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海外の情報

リラクゼーション法
Relaxation Techniques

本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。

最新版(英語版オリジナルページ)はこちら
英語版改訂年月(翻訳時):2022年11月

リラクゼーション法とは?

リラクゼーション法とは、呼吸がゆっくりになったり、血圧が下がったり、心拍数が低下したりすることを特徴とする「リラックス反応」を体にもたらすのに役立つ実践手法です。リラックス反応は、ストレス反応とは逆の反応です。

このファクトシートで取り上げられている研究の中には、リラクゼーション法と認知行動療法を比較したものがあります。認知行動療法は、心理学的治療の一種で、自然と生じてしまうかもしれない不正確で有害な考え方に気づくことを助けるものです。この療法では、思考パターンを変える努力をし、通常は行動パターンも変えます。

どんな種類のリラクゼーション法がありますか?

リラクゼーション法には、以下のような種類があります。

  • プログレッシブリラクゼーション(漸進的弛緩法):漸進的筋弛緩法とも呼ばれ、体のさまざまな筋肉を緊張させた後、その緊張を解いていく方法です。
  • 自律訓練法:リラクゼーションと自分自身に提案するアイデア(自己暗示)を含む一連の精神的なエクササイズを通じて、身体がリラックスした状態を心で体験することに集中します。
  • 誘導イメージ療法または「ビジュアライゼーション」:誘導イメージ療法では、リラックスや落ち着きを連想させる物、場面あるいは出来事などを思い浮かべ、それと同じような感覚を体にもたらそうとします。
  • バイオフィードバック(生体自己制御)支援(アシスト)リラクゼーション法: 一般的に電子機器を使ったフィードバックにより、自分の体がどのように反応するかを認識し、管理する方法を学びます。心拍数、血圧、筋肉の緊張など、ストレスやリラックスを感じたときの変化を電子機器で確認することができます。
  • 自己催眠:自己催眠プログラムでは、特定のフレーズまたは言葉を使わない合図(「暗示」と呼ばれます)を使ってリラクゼーション反応を引き起こすことを学びます。
  • 呼吸法によるエクササイズ:呼吸法では、横隔膜呼吸法と呼ばれる、ゆっくりとした深呼吸をすることに集中するとよいとされています。

マッサージ療法、瞑想、ヨガ、太極拳、気功など他の補完療法でも、リラクゼーション反応をはじめとするさまざまな有益な効果を身体にもたらしますが、本ファクトシートではこれらの療法については触れていません。これらの実践についてのさらなる情報は、こちらをご覧ください:「マッサージ療法」「瞑想」「ヨガ」「太極拳」「気功」

陣痛や出産時にリラクゼーション法は役立ちますか?

多くの女性が、陣痛や出産時の痛みを薬物を使わない方法で緩和したいと考えています。

  • 2018年のレビューでは、さまざまなリラクゼーション法を用いて、陣痛時の女性の痛みの強さを測定した5件の研究(参加者総数1,248例)について検証しました。総じて、リラクゼーション法は女性の陣痛管理に役立つかもしれないという結果が得られましたが、研究の質は低いものから非常に低いものまでさまざまでした。また、さまざまなリラクゼーション法が用いられているため、具体的にどのような方法が有効であるは明らかとなっていません。
  • 2019年のレビューでは、陣痛や出産時の痛み緩和の選択肢として、痛み止めの薬(硬膜外麻酔、オピオイド)と薬を使わない方法(リラクゼーション、マッサージ)を使用した女性の意見や経験を比較しました。8件の研究(女性99例)がリラクゼーション法について検証しました。全体的な知見は、どちらの痛み止めの方法に対してもさまざまな経験があることを示しました。薬物以外の方法を使用した女性の中には、期待したよりも効果が薄かったと報告した人もいました。

リラクゼーション法は、小児や青年に対して役立ちますか?

