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音楽と健康
Music and Health

本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。

最新版(英語版オリジナルページ)はこちら
英語版最終アクセス確認日:2022年11月

音楽は体によいのでしょうか?

はい、研究も進んでいます。音楽を聴いたり、作ったりすることは、脳に影響を与え、健康増進や病気の症状管理に役立つかもしれません。

音楽を演奏したり聴いたりすることで、思考、感覚、運動、感情などに関わる脳のさまざまな部位が活性化されます。このような脳への影響は、身体的・心理的に有用であるかもしれません。例えば、音楽は脳内物質(神経伝達物質やホルモン)を分泌させ、情動反応や記憶、感情を呼び起こし、社会的な結びつきを促進させることができます。音楽は脳の構造にさえ影響を与えることができます。音楽家は非音楽家よりも脳の特定の部位が大きく、特に幼少期から音楽の訓練を受けた人に顕著な変化が見られることがわかっています。

音楽を用いた介入が、小児期、成人期、加齢期に起こる健康状態に有用であるかもしれないことを示すエビデンス(科学的根拠)が増えつつあります。しかし、音楽を用いた介入に関する研究の多くは予備的なものであるため、その有用性に関する明確な結論はほとんど得られていません。音楽を用いた介入の潜在的な有用性に関する多くの報告は、個人または少人数のグループに対する観察から得られたものです。この種のエビデンスは新しいアイデアを示唆する上で貴重ですが、音楽を用いた介入が特定の目的に対して有用であるかどうかに関するより強力なエビデンスを提供するためには、より多くの人々を対象とした、入念に計画された科学的に厳密な研究が必要です。

音楽療法とは?

音楽療法は、身体的、感情的、認知的、社会的なニーズに対応するために、治療関係の中で音楽を使用する医療専門職です。「音楽療法」という用語は、特定の種類の介入を説明するものではありません。そうではなく、介入を行うセラピストの教育、訓練、資格を意味するものです。

音楽療法には、音楽の即興演奏、音楽傾聴、作曲、音楽演奏、音楽による学習など、さまざまな異なる活動が含まれるかもしれません。音楽療法士は、病院、外来診療所、介護施設、高齢者施設、リハビリテーション施設、学校など、さまざまな環境で働くことができます。

このファクトシートで紹介されている音楽を用いた介入の中には、音楽療法の定義に当てはまるものもありますが、そうでないものもあります。例えば、録音された音楽を聴くという音楽を用いた介入は、音楽療法士以外の医療専門家(看護師など)が行うことが多いため、音楽療法の定義には当てはまりません。

音楽療法については、米国音楽療法学会(American Music Therapy Association)のウェブサイト(英語サイト)をご覧ください。

音楽が害を及ぼす可能性はないのですか?

一般に、音楽を用いた介入に関する研究調査では、悪影響は示されていません。しかし、あまりに大きな音量で音楽を聴くと、騒音性難聴の原因になることがあります。このような難聴については、米国の国立聴覚・伝達障害研究所 (National Institute on Deafness and Other Communication Disorders:NIDCD)(英語サイト)をご覧ください。

また、音楽は強い記憶や感情的な反応を伴うことがあるため、特定の曲や種類の音楽に触れることで苦痛を感じる人もいるかもしれません。楽器を長時間演奏することにより、痛みや怪我につながる可能性があります。運動や他の種類の動きを伴う音楽を用いた介入も、適切な安全対策が取られないと怪我につながる可能性があります。

健康上の問題がある人への音楽を用いた介入について、研究は何を示しているのでしょうか?

これまでに行われた予備的な研究では、音楽を用いた介入は、さまざまな健康上の問題に伴う不安、抑うつ症状、痛み、さらには認知症、多発性硬化症、パーキンソン病などに伴うその他の症状にも有用であるかもしれないと示唆されています。

痛み

このファクトシートの他のセクションで述べたように、音楽を用いた介入が特定の健康上の問題に関連した痛みを和らげるのに役立つかもしれないというエビデンスがあります。以下の2つのレビューでは、音楽がより一般的な痛みに役立つかもしれないことを示すエビデンスについて述べています。新しい研究では、音楽がさまざまな原因の痛みに有用であるかもしれないというエビデンスが見つかりつつありますが、すべての研究が有益な効果を示しているわけではありません。

