海外の情報
鍼治療
Acupuncture
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版改訂年月(翻訳時):2022年11月
鍼治療とは?
鍼治療は、施術者が皮膚に細い鍼を刺入し、健康上の問題を治療する手技です。鍼は、手で操作することもあれば、小さな電流で刺激することもあります(電気鍼療法)。鍼治療は、少なくとも2,500年前から何らかの形で利用されてきたと言われています。伝統的な中国医学から生まれたものですが、1970年代以降、世界中に普及しました。
鍼治療はどの程度普及しているのか?
世界保健機関(World Health Organization:WHO)によると、データを報告した129カ国のうち103カ国で鍼治療が行われています。
米国では、国民健康調査(National Health Interview Survey)のデータから、2002年から2012年の間に鍼治療の利用者が50%増加したことがわかっています。統計のある最新の2012年には、米国の成人の6.4%が鍼治療を利用したことがあり、過去12カ月間に利用したことがあると回答したのは1.7%でした。
鍼治療はどんなことに使うのか?
国民健康調査データによると、米国では鍼治療は腰痛、関節痛、頸部痛などの痛みに対して最もよく使われています。
鍼治療は科学的にどのように作用するのか?
鍼治療の作用は完全には解明されていません。しかし、鍼治療には神経系への作用、他の身体組織への作用、非特異的な作用(プラシーボ効果)の可能性を示唆するエビデンス(科学的根拠)があります。
- 脳内で起こっていることを画像化する方法を用いた研究を含む、動物や人を対象とした研究により、鍼治療が神経系機能に影響を与えるかもしれないことが示されています。
- 鍼治療は、鍼を刺入したところの組織に直接作用するかもしれません。このような作用は、結合組織で確認されています。
- 鍼治療には非特異的作用(主作用のメカニズムではなく、治療の付随的な作用による影響)があります。非特異的作用は、患者の治療に対する信念、施術者と患者の関係、その他鍼の刺入に直接起因しない要因によるかもしれません。多くの研究で、鍼治療の有益性は、皮膚を突き刺すが貫通しない器具を使用するなどの偽鍼治療(疑似的または偽の鍼治療)と比較した場合よりも無治療と比較した場合の方が、より大きいことがわかっています。これらの知見は、非特異的作用が鍼治療の痛みやその他の症状に対する有益な効果に関与していることを示唆しています。
- 最近の研究では、非特異的作用が興味深い方法で実証されました。前回の鍼治療で痛みが軽減された患者に、その時のビデオを見せ、再び治療が行われることを想像してもらいました。このビデオによる誘導イメージ療法は、大きな鎮痛効果を発揮しました。
痛みに対する鍼治療の有用性について、研究結果は?
鍼治療は、腰痛や頸部痛、変形性関節症の痛み、術後の痛みなど、いくつかの痛みに対して有用であるかもしれないと研究により示されています。また、乳がん患者に使用されるアロマターゼ阻害剤の使用に伴う関節痛を緩和するのに役立つかもしれません。
痛みを伴う症状(腰痛、変形性関節症、頸部痛、頭痛)を有する人を対象とした20件の研究(参加者6,376例)のデータを解析したところ、頸部痛を除くすべての症状で、鍼治療の有益な効果が治療終了後1年間継続することが示されました。
- 腰痛や頸部痛
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- 2018年のレビューでは、12件の研究(参加者8,003例)のデータから、鍼治療は腰痛や頸部痛に対して無治療よりも有用であり、10件の研究(参加者1,963例)のデータから、鍼治療は偽鍼治療よりも有用であることが示されています。鍼治療と無治療の差は、鍼治療と偽鍼治療の差より大きいものでした。鍼治療の鎮痛効果は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と同程度でした。
- 2017年に米国内科学会が発表した診療ガイドラインでは、慢性腰痛の初回治療として推奨される非薬物療法の選択肢の中に鍼治療が含まれています。鍼治療は、急性腰痛に推奨される治療法の一つでもあります。急性腰痛に対する鍼治療を支持するエビデンスは質が低く、慢性腰痛に対するエビデンスは質が中等度と判断されました。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「腰痛」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 変形性関節症
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- 2018年のレビューでは、10件の研究(参加者2,413例)のデータから、鍼治療は変形性関節症の痛みに対して無治療よりも有用であり、9件の研究(参加者2,376例)のデータから鍼治療は偽鍼治療よりも有用であることが示されています。鍼治療と無治療の差は、鍼治療と偽鍼治療の差より大きいものでした。これらの研究の参加者のほとんどは変形性膝関節症でしたが、中には変形性股関節症の人もいました。鍼治療の鎮痛効果は、NSAIDsと同程度でした。
- 2018年のレビューでは、変形性股関節症に対する鍼治療の6件の研究(参加者413例)を評価しました。そのうち2件の研究では、鍼治療と偽鍼治療を比較し、痛みに対する有用性については両者にほとんど差がないことを明らかにしました。他の4件の研究は、鍼治療と他のさまざまな治療法を比較しており、簡単に比較することはできませんでした。しかし、ある臨床試験では、医師による通常診療に鍼治療を加えることで、変形性股関節症患者の痛みや機能が改善されるかもしれないことが示されました。
- 米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)と関節炎財団(Arthritis Foundation)による2019年の診療ガイドラインでは、膝、股関節、手の変形性関節症に対する鍼治療を条件付きで推奨しています。このガイドラインでは、有用性を示した研究の中で最も多いのは変形性膝関節症であるとしています。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「変形性関節症」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 頭痛や偏頭痛
