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鍼治療
Acupuncture
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版改訂年月(翻訳時):2016年1月
要点は?
■ 鍼治療について解明されていることは?
鍼治療に関する研究(特に腰痛、頸部痛、変形性関節症/膝痛、頭痛)が数多くなされてきました。しかし研究者は、さまざまな健康状態に対する鍼治療の有効性について理解し始めたばかりです。
■ 鍼治療の有効性についてわかっていることは?
研究により、鍼治療はある種の疼痛状態をコントロールするのに有効である可能性が示唆されていますが、その他の健康問題に対するその価値に関する科学的根拠(エビデンス)は明らかではありません。
■ 鍼治療の安全性に関してわかっていること
鍼治療は、経験豊富で十分に訓練を受けた施術者が消毒針を使って行う場合、一般的に安全であると考えられています。不適切に行われた鍼治療は重篤な副作用を伴う場合があります。
鍼治療とは?
鍼治療とは多くの場合、施術者が身体の特定部位の皮膚に細い針を刺入することによりその部位を刺激するものです。中国の伝統医療の治療法のひとつです。
中国の伝統医療(英語サイト)について詳しくお知りになりたい方は、NCCIHのウェブサイト(英語サイト)をご覧ください。
科学的観点から見た鍼治療の有効性
多くの研究結果により、鍼治療は、腰痛、頸部痛、変形性関節症/膝痛など、慢性化することの多い痛みの緩和に効果がある可能性が示唆されています。また緊張性頭痛の頻度を減少し、片頭痛を予防する効果がある場合があります。従って鍼治療は、慢性痛のある人にとって考えられる妥当な選択肢となるでしょう。しかし臨床診療ガイドラインは、鍼治療の推奨に関して一貫性がありません。
頭部や身体への鍼治療の効果およびその評価は、今やっと理解され始めたところなのです。現時点でのエビデンスにより、鍼治療とは関係のない多くのファクター(効果を期待することや信じること等)が鍼治療の痛みへの有益な効果に重要な役割をはたしている可能性があることが示唆されています。
鍼治療についてもっと詳しくお知りになりたい方は、以下をご覧ください。
- 腰痛について
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- 2012年に行われた鍼治療研究の参加者に関するデータ解析では、腰痛と頸部痛に着目し、実際の鍼治療が鍼治療をしない場合や偽鍼治療よりも有用であることがわかりました。
- 2010年に行われた米国医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality)によるレビューでは、鍼治療は治療後すぐに腰痛を緩和しますが、その効果は長期間継続しないことがわかりました。
- 2008年の腰痛に対する鍼治療研究のシステマティックレビューでは、鍼治療と通常の治療との併用が、通常の治療単独よりも有効であるという強固な科学的根拠(エビデンス)が認められました。同じレビューでは、腰痛のある人に対する実際の鍼治療と偽鍼治療との効果に差がないという強固なエビデンスも認められました。
- 2007年に米国疼痛学会(American Pain Society)および米国内科学会(American College of Physicians)が発行した臨床診療ガイドラインでは、慢性腰痛患者のセルフケア(身体を動かす、温める、鎮痛剤を服用するなど患者が自分でできる実践法)に効果が見られない場合に医師が考慮すべき非薬物治療の一つとして鍼治療を推奨しています。
- 頸部痛について
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- 2009年の解析では、首痛に対し実際の鍼治療が偽鍼治療より有用であることがわかっていますが、この分析は少数のエビデンス(少数の参加者による3件のみの研究)を基にしています。
- 14,000例を上回る大規模なドイツの研究では、首痛の通常ケアに鍼治療を追加する効果について検討しています。鍼治療を受けた参加者が、鍼治療を受けなかった参加者よりも、非常に痛みが緩和したと報告したことが認められていますが、研究者らは実際の鍼治療と偽鍼治療とを比較していません。
- 変形性関節症/膝痛について
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- 2014年に行われたオーストラリアの臨床研究(参加者男女282例)では、鍼治療やレーザー鍼治療が無治療より、変形性関節症の膝痛を中等度に緩和しましたが、偽レーザー鍼治療よりも緩和しなかったことが示されました。参加者は8~12回の鍼治療と偽鍼治療を12週間に渡って受けました。これらの研究結果は過去の研究結果とほぼ一致しており、変形性関節痛を緩和する点で、鍼治療は無治療より常に有効ですが、偽鍼治療より必ずしも有効ではないことが示されています。
- 2012年に行われた鍼治療研究の参加者に関する大規模データ解析では、実際の鍼治療は、偽鍼治療または鍼治療をしない場合より変形性関節痛に有用であることがわかりました。