リラクゼーション法の中には、痛み、不安や抑うつ、頭痛、注射針を使った処置が苦手な小児や青年に役立つかもしれません。しかし、裏付けとなる研究の多くは質が低いと評価されており、期待される効果についてはまだ完全に明確にはなっていません。

疼痛
  • 2017年に報告された小児・青年期の 再発性腹痛 に関するレビューでは誘導イメージ療法および催眠療法は短期的な痛みの軽減に役立つかもしれないという結果が得られましたが、研究の質は低いものでした。このレビューには、誘導イメージ療法に関する2件の小規模な研究と、施術者主導の催眠療法(+自習)に関する2件の小規模な研究が含まれており、参加者総数は146例でした。
  • 2019年に報告された10件の研究(参加者697例)を対象としたレビューでは、遠隔で配信される心理療法が、小児や青年の 慢性的な痛みに与える効果について検証しました。対象研究のうち9件では、治療にリラクゼーションの要素が含まれていました。"遠隔で配信 "とは、柔軟性があり、自己指導型の療法で、通常はインターネットを利用し、臨床医との接触を必要としないものを意味します。このレビューでは、遠隔で行う心理療法は、施術直後の頭痛の痛みを軽減するのに有効であるが、その後のフォローアップでは有効ではないという結果が得られました。研究対象となった他の種類の痛みについては、効果は認められませんでした。総じて、研究の質は非常に低いとみなされました。
不安うつ
  • 2018年に報告されたレビューでは、慢性疼痛喘息がん、および頭痛などの長期的な身体症状を持つ小児や青年の不安や抑うつに対するバイオフィードバック について、9件の研究(参加者278例)を検証しました。このレビューでは、バイオフィードバックは有望であると考えられますが、現時点では、今行っている治療法の代わりや追加として臨床的に使用することは推奨できないとしています。
頭痛
  • 2019年に報告された7件の研究(小児571例)のレビューでは、片頭痛 、緊張型頭痛 、またはその両方に対するリラクゼーショントレーニング の効果を検証しました。リラクゼーショントレーニング後に頭痛の頻度、持続時間、強度が減少したと報告した研究もありましたが、そのような結果が得られなかった研究もありました。総じて、結果に一貫性がなく、研究の質も非常に低いものでした。
  • 2016年に報告された、小児および青年137例を対象とした5件の研究のレビューでは、バイオフィードバック が片頭痛に役立ち、 特にその頻度を減らす可能性があるとしました。しかし、これらの研究の参加者は少数でした。
  • 2019年に報告されたレビューによるとセルフリラクゼーション、バイオフィードバック 、自己催眠は、特に思春期の青年の片頭痛管理において、薬を使用することに代わる妥当な代替案であるかもしれません。しかし、このレビューによると、小児の片頭痛治療に関する研究では、標準的な抗片頭痛薬による治療に認知行動療法を加えたものが最も優れたエビデンス(科学的根拠)とされています。
注射針を使った処置に伴う痛みや苦痛
  • 2018年に報告されたレビューでは、予防接種や採血などの注射針を使った処置を受ける小児および青年の痛みや苦痛を軽減するためのさまざまな心理的戦略について検証しました。このレビューによると、催眠療法、認知行動療法にリラクゼーション法、呼吸法などを含む他の手法を併用した組み合わせすべてが有効であるという結果が得られました。8件の催眠療法の研究のうち2件は自己催眠 に関するもので、2件は催眠療法に加えてさらにリラクゼーション法を加えたものでした。このレビューにおける全体的な研究の質は低いか非常に低いものでしたが、見込みのある効果は、臨床現場で使用する方策としては推奨するのに十分であると判断されました。

リラクゼーション法は血圧を下げるのに役立ちますか?