  • 2016年に報告されたレビューでは、さまざまな健康上の問題や医療処置に伴う急性または慢性の痛みに対する、音楽を用いた介入に関する97件の研究(参加者9,184例)を検証しました。全体的なエビデンスとして、音楽を用いた介入は、痛みの強さと痛みによる感情的苦痛の両方に有益な効果をもたらし、痛みを和らげる薬の使用を減らすことにつながるかもしれないことが示唆されました。
  • 2017年に報告されたレビューでは、さまざまな種類の慢性疼痛に対する音楽を用いた介入に関する14件のランダム化比較試験(参加者1,178例)を検証し、音楽を用いた介入は自己申告の慢性疼痛と関連する抑うつ症状を軽減し、音楽を研究者らではなく参加者が選んだ場合に有益性が大きくなることが明らかになりました。研究参加者らは、がん線維筋痛症多発性硬化症変形性関節症など、慢性的な痛みを引き起こすさまざまな症状・疾患を抱えており、介入のほとんどは録音された音楽を聴くというものでした。
  • 音楽を用いた痛みへの介入に関する新しい研究の多くは、すべてではありませんが、有望な結果を得ています。例えば、最近の研究では、出産、がんの化学療法、衝撃波で腎臓結石を砕く処置、体外受精のための採卵、鼻骨骨折の治療、鎌状赤血球症などに伴う痛みに対して、音楽を用いた介入が有益であったという結果が得られています。しかし、ループ式電気焼灼切除術(婦人科の手術:子宮頸部円錐切除術)においてリドカインスプレーを使用した後の中程度の痛みをさらに軽減するのに音楽は有益ではなかったようです。また、膀胱鏡検査(膀胱に管を挿入する手術)中の痛みと結腸鏡検査中の痛みについての研究結果は一貫していませんでした。
不安

音楽を用いた介入は、さまざまな病状や医療環境における不安に対する有益性について評価されています。いくつかの例についてはこのセクションで紹介し、その他の例については、特定の健康上の問題に関するセクションで説明しています。歯科治療に伴う不安に関する研究を除き、ほとんどの研究で有望な結果が得られています。

  • 2013年に報告された26件の研究(参加者2,051例)のレビューでは、録音された音楽を聴くことで、手術を待つ人の不安が有意に軽減されることが示されました。しかし、研究を実施した研究者らは、どの参加者が音楽を聴いていたかを知っていたため、ほとんどの研究で潜在的なバイアスの可能性がありました。
  • 2016年に報告された、成人がん患者の不安に対する音楽を用いた介入の有益性を評価した17件の研究(参加者1,381例)のレビューでは、介入には大きな不安軽減に有用であるかもしれないことが示唆されています。しかし、試験には高いバイアスのリスクがありました。
  • 2015年に報告された、透析治療を受けている人を対象とした5件の研究(参加者290例)のレビューでは、音楽を聴くことで不安が軽減されることが示唆されました。しかし、これらの研究は規模が小さく、バイアスのリスクも高いため、限界があります。
  • 2018年に報告されたレビューでは、音楽を聴くことが歯の治療や手術に対する不安に有益かどうかは不明であると結論付けられています。いくつかの研究では、気晴らしに音楽を聴くことは、歯科治療を受ける子供や不安の強い成人の不安を軽減するのに十分でないかもしれないことが示唆されています。より積極的なタイプの音楽を用いた介入(例えば、事前に患者に音楽を用いたリラクゼーション法を教える)は、歯科の現場で役立つかもしれないが、正式な研究では評価されていません。
自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)

音楽を用いた介入がASDの人に有益かどうかは不明です。

  • 2021年に報告された、ASDの子供に対する音楽療法に関する22件の研究(参加者850例)を対象としたレビューでは、音楽療法をケアに加えることが有益かどうかについて、いくつかの研究では有望な結果が得られているものの、明確な結論には至りませんでした。例えば、教育的音楽療法(音楽ゲームなどの手法を用いる)の研究では子供の発話に有益である可能性が示され、即興的音楽療法(子供が音楽を制作する)の研究では社会的機能に有益である可能性が示されたものもあります。
  • 特に注目すべきは、ASDの子供に対する音楽療法の研究(上記のレビューに含まれている)で、9カ国から364例の子供が参加した国際共同試験です。この研究は、これまでに完了した研究の中で最大規模であり、そのデザインは特に厳密なものでした。この研究では、社会的コミュニケーションの難しさに関連する症状の重症度は、標準ケアとともに音楽療法を受けた子供たちと標準ケアのみを受けた子供たちの間で差はありませんでした。
がん