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- 2020年の片頭痛予防のための鍼治療とさまざまな薬物を比較した9件の研究のレビューによると、鍼治療の方がわずかに効果が高く、鍼治療を受けた研究参加者は薬物を受けた研究参加者と比べて副作用のために研究を脱落する可能性がはるかに低いことがわかりました。
- 鍼治療が片頭痛の頻度を減らすかもしれないことを示すエビデンスの質は中等度です(約5,000例を対象とした22件の研究の2016年の評価より)。また、これらの研究から得られたエビデンスでは、鍼治療は、偽鍼治療よりも優れているかもしれないことを示唆していますが、その差はわずかです。鍼治療が緊張型頭痛の頻度を減らすかもしれないという質が中等度から低いエビデンスがあります(約2,350例を対象とした12件の研究の2016年の評価より)。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「頭痛」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 筋・筋膜性疼痛症候群
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- 筋・筋膜性疼痛症候群は、筋肉とそれに関連する結合組織(筋膜)に由来する一般的な痛みです。「トリガーポイント」と呼ばれる圧痛のある結節が関係します。この結節を押すと、患者の痛みのパターンが再現されます。
- 筋・筋膜性疼痛症候群に対する鍼治療に関する少数の研究を複合的に解析した結果、トリガーポイントに鍼を打つと痛みの強さに好ましい効果がありましたが(5件の研究、参加者215例)、従来の経穴(ツボ)に鍼を打つと効果はありませんでした(4件の研究、参加者80例)。
- 坐骨神経痛
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- 坐骨神経痛は、腰から始まり両脚の後ろを走る坐骨神経の損傷や圧迫によって起こる、脚(通常は体の片側)の痛み、脱力、しびれ(無感覚)、うずきなどを伴います。
- 2015年に行われた2つのエビデンスの評価では、1つは参加者総数1,842例の12件の研究を含み、もう1つは参加者総数962例の11件の研究を含み、鍼治療は坐骨神経痛に役立つかもしれないが、明確な結論を出せるほど研究の質は高くない、と結論付けています。
- 術後疼痛
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- 手術後の痛みに関する11件の研究(参加者総数682例)の2016年の評価では、手術の1日後に鍼治療または関連技術を受けた患者は、手術後の痛みが少なく、オピオイド鎮痛剤の使用量も少なかったことがわかりました。
- がんの痛み
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- 2016年に行われた20件の研究(参加者1,639例)のレビューでは、鍼治療は従来の薬物療法よりもがん性疼痛の緩和に有用性がないことが示されました。しかし、鍼治療と薬物療法の組み合わせは、薬物療法単独よりも優れているかもしれないことを示すエビデンスがいくつかありました。
- アロマターゼ阻害剤と呼ばれる薬剤群は、ホルモン感受性乳がんの治療に有用であることが示されていますが、この薬剤は関節痛やこわばりを引き起こすことがあり、患者はこれらの副作用のために服用を中止することもあります。このような痛みに対して、鍼治療が有用であるかどうかが研究されています。
- 乳がん患者のアロマターゼ阻害剤による関節痛に対する鍼治療の5件の研究(参加者181例)の2017年のレビューでは、6~8週間の鍼治療が痛みの軽減に有用であるかもしれないと結論づけています。しかし、個々の研究は少数の女性を対象としたものばかりで、鍼治療の手技や測定方法もさまざまで、比較することは困難でした。
- 2018年の大規模研究では、アロマターゼ阻害剤を服用している早期乳がんの女性226例が対象となりました。この研究では、毎週2回、6週間の鍼治療を受けた女性は、偽の鍼治療または鍼治療を受けなかった参加者に比べて、関節痛が少なかったと報告されています。
- 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群
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- 慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群は、前立腺やその周辺に炎症がある男性の症状で、原因は不明です。
- 3件の研究(参加者204例)のレビューでは、鍼治療は偽鍼治療と比較して、前立腺炎の症状を軽減するかもしれないことが示唆されています。研究参加者のフォローアップが比較的短期間であり、研究数や参加者数も少ないため、鍼治療の有用性について明確な結論は得られていません。
- 過敏性腸症候群
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- 41件の研究(参加者3,440例)を対象とした2019年のレビューでは、過敏性腸症候群の症状に対して鍼治療は偽鍼治療よりも有用ではありませんでしたが、他の治療法に加えて鍼治療を使用すると有用である可能性を示すいくつかのエビデンスが示されました。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「過敏性腸症候群」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 線維筋痛症
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- 2019年に行われた線維筋痛症の人を対象とした12件の研究(参加者824例)のレビューでは、鍼治療は偽鍼治療よりも痛みの緩和において有意に優れていることが示されましたが、エビデンスの質は低い~中等度でした。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「線維筋痛症」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
痛み以外の症状に対する鍼治療に関する研究からわかることは?