  • 高血圧は、心臓発作、脳卒中、心不全、腎不全などの重篤な健康問題を引き起こす可能性があります。健康的なライフスタイルを送ることは、高血圧の予防につながります。リラックスしてストレスに対処する方法を学ぶことも健康的なライフスタイルの一つです。
  • 17件の研究(参加者総数1,165例)を検証した2019年に報告されたレビューでは、ゆっくりとした呼吸法 は、血圧の適度な低下をもたらし、高血圧前症または低リスクの高血圧の人にとって、合理的な初期治療法となるかもしれないことを示しています。しかし、このレビューの研究は、呼吸の方法が研究によって異なっており、追跡期間が短く、バイアスのリスクが高いものでした。また、これらの研究では、ゆっくりとした呼吸法が最終的に脳卒中や心臓発作などの健康アウトカムに影響を与えるかどうかについては検証されていません。
  • 2018年に報告されたレビューでは、リラクゼーション法とバイオフィードバックが、血圧の低下に役立つかもしれないが、29件の研究のデータは質が低いものから非常に低いものであったため、それらの実施については弱い推奨しかなされていません。
  • 高血圧の場合、今かかっている医療機関※が処方する治療計画に従うことが重要です。なぜなら、高血圧の重篤な合併症を回避または遅らせることができるからです。高血圧に対して補完療法・統合医療を検討している場合、今かかっている医療機関※に相談してください。

リラクゼーション法は不安に効果があるのでしょうか?

一般的なストレスや不安
  • 2017年に報告されたレビューでは、心拍変動(heart rate variability、HRV)バイオフィードバックと一般的なストレスや不安に関する24件の研究(総参加者484例)を検証しました。HRVバイオフィードバックでは、デバイスから心拍数のデータを受け取り、呼吸法を用いて心拍数のパターンを変化させていきます。このレビューでは、HRVバイオフィードバックが自己申告のストレスや不安の軽減に役立つことがわかり、研究者らは、フィットネストラッカーのようなウェアラブルデバイスの開発がさらに進み、有望なアプローチになると見ています。
  • 2019年に報告された3件の研究のレビュー(参加者合計880例)では、横隔膜呼吸法がストレスの軽減に役立つかもしれないことを示唆する予備的なエビデンスが得られました。精神面(メンタルヘルス)での自己評価や、コルチゾール値や血圧などの身体的な指標において、有望なポジティブな変化が認められました。
脳卒中後の不安
  • 脳卒中患者の約20%は、脳卒中後のある時点で不安を感じています。2017年に報告されたレビューでは、脳卒中後の不安に対する介入について検証しました。レビューには、不安症と診断された21例の脳卒中患者に関する1件の研究が含まれていました。参加者は、1カ月間、週5回、 リラクゼーションCD を使用しました。3カ月後には、参加者の不安感が軽減されていました。小規模な研究が1件しかなかったため、研究全体として、このようなリラクゼーション法が脳卒中後の不安を抱える人に役立つかどうかを言い切るには不十分です。
手術や歯科治療に対する不安

手術や処置の前に不安になると、その後の痛みのレベルが上がり、鎮痛剤の使用につながる可能性があります。歯科治療の不安を抱えている人は、治療を拒んだり遅らせたりして、口腔内の健康に支障をきたすかもしれません。