- 2010年に行われた膝関節または股関節の変形性関節症に対する鍼治療研究のシステマティックレビューでは、実際の鍼治療は、偽鍼治療や鍼治療をしない場合より変形性関節痛に有用であると結論付けています。実際の鍼治療と偽鍼治療にほとんど差がみられませんが、鍼治療と鍼治療をしない場合には大きな差がみられました。
- 頭痛について
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- 2012年に行われた鍼治療研究の参加者に関する解析は、片頭痛と緊張性頭痛に着目しました。解析では、頭痛の頻度や重症度の改善において、実際の鍼治療が、鍼治療をしない場合または偽鍼治療よりも有効であることが示されました。
- 2009年の研究のシステマティックレビューでは、実際の鍼治療は偽鍼治療または鎮痛薬と比較して、緊張性頭痛の患者に有用であることが結論付けられました。2008年の研究のシステマティックレビューでは、緊張性頭痛の重症度や1か月あたりの頭痛の発生頻度において、実際の鍼治療は偽鍼治療よりわずかに改善させることが、示唆されています。
- 2009年のシステマティックレビューでは、片頭痛の基本的治療に鍼治療を追加した場合、片頭痛の発症頻度を低減させることが認められました。しかし実際の鍼治療と偽鍼治療とを比較する研究では、これらの治療の差は偶然による可能性があることが認められました。
- その他の症状について
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- 11件の臨床試験(参加者1,200を上回る)のシステマティックレビューの結果では、鍼治療(およびツボ刺激)ががん治療に伴う特定の症状に有用である可能性があることを示唆しています。
- 鍼治療はうつ病患者に有用であるかどうかを明確にするエビデンスは、十分ではありません。
- 鍼治療は、1970年代以来禁煙療法として奨励されてきましたが、人々が喫煙の習慣を断つのに役立つ有用性は認められていません。
- 鍼治療の研究についてもっと詳しくお知りになりたい方は、以下をご覧ください。
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鍼治療の研究は、下記の理由で多くの課題があります。
- 手技、ツボの数、治療の回数、治療期間の点において、臨床試験が異なる場合が多くあります。
- 鍼治療の結果は、鍼治療自体よりも、患者の治療に対する信頼や期待、または患者と施術者の関係と関連している可能性があります。
- 偽鍼治療とは?
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- 臨床試験の中には、反応が試験の方法によるものかそれともその他の何かによるものなのかを調査するために、ある製品または療法と、(プラセボと呼ばれる)不活性な製品または手技とを比較することがあります。鍼治療に関する多くの試験では、偽鍼治療と呼ばれる手技で、先が丸く圧がかかると引っ込む鍼を使います。この鍼は皮膚に接触しますが貫通しません(実際の鍼治療では鍼が皮膚を貫通します)。別の方法で偽鍼治療を行う場合もあります。しかし、偽鍼治療がある程度疼痛を緩和する場合があることが認められています。
科学的観点から見た鍼治療の安全性と副作用
- 鍼治療による合併症はほとんど報告されていません。しかし殺菌していない針の使用や、不適切な治療があると合併症がおこっています。
- 治療が不適切である場合、鍼治療により感染症、臓器穿刺、肺の虚脱、中枢神経系損傷などの重篤な有害作用を引き起こします。
- 科学的観点から見た鍼治療の安全性と副作用についてもっと詳しくお知りになりたい方は、以下をご覧ください。
- 米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は鍼は資格を持った施術者が用いる医療器具として規制しており、一定の基準に従って製造、ラベル付けすることを義務付けています。例えば、FDAは、針は滅菌、無毒であり、資格を持った施術者のみが1度だけ使用できるよう表示することを義務付けています。
NCCIHによる研究助成
NCCIHは、さまざまな痛みおよび症状に対する鍼治療の有効性を評価し、身体が鍼治療にどのように反応し、鍼治療がどのように作用する可能性があるのかをより一層理解するための研究を助成しています。NCCIHが近年支援している研究には次のようなものがあります。
- 鍼治療が閉経後のほてりの頻度を減少する可能性があるのか。
- 鍼治療が化学療法に伴う可能性のある疼痛および不快感を減少する可能性があるのか。
- 客観的に見て実際の鍼治療は偽鍼治療または通常治療より疼痛緩和に有効であるのか、また(そうであれば)どの程度有効であるのか。
さらに考慮しなければならないこと
- 健康問題に対して医療機関の受診を後回しにするために鍼治療を用いてはいけません。
- 鍼治療を受けると決めたら、施術者の資格をチェックしましょう。ほとんどの州で鍼治療を行うのに免許、証明書、登録証が必要ですが、これらの証明書交付のための教育、訓練基準、必要条件は州により異なります。免許は治療の質を保証するものではありませんが、鍼治療に関する知識や施術法について一定の基準に達している証明になります。免許取得には全国鍼灸東洋医学認証委員会の修了証書が必要である州が多いです。