鍼治療は、痛みの症状以外にも、少なくとも50の健康問題に対して研究されています。鍼治療は、季節性アレルギーの症状、女性の緊張性尿失禁、がん治療に伴う嘔気嘔吐を緩和するのに有用であるかもしれないというエビデンスがあります。また、喘息患者の症状を緩和し、生活の質を向上させるのに有用であるかもしれないが、肺機能を改善する効果は得られていません。
- 季節性アレルギー(アレルギー性鼻炎または花粉症)
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- 2015年に評価された、参加者2,365例を対象としたアレルギー性鼻炎に対する鍼治療の13件の研究結果では、鍼治療が鼻の症状を緩和するのに有用であるかもしれないことを示すエビデンスが得られました。また、鍼治療を受けた研究参加者は、投薬スコア(症状を治療するために使用する薬の量が少なかったという意味)も、アレルギーに関連する抗体の一種である免疫グロブリンE(IgE)の血中濃度も低かったという結果も得られました。
- 2014年の米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(American Academy of Otolaryngology–Head and Neck Surgery)の診療ガイドラインでは、医療従事者がアレルギー性鼻炎の患者に提供しうる選択肢の中に鍼治療が含まれています。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「季節性アレルギー」(英語サイト)をご覧ください。
- 尿失禁
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- 腹圧性尿失禁とは、咳やくしゃみ、笑い、体を動かすなどの動作によって膀胱が圧迫され、尿が漏れてしまう膀胱のコントロール問題です。
- 2017年に行われた約500例の腹圧性尿失禁の女性を対象とした研究では、電気鍼治療(6週間で18回)を受けた参加者の尿漏れが減少し、約3分の2の女性が50%以上の尿漏れの減少を示しました。これは、バイアスを回避するための現在の基準を満たした厳格な研究でした。
- がん患者における治療関連の嘔気と嘔吐
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- 専門家の間では、がん患者の治療に伴う嘔気や嘔吐に鍼治療が有用であるという意見が一般的ですが、この結論は主に、これらの症状を治療するための現在のガイドラインが採用される以前に行われた研究に基づいています。嘔気や嘔吐に対して、現在の標準的な治療法と併用した場合に、鍼治療が有用であるかは明らかにされていません。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「がん」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 喘息
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- 2017年にドイツで行われた研究では、日常的に喘息治療を受けている参加者357例を対象に、鍼治療を受けるか受けないかにランダムに振り分け、さらに喘息のために鍼治療を受けている1,088例も調査しました。通常診療に鍼治療を追加することは、通常診療のみと比較して、生活の質の向上と関連していました。
- 9件の先行研究(参加者777例)のレビューによると、従来の喘息治療に鍼治療を追加した場合、症状は改善されるが、肺機能は改善されないことが示されました。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「喘息」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- うつ
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- 2018年に報告された、うつに対する鍼治療に関する64件の研究(参加者7,104例)のレビューでは、鍼治療は従来の治療または無治療と比較して、うつの重症度を中程度に低下させるかもしれないと示唆されました。しかし、ほとんどの研究の質は低い、または非常に低いものであったため、これらの知見は慎重に解釈する必要があります。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「うつ」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 禁煙