予備的なエビデンスによると、音楽を用いた介入は、がん患者のいくつかのタイプの苦痛に役立つかもしれないことが示唆されています。

  • 2021年に報告された、81件の試験および5,576例の参加者を含むランダム化比較試験(参加者が音楽を用いた介入群または対照群に無作為に割り付けられた試験)のレビューでは、成人がん患者において、音楽を用いた介入の有益性は、不安軽減に対しては大きく、抑うつに対しては中程度、痛みの軽減に対しては中程度、生活の質に対しては大きい可能性があると結論づけています。ほとんどの試験はバイアスのリスクが高いため、その結果は慎重に解釈する必要があります。このレビューに含まれる研究のうち、子供を対象としたものは7件のみでした。これらの研究のうち2件は、不安に対する有益な効果を示唆するものでしたが、利用可能なエビデンスの報告が少ないため、他の結論を出すには至りませんでした。
  • 2021年に報告された、子供および青年のがん患者に対する音楽を用いた介入に関する11件の研究(参加者491例)のレビューでは、ランダム化比較試験よりも厳格性が低い研究も含まれており、音楽を用いた介入により、不安、知覚痛、抑うつ症状が軽減し、心の状態、自尊心、生活の質が改善するかもしれないことを示唆するエビデンスが得られました。
慢性閉塞性肺疾患(Chronic obstructive pulmonary disease:COPD)

2021年に報告された、12件の研究(参加者812例)のシステマティックレビューでは、音楽を用いた介入は、成人のCOPD患者の息切れ、不安、睡眠の質に有益でしたが、抑うつには有益ではなかったことが示されました。研究期間が短く(数日から12カ月)、研究者らによって効果の測定方法が異なったため、結論には不確実性がありました。

認知機能障害と認知症

認知機能障害やアルツハイマー病などさまざまなタイプの認知症の患者に対する音楽を用いた介入の潜在的な有益性については、多くの研究が行われています。音楽を用いた介入が、これらの症状を持つ人々の感情的なウェルビーイング(well-being)、行動上の課題、生活の質を改善するかもしれないことを示唆するエビデンスは限られています。効果は研究の対象となった集団または使用された介入の種類に依存するかもしれないため、介入が認知機能に有益であるかどうかは不明です。

  • 2018年に報告されたレビューでは、施設で暮らす認知症患者に対する音楽を用いた介入について、22件の研究(参加者1,097例)を評価しました。介入方法は、受容的なもの(音楽を聴く)、能動的なもの(歌う、楽器を演奏する、音楽に合わせて動くなど)、そしてその2つを組み合わせたものがありました。これらの研究から得られたエビデンスは、音楽を用いた介入はおそらく抑うつ症状を軽減し、行動上の課題全般を改善することを示しました。また、感情的なウェルビーイングや生活の質を向上させ、不安を軽減させるかもしれません。しかし、その介入は、興奮、攻撃性、認知機能にはほとんど、あるいは全く有益性がないかもしれません。
  • 2021年に報告されたレビューでは、軽度認知障害または軽度・中等度認知症の人を対象とした21件の研究(参加者1,472例)を検証しました。研究参加者の中には、施設で生活している人もいれば、地域で生活している人もいました。音楽を用いた介入はすべて能動的であり、音楽を聴くだけの研究は含まれていません。9件の研究(参加者495例)では、認知機能への影響を定量分析しており、この分析により、音楽を用いた介入は小さな有益な効果を持つことが示されました。また、気分や生活の質に対する有益な効果についても、いくつかのエビデンスがありました。
うつ病

2017年に報告されたレビューでは、うつ病の成人または青年を対象とした音楽を用いた介入に関する9件の研究(参加者数421例)を検証しました。通常の治療に音楽を用いた介入を加えることで、通常の治療だけと比較して、うつ病の症状が改善するという質が中等度のエビデンスがありました。また、音楽を用いた介入は、不安レベルを低下させ、うつ病患者の生活機能(例えば、仕事、活動、人間関係への関与を維持する能力)を向上させるのに役立ちました。

線維筋痛症

2020年に報告された、7件の研究(参加者334例)のシステマティックレビューでは、音楽を用いた介入が線維筋痛症患者の痛み、抑うつ、生活の質に有益であるというエビデンスが得られました。しかし、報告数は限られ、研究の質も低いものでした。

多発性硬化症

2021年に報告された、多発性硬化症患者に対する音楽を用いた介入に関するレビュー(10件、参加者429例)では、介入が協調、バランス(平衡感覚)、足取りや歩行のパターン、情動状態、痛みに有益であるという一貫したエビデンスがえられましたが、精神疲労や記憶に有益性は見られませんでした。