  • 2017年に行われた研究では、脊柱管狭窄症の手術を受ける前に、自然音群、リラクゼーションエクササイズ群、またはサイレントレスト群にランダムに割り付けられた159例の青年が参加しました。その結果、手術当日に自然音やリラクゼーションエクササイズを行うことで、参加者の手術前の不安を軽減できることが示されました。
  • 2019年の研究では、歯の不安を抱える歯周病患者68例を対象としました。患者は、歯周病治療の前に、漸進的筋弛緩法と口腔衛生教育、または口腔衛生教育のみのいずれかを週1回、4週間にわたって受けました。漸進的筋弛緩法を受けた人は、治療の4週間後と3カ月後に、歯の不安や抑うつ症状が軽減されていました。歯科治療の不安に関する以前のレビュー(2013年)では、 リラクゼーショントレーニング 、またはリラクゼーショントレーニングと認知行動療法や段階的暴露療法などの他の治療法との併用に関する12件の研究(総参加者679例)が含まれています。このレビューでは、リラクゼーショントレーニングは、患者の歯科治療に対するコントロール感を高め、歯科治療に対する不安を軽減するのに役立つが、歯科治療の状況への曝露を繰り返し徐々に増やすことと組み合わせることで最も効果的であることが示されました。しかし、研究者らは、多くの研究が小規模でデザインが不十分であり、研究デザインもそれぞれ異なっていたことを指摘しています。
不安障害
  • 不安障害 (全般性不安障害、社会不安障害、パニック障害 )の856例を対象とした16件の研究の2018年に報告されたレビューでは、リラクゼーション法 によって、不安、抑うつ、恐怖症、心配の症状が軽減されるという結果が得られました。このレビューでは、不安を軽減するために、リラクゼーション法が認知行動療法よりも効果的であることがわかりました。
  • 50件の研究(参加者2,801例)を対象とした2018年に報告された別のレビューでは、心的外傷後ストレス障害や強迫性障害に対するリラクゼーション法 は認知行動療法よりも効果が低いようだとされました。全般性不安障害、パニック障害、社会不安障害 、 特異的恐怖症など、その他の不安障害については、リラクゼーション法と認知行動療法との間に差は認められませんでした。しかし、レビューでは、ほとんどの研究はバイアスのリスクが高く、一部の個別症状については研究数が少ないことが指摘されました。

リラクゼーション法は痛みを和らげるのに役立ちますか?

リラクゼーション法は、 手術後の痛み、頭痛、腰痛、 関節炎に関連する痛みなどに役立つかもしれません。しかし、支持するエビデンスの中には、質が低いと評価されているものもあります。線維筋痛症の痛みにリラクゼーション法が役立つかどうかは明らかになっていません。