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- 2021年に公表された禁煙治療に関する勧告では、疾病予防についてエビデンスに基づく推奨を行う専門家パネルである米国予防医学専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force)は、限られたエビデンスしかないため、禁煙治療としての鍼治療の使用について推奨を行いませんでした。この決定は、2014年に行われた、鍼治療が6カ月以上の禁煙結果に与える影響を調べた9件の研究(参加者1,892例)のレビューに基づくもので、有意な効果は認められませんでした。そのレビューに含まれるいくつかの研究では、鍼治療が短期間の禁煙にわずかながら有益である可能性を示すエビデンスが示されています。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「禁煙」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
- 不妊
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- 2021年に評価された、不妊治療としての体外受精の成功に対する鍼治療と偽鍼治療の有用性を比較した6件の研究(参加者2,507例)のレビューでは、鍼治療群と偽鍼治療群の間には、妊娠率や生児数における差は認められませんでした。
- 2020年に評価された、精子の数が少なく、精子の運動率が低い男性を対象に、精子の質を改善するための鍼治療の使用に関する12件の研究(参加者1,088例)のレビューでは、研究者らは、研究のデザインが多様であることや、一部の研究の質が低いことから、確固たる結論を導き出すにはエビデンスが不十分であると結論づけました。
- 手根管症候群
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- 2018年に報告された、参加者869例による12件の研究のレビューでは、鍼治療とレーザー鍼治療(鍼の代わりにレーザーを用いる治療法)は、偽鍼治療と比較して手根管症候群の症状にほとんどあるいは全く影響を及ぼさないかもしれないと結論づけられました。この症状に対する鍼治療の有用性が、他の治療法と比べてどうなのかは明らかにされていません。
- 上記のレビューに含まれていない2017年の研究では、手根管症候群の参加者80例が、3つの介入のうちの1つに無作為に割り当てられました。(1)症状が強いほうの方の手に鍼を打つ、(2)症状が強いほうの方の手とは反対側の足首付近の「遠位」部位に鍼を打つ、(3)非貫通型のプラセボ鍼を用いた局所偽鍼を打つ、である。3つの介入はすべて症状の重症度を軽減しましたが、局所鍼と遠位鍼は偽鍼よりも、手首と脳に望ましい変化をもたらすことができました。
- 更年期に伴うホットフラッシュ(ほてり)
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- 2018年に報告された、更年期に伴う血管運動症状(ほてりや寝汗などの関連症状)に対する鍼治療の研究についてのレビューでは、15件の研究(参加者1,127例)の以前のレビューと4件の新しい研究(追加参加者696例)の複合エビデンスを解析しました。解析の結果、鍼治療は鍼治療を行わない場合に比べ、症状の頻度や重症度を軽減することに優れていることが明らかになりました。しかし、鍼治療が偽鍼治療より優れていることは示されませんでした。
さらなる情報については、NCCIHのウェブサイト「更年期」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
耳鍼は何に有用ですか?
- 耳鍼は、耳の特定の部位を刺激する鍼治療の一種です。
- 慢性背部痛、がん性疼痛に対する耳鍼の研究では、有望な結果が得られています。
- 2019年に報告された、耳鍼や耳指圧(鍼で刺さない耳介療法の一種)の15件の研究(参加者930例)を対象としたレビューでは、治療により痛みの強さが有意に減少し、個別研究の80%で痛みに関する各種指標に良好な有用性が認められました。
- 2020年に報告された、がん性疼痛に対する耳鍼の9件の研究(参加者783例)のレビューでは、耳鍼は偽耳鍼よりも優れた疼痛緩和をもたらすことが示されました。また、耳鍼と薬物療法を併用した場合、薬物療法単独よりも痛みの緩和が良好でした。
- 安価で習得しやすい耳鍼は、「戦場鍼」と呼ばれ、米国国防総省や退役軍人省が痛みの治療に用いています。しかし、2021年に報告された、成人の痛みに対する戦場鍼の9件の研究(参加者692例)のレビューでは、この手技を無治療、通常ケア、遅延治療、偽戦場鍼と比較した場合、痛みの有意な改善は得られませんでした。
鍼治療は安全ですか?
- 鍼治療による合併症は比較的少ないことが報告されています。しかし、殺菌していない鍼の使用や不適切な治療が実施されると合併症がおこっています。
- 治療が不適切である場合、鍼治療により感染症、臓器穿刺、中枢神経系の損傷など重篤な副作用を引き起こします。
- 米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は、鍼を医療機器として規制しており、滅菌済みであること、単回使用であることを表示することを義務付けています。
鍼治療は健康保険が適用されますか?
