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ホールパーソン・ヘルス
Whole Person Health

本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。

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英語版最終アクセス確認日:2022年12月1日

ホールパーソン・ヘルスとは?

ホールパーソン・ヘルスとは、単に各臓器や身体システムだけでなく、人間全体を見て、健康または病気のいずれかを促進する複数の要素を考慮することです。それは、相互に関連する複数の生物学的、行動学的、社会的、環境的領域において、個人、家族、コミュニティ、集団が健康改善に向けて支援し、力を与えることを意味します。ホールパーソン・ヘルスは、特定の病気の治療ではなく、健康を回復させ、回復力(レジリエンス)を促進し、生涯に渡って病気を予防することに焦点を当てます。

なぜホールパーソン・ヘルスが重要なのか?

健康と病気は別々に切り離された状態ではなく、健康または病気という2つの異なる方向に向かう道筋・過程で起きているものです。

この道筋・過程では、生物学的な体質、食生活の乱れ、座りっぱなしの生活、慢性的なストレス、睡眠不足などの不健康な行動、そして社会的側面などの多くの要因、つまり人が生まれ、育ち、暮らし、働き、年を取る状況が、複数の器官系の慢性疾患を引き起こす可能性があります。一方、セルフケア、生活様式、行動への介入は、健康への復帰に役立つ可能性があります。

糖尿病、心血管疾患、肥満変形性関節疾患などの慢性疾患は、慢性疼痛うつ病、オピオイド誤用を伴うこともありますが、こうした状態はすべて慢性的なストレスによって悪化します。一部の慢性疾患は、COVID-19感染に伴う即時および長期のリスクを増加させます。人が生きてきた状況を理解し、早い段階で行動に対処し、ストレスを管理することは、複数の病気を予防するだけでなく、人の生涯にわたって健康を回復し、病気への進行を食い止めることにつながります。

現在、医療の現場ではホールパーソン・ヘルスが活用されているのでしょうか?

一部の医療制度やプログラムでは、ホールパーソン・ヘルスをより重視しています。

米国退役軍人省(Veterans Affairs、VA)のホールヘルスアプローチ

VA のWhole Health System of Care and Whole Healthアプローチは、退役軍人の健康(ヘルス)とウェルビーイングを改善し、慢性疾患の原因と思われる生活習慣と環境的要因に対処することを目的としています。このアプローチは、病気重視から、個人に合わせたアプローチにシフトしており、退役軍人が栄養、活動、睡眠、人間関係、環境などの分野で健康的な生活様式の変化を優先するよう、早いうちから生涯を通じて関わり、力を与えるものです。従来の検査や治療に、鍼治療、バイオフィードバック(生体自己制御)、マッサージ療法ヨガ瞑想などの補完・統合医療のアプローチを組み合わせています。

米国国防総省のトータル・フォース・フィットネス・プログラム(Total Force Fitness Program)

トータル・フォース・フィットネス・プログラムは、米国国防総省の軍医療システムにおいて、複数の派遣任務や米軍とその家族にかかる負担に対して、個々の部位あるいは症状だけでなく人間全体(ホールパーソン)を重視する、より全体的なアプローチの必要性に応えて生まれました。その焦点は、トータルフィットネスの考え方を、個人、家族、コミュニティ、米軍を含む全体の健康(ヘルス)、ウェルビーイング、回復力(レジリエンス)にまで広げることです。

ホールヘルス・インスティテュート(Whole Health Institute)

2020年に設立されたWhole Health Instituteのホールヘルスモデルは、人々が自分にとって最も重要なことを特定し、ホールヘルスへの道筋の計画を立てられるよう支援します。このモデルは、人々が自分の身体、心、精神を大切にするためのツールを提供し、医療チームと協力するとともに、家族、友人、コミュニティのサポートを活用できるようにするものです。

ノースカロライナ州保健社会福祉省(North Carolina Department of Health and Human Services)

ノースカロライナ州保健社会福祉省は、身体的、行動的、社会的健康の統合に焦点を当て、ホールパーソン・ヘルス・アプローチを医療制度に取り入れています。同州は、行動医療における連携を促し、住宅や高栄養食品の入手など、社会的条件における広範な不公平の解消を支援する措置をとっています。

心臓病回復のためのオーニッシュ・プログラム(Ornish Program)

心臓病回復のためのオーニッシュ・プログラムは、集中的な心臓リハビリテーション・プログラムであり、薬を服用したり、手術をしたりせずに、生活様式の改善によって冠動脈性心疾患の進行を逆転させることが示されています。このプログラムは、Medicare(米国の高齢者および障害者向け公的医療保険制度)や一部の健康保険会社の保険が適用されます。このプログラムでは、運動、禁煙、ストレス管理、社会的支援、自然食品や植物由来の低脂肪食など、生活様式を改善します。このプログラムは、医療専門家チームによって提供され、個人が生活様式を持続的に変化させるために必要なサポートを提供します。

ホールパーソン・ヘルスに関する研究からわかることは?

