のデータを分析したところ、アスコルビン酸120 mg/日、ビタミンE 30 mg/日、βカロテン6 mg/日、セレニウム100 mcg/日、亜鉛20 mg/日を8年間摂取すると、プラセボと比較して、試験終了6年後のエピソード記憶テストと語義能力テストのスコアが高くなっていた[58]。しかし、本試験で見られた効果に対するセレニウム単独での影響は認められなかった。9つのプラセボ対照試験に関する総説では、セレニウムの補給がアルツハイマー病を予防するかについて判断するには、これまでの臨床データでは不十分であると結論づけている[54]。

セレニウムの補給が高齢者の認知低下の予防や治療に役立つかを判断するには、さらなるデータが必要である。

甲状腺疾患

甲状腺では体内の他の臓器よりもセレニウム濃度が高く、また、ヨウ素と同様に、セレニウムも甲状腺ホルモンの合成や代謝に重要な働きをしている。

セレニウム値と甲状腺機能の関係を裏付ける疫学的データとしては、1,900人のデータを分析したSU.VI.MAX試験などがあり、この試験では血清セレニウム濃度と、甲状腺の体積、甲状腺腫リスク、軽度のヨウ素欠乏症患者における甲状腺組織の損傷リスクとの間で、逆相関が示されている[59]。しかし、これらの結果は女性でのみ統計的に有意であった。軽度のヨウ素欠乏症の成人患者805人を対象としたデンマークの横断研究でも、女性では血清セレニウム濃度と甲状腺体積との逆相関が見られた[60]。

甲状腺疾患患者へのセレニウム補給に関する無作為化対照試験では、さまざまな結果が出ている。あるランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、60~74歳の健常成人368人にセレニウム100、200、300 µg/日を6カ月間投与したところ、血漿セレニウム濃度が有意に増加したにもかかわらず、甲状腺機能に影響は見られなかった[61]。別の無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、セレニウム(亜セレニウム酸ナトリウム)200 µg/日、ペントキシフィリン(抗炎症薬)1,200 mg/日、またはプラセボを、軽度のグレーブス病眼症患者159人に6カ月間投与して影響を比較した[62]。プラセボ群と比較して、セレニウム群ではQOL(生活の質)の向上が見られたが、ペントキシフィリン群では見られなかったと報告されている。さらに、眼科系転帰の改善が認められた被験者は、セレニウム群で61%であったが、プラセボ群では36%であった。また、軽度の疾患進行(悪化)が認められたのはセレニウム群で7%のみであったが、プラセボ群では26%であった。

甲状腺ペルオキシダーゼ抗体を持つ女性は、妊娠中に血中サイロキシン濃度が低下しやすく、また、出産後は甲状腺機能障害や甲状腺機能低下症を起こしやすい傾向がある[9]。妊娠中の甲状腺機能低下症の治療介入に関するコクランレビューでは、甲状腺ペルオキシダーゼ抗体を持つ妊婦151人にセレニウム(セレノメチオニン)200 µg/日を投与した臨床試験[63]に基づいて、同抗体を持つ妊婦におけるセレノメチオニンの補給は、特に産後甲状腺炎の低下に有望な治療法であると結論づけている[64]。しかし、レビューでは、大規模無作為化臨床試験を実施し、有効性に関する質の高いデータを収集する必要があるとしている。

セレニウムの補給が甲状腺疾患の予防や治療に役立つかを判断するには、さらなる研究が必要である。

セレニウムの過剰摂取による健康リスク

有機・無機セレニウムを慢性的に大量摂取すると、類似した影響が見られる[6]。過剰摂取の早期的な指標となるのは、呼気のニンニク臭や口中の金属味である。慢性的なセレニウムの大量摂取やセレニウム中毒で最もよく見られる臨床徴候としては、髪や爪が喪失したりもろくなったりする。その他に、皮膚や神経系の病変、嘔気、下痢、皮膚発疹、斑状歯、疲労、過敏症、神経系異常などの症状が見られる。