パーキンソン病

研究者らは、パーキンソン病の症状に対して、いくつかのタイプの音楽を用いた介入の潜在的な有益性を評価しています。

  • リズム音刺激リズム音刺激は、パルス音(メトロノームが発する音など)を用いて、音のリズムに自分の動作を同調させることを手助けします。この手法は、パーキンソン病患者の歩行能力を改善するために使われています。2021年に報告された、5件の研究(参加者合計209例)の解析では、リズム音刺激に参加したパーキンソン病患者の歩行速度と歩幅が有意に改善されることが示されました。しかし、エビデンスの質は低く、研究数や参加者数も少ないものでした。
  • 音楽を用いた運動療法音楽を用いた運動療法は、ダンスやリズム体操などの身体活動と音楽を組み合わせたものです。体を動かす療法は、パーキンソン病のさまざまな症状に有益であることが示されています。音楽を加えることで、動作に対する聴覚的な合図を与え、活動をより楽しいものにすることで、さらなる効果が期待できるかもしれません。2021年に報告された、音楽を用いた運動療法に関する17件の研究(参加者598例)の解析では、運動機能、バランス(平衡感覚)、すくみ足(歩行)、歩行速度、メンタルヘルスの改善のエビデンスが示されましたが、歩行ケイデンス(歩調)、歩幅、生活の質は改善されませんでした。
  • 歌唱(歌うこと)パーキンソン病患者に対する歌唱の潜在的な有益性は、主に発話に対する有益性という観点から研究されてきました。2016年に報告された7件の研究(参加者102例)のレビューでは、5件の研究で発話に対する有益な効果があることを示すいくらかのエビデンスが得られました。
早産児

新生児集中治療室では、音楽を用いた介入が広く行われています。しかし、新生児に対する生理学的な有益性を示すエビデンスは限られています。

  • 2020年に報告された16件の研究(乳児826例)のレビューでは、12件の研究で生理学的アウトカム(心拍数や酸素飽和度など)に対して有益であったといういくらかのエビデンスが得られましたが、複数の研究では対象乳児が少数であり、また用いられた介入方法は研究によって異なっていました。レビューアらは、生理学的有益性を確認するには、現在のデータでは不十分であると結論づけました。このレビューに含まれる研究では、音楽を用いた介入による有害な作用はみられませんでした。
統合失調症

音楽を用いた介入は、統合失調症患者に対する補助的治療(通常の治療への追加)として評価されています。2020年に報告された18件の研究(参加者1,212例)のレビューでは、音楽を用いた補助的な介入により、感情の低下や自己否定などの「陰性症状」と呼ばれる統合失調症の症状群、さらには抑うつ症状や生活の質が改善するかもしれないことが示されました。しかし、音楽を用いた介入は、幻覚や妄想などの「陽性症状」を減少させることはありませんでした。このエビデンスの質は低いものでした。

睡眠の問題

音楽を聴くことは、不眠症の人の睡眠の質を改善するかもしれません。

  • 2022年に報告されたレビューでは、不眠症の人を対象に録音された音楽を聴くことの有益性を調べた13件の研究(参加者1,007例)を検証しました。これらの研究では、音楽は無治療または通常の治療と比較して、不眠の重症度に有益性がないことが示唆されました。しかし、音楽を聴くことは主観的な睡眠の質に有益な影響を与えることについて、確実性が中程度のエビデンスで示唆されました。また、音楽を聴くことで、入眠速度、睡眠時間、ベッドで過ごした総時間と比較した睡眠に費やした時間の長さが改善するかもしれないという確実性の低いエビデンスが示されました。
  • 高齢者になると、寝つきが悪くなるのはよくあることです。2021年に報告されたレビューでは、高齢者(参加者812例)の睡眠に対する音楽を用いた介入に関する16件の研究を検証しました。11件の研究では、音楽鑑賞を評価し、他の5つの研究ではより複雑な介入を評価しました。結果はさまざまであり、音楽介入が有益であることを示唆する研究もあれば、そうでないものもありました。
ストレス

音楽を用いた介入、特に音楽療法は、ストレスに関連する身体的・心理的マーカーの改善に役立つかもしれないことが、2つの関連レビューで示されました。

  • 2020年に報告された104件の研究(参加者9,617例)を対象としたレビューでは、研究者らは、身体尺度(心拍数、血圧、ストレス関連ホルモンのレベル)と心理尺度(不安、緊張、落ち着きのなさ、心配の感情)の両方を含むストレス尺度に対する、音楽を用いたさまざまな介入の有益性について検証しました。音楽を用いた介入の有益性は、身体尺度に対してわずか~中程度の有益性を、心理尺度に対して中程度から大きな有益性を示しました。
  • 2つ目のレビューでは、音楽療法(他の音楽による介入を除く)に関する47件の研究(参加者2,747例)を検証し、ストレス関連の結果に対して全体的に中程度から大きな有益性があることが見いだされました。その有益性は、より大規模なレビューで見られたものよりも大きいものでした。このレビューを行った研究者らは、音楽療法士が個々の患者のニーズに合わせて介入する機会があることが、この違いの説明になりうると示唆しました。
脳卒中