手術後の痛み
  • 2016年に報告されたレビューでは、全身麻酔の待機手術を受けた人を対象に、手術前に行ったさまざまな介入が手術後の痛みに及ぼす影響について検証しました。リラクゼーション法を介入の一部として行った13件の研究を解析した結果、リラクゼーション法が手術後の痛みを軽減するという結果が得られました。
  • 2019年に報告された2件のレビューでは、術後の痛みに対するリラクゼーション法の効果について、1件は腹部の手術について、もう1件は膝関節全置換術について検証しました。対象となった研究のほとんどで、介入は手術後に行われました。一部の研究では、介入は手術の前と後の両方で行われ、1件の介入は手術中に行われました。質の高い研究が不足していたため、どちらのレビューも術後の痛みに対するリラクゼーション法の使用を支持するエビデンスを見いだせませんでした。
頭痛
  • 2018年に報告された6件の研究(参加者274例)のレビューでは、5件の研究で自律訓練法 またはバイオフィードバック支援自律訓練法が頭痛を軽減するのに役立つという結果が得られました。しかし、研究数が少なく、研究内での限界もあったため、レビューの著者らは、今回の結果を慎重に捉えるべきだと述べています。
  • 2018年に報告されたレビューでは、8件の研究のうち5件が、催眠(通常は 自己催眠で、誘導イメージ療法と併用されることが多い)によって、片頭痛や慢性頭痛障害と診断された人の頭痛頻度が減少するという結果が得られました。しかし、今回のレビューでは、質が高いと評価された研究はありませんでした。
  • 2016に報告されたレビューでは、片頭痛と緊張型頭痛に対する心理的介入について19件の研究(総参加者2,600例)を検証しました。ほとんどの介入は、 リラクゼーショントレーニング、 認知行動療法、 バイオフィードバックのいずれかを単独または併用して行っていました。15件の研究で頭痛の改善が認められましたが、改善の度合いは研究によって異なりました。研究によって異なりますが、参加者は毎日の頭痛の頻度が20~67%減少したと報告しています。リラクゼーショントレーニングと認知行動療法を併用した研究が最も支持されているように見えましたが、レビューの著者らは、全体的に研究の質が不足していると述べています。
腰痛
  • 米国内科学会は、慢性腰痛の初期治療に非薬物療法を使用することを推奨しています。(慢性腰痛とは、12週間以上続く腰痛と定義されています)。漸進的筋弛緩法 と バイオフィードバック は、最新のガイドラインで提案されている複数の非薬物療法のうちの2つです。このガイドラインは、2017年に報告されたレビューに基づいており、漸進的筋弛緩法により腰痛と機能の中等度の改善が得られたこと、バイオフィードバックにより腰痛の中等度の軽減が得られたことを示していますが、エビデンスは低いと評価されています。
  • 慢性的な腰痛を持つ58例を対象とした2018年の研究では、 漸進的筋弛緩法が、痛み、不安、抑うつ、生活の質、睡眠に役立つことがわかりました。参加者は、試験開始前の3カ月間にオピオイド薬を服用していましたが、有益な変化は認められませんでした。
関節炎
  • 2015年に報告された7件の研究のレビュー(参加者総数306例)では、関節炎やその他のリウマチ性疾患を持つ成人に、誘導イメージ療法 が有益であるかもしれないことがわかりました。誘導イメージは、音声技術によって提供され、1回だけのものから1日2回16週間のものまで、さまざまでした。そのうち4件の研究(総参加者180例)では、特に痛みについて検証しました。
線維筋痛症
  • 2020年に行われた慢性的な筋骨格系の痛みに対する非薬物治療に関する評価では、線維筋痛症に対する漸進的筋弛緩法のエビデンスは不十分で、バイオフィードバックの明確な効果は認められませんでした。
  • 2015年に報告されたレビューでは、バイオフィードバックについては研究の質が非常に低い、またリラクゼーションベースの療法については研究の質が低いため、バイオフィードバックやリラクゼーションベースの療法が線維筋痛症関連の痛みに役立つかどうかは不明であるとしています。これは、バイオフィードバックに関する2件の研究(参加者総数95例)およびリラクゼーション法に関する3件の研究(参加者総数106例)に基づいています。
  • 2019年に報告されたレビューでは、線維筋痛症に対する治療のための心拍変動バイオフィードバックに関する研究を評価しました。このレビューでは、慢性的な筋骨格系の痛みを対象とした6件の研究(312例)を対象とし、心拍変動バイオフィードバックが痛みの減少に関連するという結果が得られました。このレビューでは、バイオフィードバックが慢性疼痛に対する有望な治療法とされていますが、線維筋痛症関連の疼痛を特に検証した研究は1件のみでした。
  • 2015年に報告されたレビューでは、1回の誘導イメージ療法のセッションは、線維筋痛症関連の痛みの即時的な軽減に役立つことが示唆されましたが、長時間の誘導イメージ療法のプログラムの効果に関する結果は相反していました。このレビューでは、誘導イメージ療法に関する6件の研究(参加者総数は357例)が検証されました。漸進的筋弛緩法や自律訓練法 などの他のリラクゼーション法については、結論は出ていません。

リラクゼーション法は、がん治療中や治療後に役立ちますか?

リラクゼーション法の使用は、乳がん治療中や治療後について、2つの専門団体が推奨しています。他のがん種については、あまり研究が進んでおらず、研究結果に相反するものが認められます。

  • 2017年、統合腫瘍学会(Society for Integrative Oncology)は、 乳がん 治療中および治療後の統合医療の使用に関する臨床実践ガイドラインを更新しました。米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)は、この更新されたガイドラインを支持しました。ガイドラインでは、 気分や抑うつを改善する方法として、リラクゼーション法が推奨されていました。また、このガイドラインでは、 一部の人において化学療法中のストレスや不安の軽減、吐き気や嘔吐の抑制にリラクゼーション法が役立つかもしれず、そのような人には提供できるとしています。

リラクゼーション法は睡眠に役立ちますか?