すでに述べたように、ブラジルナッツは非常に大量のセレニウムを含有する(68~91 µg/個)ため、定期的に摂取するとセレニウム毒性を引き起こす場合がある。急性セレニウム毒性は、誤って調剤され極めて大量のセレニウムを含有する市販薬の服用によって起こる[2,5]。2008年には、ラベルに記載された量の200倍のセレニウムを含む液体サプリメントを摂取した201人で、重篤な副作用が報告された例がある[65]。急性セレニウム毒性は、重度の胃腸症状や神経症状、急性呼吸窮迫症候群、心筋梗塞、脱毛、筋肉圧痛、ふるえ、立ちくらみ、顔面紅潮、腎不全、心不全を引き起こし、まれに死亡することもある[2,6]。

FNBは、髪や爪の脆弱性や喪失が認められるセレニウム量をもとに、食事やサプリメントから摂取するセレニウムの耐容上限量(UL)を定めている(表3参照)[6]。

表3:セレニウムの耐容上限量(UL)[6]*

年齢 男性 女性 妊婦 授乳婦
生後6カ月以下 45 µ g 45 µg 
7~12カ月 60 µg 60 µg
1~3歳 90 µg 90 µg
4~8歳 150 µg 150 µg
9~13歳 280 µg 280 µg
14~18歳 400 µg 400 µg 400 µg 400 µg
19歳以上 400 µg 400 µg 400 µg 400 µg

*乳幼児のセレニウム供給源は母乳、粉ミルク、食事のみとしている。

医薬品との相互作用

セレニウムはある種の医薬品と相互作用する。中にはセレニウム濃度に悪影響を及ぼす医薬品もあるので、以下に例を記載する。定期的にこれらの医薬品を服用している人は、セレニウム摂取について医療スタッフと話し合う必要がある。

シスプラチン

シスプラチンは化学療法に用いるプラチナ製剤で、卵巣癌、膀胱癌、肺癌などの治療に用いられている。シスプラチンは髪や血清中のセレニウム濃度を低下させることがあるが、それが臨床的に有意な影響を及ぼすかについては不明である[66,67]。複数の小規模な研究では、セレニウムの補給がシスプラチン毒性を低下させうるとしているが[68]、コクランレビューでは、セレニウムの補給が化学療法の副作用を緩和するというデータは不十分であると結論づけている[69]。

セレニウムと健康的な食事

米連邦政府が発行する「アメリカ人のための食生活指針2015-2020」では、「栄養必要量は主に食事から摂取すべきです。…栄養豊富な食品には必須ビタミンやミネラルのほかに食物繊維や健康に役立つ天然物質が含まれています。
推奨量を摂取できない1種類または複数の栄養素の補充については栄養強化食品やサプリメントが有用である場合もありうる。」と述べています。 [70]

健康的な食事に関する詳細は Dietary Guidelines for Americans (アメリカ人のための食生活指針)および米国農務省の MyPlate(私の食事)を参照してください。

「アメリカ人のための食生活指針」では、健康的な食事を以下のように説明しています。

  • さまざまな野菜、果物、全粒穀物、無脂肪乳もしくは低脂肪乳および乳製品、油脂類を取り入れます。
  • 多くの全粒穀物および牛乳やヨーグルトなどの乳製品は優れたセレニウム源です。
  • インスタント朝食シリアルにはセレニウムが強化されたものがあり、果物や野菜にもセレニウムを含むものがあります。
  • また健康的な食事には海産物、赤身肉、鶏肉、卵、豆類、ナッツ類、種子類、大豆製品などの蛋白質を含有するさまざまな食品を取り入れます。
  • 豚肉、牛肉、七面鳥肉、鶏肉、魚類、貝類、甲殻類および卵はセレニウムが豊富です。
  • 一部の豆類、特にブラジルナッツはセレニウムを含有しています。
  • 飽和脂肪酸およびトランス脂肪酸、添加糖およびナトリウムは制限すべきです。
  • 1日に必要なカロリー摂取量を超えないようにしましょう。

参考文献

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更新日:2018年3月22日

監訳:伊藤壽記(大阪大学)、大野智(帝京大学) 翻訳公開日:2014年3月28日

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