- 従来の医療をおこなう医師(内科医や歯科医など)には鍼治療を行う医師もいます。さらに全国鍼治療協会(図書館またはインターネット検索で閲覧可能)が鍼灸師を紹介している場合があります。鍼灸師を選ぶ際は、彼らの教育および経験についてたずねましょう。
- 治療回数や毎回の治療費について施術者にたずねましょう。医療保険によっては、鍼治療の費用も支払い対象となっている場合がありますが、対象外の場合もあります。(詳細についてはNCCIHファクトシート「Paying for Complementary and Integrative Health Approaches (補完・統合医療にかかる費用)(英語サイト)」をご覧ください。)[eJIMサイト内日本語訳]
- かかりつけの医療スタッフにあなたが行っている療法をすべて話しましょう。そうすることでより良い組織的で安全なケアが受けられます。健康管理のためにあなたがどんなことをしているのか、すべて話しましょう。
さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
NCCIH情報センターは、NCCIHに関する情報、および科学論文・医学論文の連邦データベースの公開や検索などの補完療法に関する情報を提供しています。情報センターでは医学的なアドバイス、治療の推奨や施術者の紹介は行いません。
米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレタイプライター(TTY、聴覚障害者や難聴の方用):1-866-464-3615
ウェブサイト: nccih.nih.gov(英語サイト)
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)
■ PubMed®
国立医学図書館(NLM)[米国]のサービスであるPubMed®には、公表文献の情報および(ほとんどの場合)科学・医学雑誌の論文からの短い要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、How To Find Information About Complementary Health Approaches on PubMed(PubMedで補完療法情報を探す)(英語サイト) をご覧ください。
■ NIH Clinical Research Trials and You(NIHクリニカル・リサーチ・トライアル・アンド・ユー)
国立衛生研究所(NIH)[米国]が開設したウェブサイトです。一般の人々に、臨床試験の重要性や、どうすれば臨床試験に参加できるのかを知ってもらうために開設されました。サイトには、臨床試験に関する質問と回答、臨床試験の情報を探す方法(ClinicalTrials.govなどの情報検索サイトやその他の情報源)、臨床試験に参加した人の体験談などが掲載されています。臨床試験は、病気を予防、診断、治療するうえで、よりよい方法を見つけ出すために必要な試験です。
■ Cochrane Database of Systematic Reviews(システマティックレビューのコクランデータベース)
システマティックレビューのコクランデータベースは、国際的非営利組織であるコクランライブラリー により作成された科学的根拠(エビデンス)に基づくレビューのコレクションです。これらのレビューは、医療介入に関する臨床試験の結果を要約しています。要約は無料です。レビュー全文は購読のみです。
■ Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures & Results (RePORTER)
RePORTERは、研究機関において、政府が助成し現在実施されている科学・医学研究プロジェクトに関する情報のデータベースです。
ウェブサイト:projectreporter.nih.gov/reporter.cfm(英語サイト)
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謝辞
NCCIHは、このサイトの情報における技術的な専門知識とレビューに対して次の人に感謝します。
Lixing Lao, Ph.D., University of Maryland School of Medicine; Karen Sherman, Ph.D., M.P.H., Group Health Research Institute, Seattle; Maria E. Suarez-Almazor, M.D., Ph.D., The University of Texas M.D. Anderson Cancer Center; and Kristin Huntley, Ph.D., Partap Khalsa, D.C., Ph.D., and John (Jack) Killen, Jr., M.D., NCCIH.
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大野智、富塚啓貴(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
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