米国内科学会(American College of Physicians)の診療ガイドライン(2016年)では、慢性不眠症の初期治療として、不眠症のための認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia:CBT-I)の使用を強く推奨しています。リラクゼーション法は、CBT-Iの一部として用いられることもあります。しかし、リラクゼーション法単独では、睡眠に関して特に期待される効果はないようです。

  • 米国内科学会の診療ガイドライン(2016年)によると、リラクゼーション法が一般集団や慢性不眠症の高齢者の睡眠にどのような影響を与えうるかを理解するには、研究が不十分とされています。
  • 2018年に報告されたレビューでは、睡眠を改善しようとする心理的介入について27件の研究が検証されました。この研究では、健康的な睡眠をとる人から、 睡眠障害と診断された人まで、2,776例の大学生を対象としました。リラクゼーション法、マインドフルネス、催眠療法 を検証した研究は、全体の約22%でした。このレビューでは、米国内科学会のガイドラインと同様に、大学生の睡眠を改善するために認知行動療法を推奨しています。このレビューでは、リラクゼーションアプローチは、睡眠の質や睡眠の問題に対してはある程度の効果があり、特に精神的な健康には効果があるという結果が得られました。著者らは、メンタルヘルスの効果を高める方法として、「リラクゼーション法、マインドフルネス、催眠療法」の治療を認知行動療法と組み合わせることを推奨しました。
  • 2015年に報告されたレビューでは、 自律訓練 法や誘導イメージ療法が入眠までの時間を短縮するのに役立つが、この療法はプラセボよりも優れていないことがわかりました。参加者総数284例を含む7件の研究を対象としました。これらの研究は小規模で、質も低かったため、レビュー著者らは、肯定的な結果は疑わしく、他の人に一般化できないと考えました。

リラクゼーション法と他の症状についての研究結果は?

過敏性腸症候群 (IBS:Irritable bowel syndrome)
  • 過敏性腸症候群(IBS)に対する心理療法的介入に関する2020年に報告されたレビューには、リラクゼーション法を用いた小規模な研究が1件含まれていました。69例のIBSの成人が、教育的要素、心理的要素、および 漸進的筋弛緩法と横隔膜呼吸法のトレーニングを含む5週間のコースに参加しました。待機者コントロール(対照群)と比較して、このコースはIBSの症状、抑うつ、生活の質の改善につながりました。しかし、単一の小規模な研究では、多くのエビデンスを得ることはできません。
  • 2017年に報告されたシステマティックレビューでは、リラクゼーション法と認知行動療法の両方が、過敏性腸症候群の成人のメンタルヘルスの 改善に役立つことがわかりました。しかし、認知行動療法が 日常生活機能の改善に役立ったのに対し、リラクゼーション法は役に立ちませんでした。レビューには、リラクゼーション法に関する2つの研究(総参加者数181例の成人)が含まれました。先行レビューと同様に、このレビューも研究数が少なく、明確な理解が得られていないのが現状です。
更年期障害
  • 2019年に報告されたレビューでは、 総じて、ペースを合わせた呼吸法 がホットフラッシュ(ほてり)を有意に改善するというエビデンスが得られました。これは、参加者総数398例を対象とした4件の研究に基づくものです。
  • 2013年に行われた研究では、セラピストによる 臨床催眠 を週に5回行うことで、閉経後の女性のホットフラッシュが軽減されることがわかりました。国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)は、同じ研究者らによるホットフラッシュに対する自己催眠に関する進行中の研究に資金を提供しています。
顎関節症 (Temporomandibular disorder:TMD)
  • 2016年に報告されたレビューでは、TMDのさまざまな非侵襲的治療法を検証し、 バイオフィードバックを用いた2件の研究(参加者総数181例)が含まれていました。1件の研究では、バイオフィードバックをストレスマネジメントと組み合わせ、もう1件の研究では、バイオフィードバックを認知行動療法と組み合わせました。このレビューでは、バイオフィードバックに関する決定的なエビデンスは得られませんでしたが、認知行動療法、口腔内筋膜療法、セルフケアマネジメントが治療の選択肢であることが示唆されました。リラクゼーション法は、認知行動療法とセルフケアマネジメントの一環として行われました。
  • 2015年に報告されたレビューでは、 催眠療法およびリラクゼーション法は、顎関節症の人の痛みや口を最大に開ける動作(能動最大開口)には有用であるかもしれないが、痛みや痛みにつながる最小限の圧力には効果がないという質の低いエビデンスが示されました。このレビューでは、3件(参加者総数159例)の研究を対象としました。

リラクゼーション法に副作用はありますか?