- 健康保険の中には、鍼治療をカバーするものもあれば、しないものもあります。また、治療する症状によって、適用範囲が限定されることが多いです。
- 米国の全国代表的な調査である「医療費パネル調査」のデータを解析したところ、何らかの保険に加入している成人の鍼師の受診率は、2010~2011年の41.1%から2018~2019年には50.2%に増加したことが明らかになりました。
- Medicare(米国の高齢者および障害者向け公的医療保険制度)は、鍼治療を慢性腰痛の治療にのみ適用しています。2020年に補償が開始されました。鍼治療は最大12回までカバーされ、最初の12回で改善が見られた場合、さらに8回まで追加で受けることができます。鍼治療のMedicaid(連邦と州が負担し、州が運営する低所得者向け医療費補助制度)の適用範囲は州によって異なります。
鍼師は免許が必要ですか?
- ほとんどの州で鍼師の免許が取得できますが、免許取得の要件は州によって異なります。鍼師やその他の補完療法の施術者のライセンスについてのさらなる情報は、NCCIHのウェブページ「資格認定、ライセンス、および教育」(英語サイト)をご覧ください。(eJIM内)
NCCIHによる研究助成
NCCIHは、さまざまな疼痛および症状に対する鍼治療の有効性を評価し、身体が鍼治療にどのように反応し、鍼治療がどのように作用しうるかについて一層理解するための研究を助成しています。NCCIHが近年支援している研究には次のようなものがあります。
- 病院の救命救急室における鍼治療の使用可能性の評価。
- 慢性腰痛に対する鍼治療の効果が経頭蓋直流刺激との併用により増強されるかどうかの検証。
- 不安障害に対する携帯型鍼治療を用いた神経刺激治療の評価。
さらに考慮しなければならないこと
- 健康問題に対して医療機関の受診を後回しにするために鍼治療を用いてはいけません。
- 自分の健康を守るために、自分が行っている補完療法について今かかっている医療機関※に相談しましょう。そうすることで、十分な情報を得た上で意思決定をすることができます。
関連トピック
消費者向け
医療関係者向け
- 慢性疼痛に対する心身療法:概要
- Complementary Psychological and/or Physical Approaches for Cancer Symptoms and Treatment Side Effects(がんの症状および治療の副作用に対する心理・身体的な補完療法(英語サイト)
研究結果
- New Findings Suggest Acupuncture Stimulation Reduces Systemic Inflammation(鍼治療刺激による全身性炎症の抑制を示唆する新知見)(英語サイト)
- How the Body and Brain Achieve Carpal Tunnel Pain Relief via Acupuncture(鍼治療で手根管治療の痛みを和らげる身体と脳のしくみ)(英語サイト)
関連するファクトシート
- 腰痛
- 変形性関節症
- がんの症状に対する補完療法
- 慢性疼痛
- 中国伝統医学(TCM)
- 資格、免許と教育
- Paying for Complementary and Integrative Health Approaches(補完・統合医療にかかる費用)(英語サイト)
(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)
さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレタイプライター(TTY、聴覚障害者や難聴の方用):1-866-464-3615
ウェブサイト: https://nccih.nih.gov/(英語サイト)
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)
■ Know the Science(科学を知ろう):
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。「Know the Science(科学を知ろう)(英語サイト)」(eJIM内:一般向け・医療関係者向け)は、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。
Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(英語サイト) (NIH)
Know the Science: How To Make Sense of a Scientific Journal Article(科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法)(英語サイト)(eJIM内:一般向け・医療関係者向け)
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)(英語サイト) (NIH)
■ PubMed®
米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。
■ NIH Clinical Research Trials and You(NIHクリニカル・リサーチ・トライアル・アンド・ユー)
国立衛生研究所(NIH)[米国]が開設したウェブサイトです。一般の人々に、臨床試験の重要性や、どうすれば臨床試験に参加できるのかを知ってもらうために開設されました。サイトには、臨床試験に関する質問と回答、臨床試験の情報を探す方法(ClinicalTrials.govなどの情報検索サイトやその他の情報源)、臨床試験に参加した人の体験談などが掲載されています。臨床試験は、病気を予防、診断、治療するうえで、よりよい方法を見つけ出すために必要な試験です。
ウェブサイト: http://www.nih.gov/health-information/nih-clinical-research-trials-you(英語サイト)
■ Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures & Results (RePORTER)
RePORTERは、研究機関において、政府が助成し現在実施されている科学・医学研究プロジェクトに関する情報のデータベースです。
ウェブサイト: reporter.nih.gov(英語サイト)
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謝辞
NCCIHは、この出版物の2022年版からの更新における貢献に対して次の人に感謝します。
Pete Murray, Ph.D., David Shurtleff, Ph.D., and Helene M. Langevin, M.D., NCCIH
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更新日:2024年5月28日
大野智、富塚啓貴(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
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