音楽を用いた介入は、脳卒中患者のリハビリテーションに役立つかもしれません。2019年に報告された27件の研究(参加者730例)を対象としたレビューでは、身体状態(上肢の活動、歩行のさまざまな側面、バランス(平衡感覚))、認知機能(注意力、コミュニケーション力)、気分に対して肯定的な有益性があることが明らかになりました。特に、リズム音刺激(メトロノームの使用と身体活動を組み合わせる)は、歩行とバランス(平衡感覚)に有益な効果をもたらし、受容的な音楽療法(音楽を聴きながら別の作業を行う)は気分と認知機能のいくつかの側面に有益な効果をもたらしました。

耳鳴(耳鳴り)

耳鳴とは、「耳鳴りがする」と表現されることが多い症状で、轟音、クリック音、シューという音、ブーンという音などのように聞こえることもあります。騒音性難聴、耳垢による外耳道の閉塞、耳や副鼻腔の感染症、その他の健康上の問題、またはさまざまな薬の服用の開始や中止が原因で起こることがあります。耳鳴は、明らかな原因がないこともあります。

  • 音響療法(サウンドセラピー)音楽をはじめ、さまざまな種類の音で耳鳴のマスキングを試みるために使われています。しかし、2019年に報告された、それまでに行われた研究のレビューによると、これらの音響療法の効果は緩やかで、音響療法で耳鳴の完全寛解を達成する人はほとんどいませんでした。
  • ノッチ付き音楽療法耳鳴の程度を軽減する方法として、「ノッチ付き(刻み)」音楽療法という特定の種類の音楽療法が提案されています。ノッチ付き音楽療法は、患者が感じる耳鳴りの音の周波数に近い音を取り除くように加工された音楽を聴くというものです。最近行われた2件の研究では、ノッチ付き音楽と従来の音楽を比較しましたが、ノッチ付き音楽が耳鳴りの症状や影響を軽減するのに役立つという結果は得られませんでした。しかし、先行研究では、ノッチ付き音楽療法によって耳鳴りの音の大きさが軽減される可能性が示唆されたものもあります。

国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)および米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)が助成する研究

NIHとジョン・F・ケネディ舞台芸術センターは、全米芸術基金と共同で、音楽が脳に及ぼす影響と臨床応用の可能性について理解を深めるため、「サウンドヘルス」と呼ばれるイニシアチブ(構想)を後援しています。2019年に最初のサウンドヘルスの研究プロジェクトが始まりました。音楽の脳内作用のメカニズムや、パーキンソン病、脳卒中、慢性疼痛などの疾患における症状の治療に音楽がどのように応用できうるかを研究しているプロジェクトもあります。また、子供の発達中の脳に音楽が与える影響を調べているものもあります。

NCCIHが助成するサウンド・ヘルス・イニシアチブの研究テーマは以下の通りです。

  • 早産児の神経発達と疼痛反応に対する音楽を用いた介入の効果
  • パーキンソン病患者の歩行を改善するため、リズミカルな合図を自分で出す方法
  • 心血管疾患を有する高齢者における歌唱介入が心血管系の健康マーカーに与える影響

NIHは、NIH財団およびルネ・フレミング財団と共同で、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中などの老化による脳障害に対して、厳密で再現性の高い、実力のある音楽を用いた介入を行うためのツールキットを開発しています。2021年には、関連するさまざまな分野の専門家から意見を聞くために3つのワークショップを開催し、ステークホルダー(利害関係者)の意見を聞くために情報提供を依頼しました。ツールキットがリリースされた場合、実証プロジェクトでパイロットテスト(予備的研究)が行われる予定です。NCCIHはこの取り組みで主導的な役割を担っています。

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■ NCCIH 情報センター

米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。

米国内の無料通話:1-888-644-6226
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米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。「Know the Science(科学を知ろう)(英語サイト)(eJIM内)は、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。

Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(英語サイト)(NIH)
Know the Science: How To Make Sense of a Scientific Journal Article(科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法)(英語サイト)(eJIM内)
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)(英語サイト)(NIH)

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参考文献

その他の参考文献
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謝辞

NCCIHは、このファクトシートのレビューにおける貢献に対して次の人に感謝します:
Wen Chen, Ph.D., Emmeline Edwards, Ph.D., and David Shurtleff, Ph.D., NCCIH

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(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)

監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2024年5月28日

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