健康を維持し、慢性疾患を予防、治療、回復させるためには、健康的な行動、環境、政策が有効であることを示唆する研究が増えてきています。この研究には、Framingham Heart Study(フラミンガム心臓研究)、Nurses' Health Study(看護師健康調査)、Adventist Health Studies(アドベンティスト健康研究)など、生活様式、食事、遺伝、健康、病気との関連を評価した複数の大規模かつ長期的な疫学研究が含まれています。

しかし、多成分介入とホールパーソン・ヘルスに関するランダム化比較試験や他の種類の研究は不足しています。このような研究の実施や、エビデンス(科学的根拠)の適切な評価方法を見つけることが課題となっています。しかし、ホールパーソン・ヘルスに関する信頼性の高い厳密な研究に向けた新たな道を探る機会が生まれつつあります。

米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)は、ホールパーソン・ヘルスに関する研究を助成しますか?

はい、NCCIHは ホールパーソン・ヘルスに関する研究 を助成する予定です。(詳細は 、NCCIH Strategic Plan FY 2021–2025: Mapping a Pathway to Research on Whole Person Health(NCCIH戦略計画 2021-2025年度」:ホールパーソン・ヘルスに関する研究への道筋をつける) [英語サイト]をご覧ください。)

人間の健康のさまざまな領域にわたって存在する関連性の科学的理解を深めることで、研究者は、疾患がどのように相関しているかをよりよく理解し、これらの問題に対処する多成分介入を特定し、健康復帰を含む健康体験の連続性を通して個人を支援する最善の方法を決定することができるようになるのです。

関連トピック

参照文献

その他の参考文献
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  • Buettner D, Skemp S. Blue Zones: lessons from the world’s longest lived. American Journal of Lifestyle Medicine. 2016;10(5):318-321.
  • Chen T-L, Chang S-C, Hsieh H-F, et al. Effects of mindfulness-based stress reduction on sleep quality and mental health for insomnia patients: a meta-analysis. Journal of Psychosomatic Research. 2020;135:110144.
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  • Whole Health Institute website. Accessed at https://www.wholehealth.org/(英語サイト) on May 19, 2021.

さらなる情報

■ NCCIH 情報センター

米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。

米国内の無料通話: 1-888-644-6226
テレコム・リレー・サービス(Telecommunications relay service:TRS)。7-1-1
ウェブサイト:https://nccih.nih.gov/(英語サイト)
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)

■ 科学を知ろう

NCCIHと米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。科学を知ろう は、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。

  • 「Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)[英語サイト](NIH)
  • 科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法[NCCIH]
  • 「Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)[英語サイト](NIH)
  • ■ PubMed®

    米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法 」をご覧ください。
    ウェブサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/(英語サイト)

    謝辞

    NCCIHは、この出版物のレビューをしてくださったMary Beth Kester, M.S.とHelene M. Langevin, M.D.に感謝します。

    このサイトの情報は著作権で保護されておらず公開されています。複製も奨励されています。

    米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)は、個人の参考情報として、この資料を提供しています。この資料は、あなたのヘルスケア提供者(今かかっている医療機関等)の医学専門知識やアドバイスに代わるものではありません。NCCIHは、治療やケアについて意思決定をする場合は、必ず今かかっている医療機関※に相談することをお勧めします。この資料に記載されている特定の製品、サービス、治療法のいずれも、NCCIHが推奨するものではありません。

    (※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)この資料に記載されている特定の製品、サービス、治療法のいずれも、NCCIHが推奨するものではありません。
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    監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2023年3月7日

    ご注意:この日本語訳は、専門家などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、当ホームページの「ご意見・ご感想」でご連絡ください。なお、国立衛生研究所[米国]、国立補完統合衛生センター[米国]、国立がん研究所[米国]のオリジナルサイトでは、不定期に改訂がおこなわれています。
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