  • リラクゼーション法は、健康な人には一般的に安全と考えられています。ほとんどの研究では、好ましくない副作用の報告はありませんでした。しかしながら、時には、不安増大、侵入思考(望まない非自発的な思考)、自制心を失う恐れなど好ましくない経験が報告される場合もあります。
  • 特定のリラクゼーション法によって、てんかんまたは特定の精神疾患をもつ患者、虐待または心的外傷の既往歴がある人において、症状が悪化するかもしれないとする報告がまれにあります。心疾患のある人は、漸進的筋弛緩法を行う前に今かかっている医療機関に相談してください。

さらに考慮しなければならないこと

  • 重度または長期に渡る何かしらの症状がある場合は、今かかっている医療機関※に相談しましょう。早急に治療する必要がある症状があるかもしれません。例えば、抑うつや不安が続く場合は、資格を持った医療専門家に助けを求めることが重要です。
  • 自分の健康を守るために、自分が行っている補完療法について今かかっている医療機関※に相談しましょう。そうすることで、十分な情報を得た上で意思決定をすることができます。

消費者向け

関連するファクトシート

(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)

さらなる情報

■ NCCIH 情報センター

米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。

米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレタイプライター(TTY、聴覚障害者や難聴の方用):1-866-464-3615
ウェブサイト: https://nccih.nih.gov/(英語サイト)
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)

■ Know the Science(科学を知ろう):

米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。「Know the Science(科学を知ろう)(英語サイト)」(eJIM内:一般向け医療関係者向け)は、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。

Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(英語サイト) (NIH)
Know the Science: How To Make Sense of a Scientific Journal Article(科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法)(英語サイト)(eJIM内:一般向け医療関係者向け
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)(英語サイト) (NIH)

■ PubMed®

米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。

ウェブサイト:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/(英語サイト)

■ Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures & Results (RePORTER)

RePORTERは、研究機関において、政府が助成し現在実施されている科学・医学研究プロジェクトに関する情報のデータベースです。

ウェブサイト: reporter.nih.gov(英語サイト)

■ NIH Clinical Research Trials and You(NIHクリニカル・リサーチ・トライアル・アンド・ユー)

国立衛生研究所(NIH)[米国]が開設したウェブサイトです。一般の人々に、臨床試験の重要性や、どうすれば臨床試験に参加できるのかを知ってもらうために開設されました。サイトには、臨床試験に関する質問と回答、臨床試験の情報を探す方法(ClinicalTrials.govなどの情報検索サイトやその他の情報源)、臨床試験に参加した人の体験談などが掲載されています。臨床試験は、病気を予防、診断、治療するうえで、よりよい方法を見つけ出すために必要な試験です。

ウェブサイト: http://www.nih.gov/health-information/nih-clinical-research-trials-you(英語サイト)

■ Cochrane Database of Systematic Reviews(システマティックレビューのコクランデータベース)

システマティックレビューのコクランデータベースは、国際的非営利組織であるコクランライブラリー により作成された科学的根拠(エビデンス)に基づくレビューのコレクションです。これらのレビューは、医療介入に関する臨床試験の結果を要約しています。要約は無料です。レビュー全文は購読のみです。

ウェブサイト: https://www.cochranelibrary.com/(英語サイト)

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参考文献

その他の参考文献
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謝辞

NCCIHは、この出版物の2021年版からの更新における貢献に対して次の人に感謝します。 David Shurtleff, Ph.D., and Peter Murray, Ph.D., NCCIH

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更新日:2024年5月28日

大野智、富塚啓貴(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日

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