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冠動脈疾患に対するキレーション療法
Chelation for Coronary Heart Disease: What You Need To Know
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版最終アクセス確認日:2022年11月
心疾患は、米国では男女ともに死因の第1位です。冠動脈疾患は心疾患の中で最も多く、米国では、毎年37万人以上の死因となっています。治療には、生活習慣の改善(心臓によい食事や禁煙など)、薬物療法、血管形成術などの医療処置があります。
また、心疾患患者の中には、補完療法として物議を醸しているエチレンジアミン四酢酸(ethylene diamine tetra-acetic acid、EDTA)二ナトリウムを用いたキレーション療法を希望する人もいます。このページでは、冠動脈疾患に対するキレーション療法と、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が資金提供した2つの大規模な研究を含むキレーション療法に関する研究について説明します。
キレーション療法とは?
キレーションとは、物質を使用して金属やミネラルを結合させ、それらを体外に排出させる化学的プロセスのことです。キレーション療法は、鉄過剰症や重度鉛中毒の治療など、通常医療でも使用されています。心疾患の補完的治療法として使用する場合、医療機関ではEDTA二ナトリウムの溶液を静脈から何度も点滴で投与します。1回の治療コースで、週に20~40回、1回数時間の点滴が必要となる場合があります。また、患者は、通常、高用量のビタミン・ミネラルを摂取します。
心疾患に対するキレーション療法は、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration :FDA)で承認されていますか?
いいえ。心疾患に対するEDTAキレーション療法の実施は、FDAによって承認されていません。
後述するように、心臓発作を起こしたことがあり、かつ糖尿病を患っている人を対象とした心疾患に対するEDTAキレーション療法の大規模研究が現在進行中です。研究終了後、FDAは、その結果を、この目的でのEDTAキレーション療法の実施を承認するかどうかの判断材料とするかもしれません。
冠動脈疾患に対するキレーション療法の研究結果は?
- 冠動脈疾患に対するキレーション療法の大規模な研究が1つ終了しました。米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)と国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)が助成した「キレーション療法の大規模ランダム化プラセボ対照試験(Trial to Assess Chelation Therapy:TACT)」です。
- TACTの参加者1,708例は、年齢が50歳以上で、少なくとも1回以上心臓発作を起こしたことがある人たちです。EDTAまたはプラセボによる40回の治療と、高用量のビタミン・ミネラルまたはプラセボの錠剤いずれかの投与を無作為に割り当てられ、参加者はどの治療を受けているかは知らされませんでした。
- 全体として、キレーション療法は心血管系イベントの発生をわずかに減少させました。しかし、さらなる解析の結果、この有益な効果は糖尿病の人にのみ生じることがわかりました。
- 参加者の約3分の1を占めた糖尿病患者は、約5年間で、あらゆる心血管イベントのリスクが41%、心疾患、非致死性脳卒中、非致死性心臓発作による死亡のリスクが40%、心臓発作の再発が52%、あらゆる原因による死亡が43%減少しました。
- 高用量のビタミン・ミネラル(eJIM内:一般向け・医療関係者向け)は、心血管系イベントを減少させませんでしたが、安全であると考えられました。しかし、多くの人がビタミン・ミネラルやプラセボの錠剤の服用を中止したり、研究から脱落したりしたため、研究者らはこれらの結論について完全に確信することはできませんでした。4つの研究群(キレーション治療とビタミン・ミネラル群、キレーション治療とプラセボ錠群、プラセボ治療とビタミン・ミネラル群、プラセボ治療とプラセボ錠群)をすべて比較したところ、キレーションとビタミン・ミネラルを受けた群では心血管イベントが最も少なく、プラセボ治療とプラセボ錠を受けた群では最も多くなりました。
- TACTの結果を完全に理解するためには、さらなる研究が必要です。今回の結果は、キレーションの有用性を示した初めての臨床試験であるため、この結果だけでは、糖尿病患者における心臓発作後の治療法としてキレーション療法を日常的に用いることを支持するには十分ではありません。
現在、冠動脈疾患に対するキレーション療法の研究は進んでいますか?
はい。現在、キレーション療法の大規模ランダム化プラセボ対照試験の第2期(Trial to Assess Chelation Therapy 2:TACT2)という大規模な研究が行われています。その目的は、最初のTACT試験を繰り返すことですが、対象は心臓発作を起こしたことのある糖尿病患者のみとし、明らかな効果が確認されるかを検証することです。TACT2は、NCCIHおよびその他のNIH機関の助成を受けています。
キレーション療法に副作用はありますか?
- はい、あります。最も重要で重篤な副作用は、低カルシウム血症(血中カルシウム濃度の異常低下)と腎臓へのダメージです。
- 広範な安全性モニタリングが行われたTACT試験では、キレーション療法を受けた人の16%、プラセボを受けた人の15%が有害事象を理由に点滴を中止しています。そのうち4件は重篤な事象で、2件はキレーション群(死亡1件)、2件はプラセボ群(死亡1件)でした。
市販のキレーション製品は効果がありますか?安全ですか?
さらに考慮しなければならないこと
- 冠動脈疾患のためにキレーション療法を検討する場合は、まず今かかっている循環器専門医や医療機関※に相談しましょう。その治療法に関する科学的研究から得られる情報を探し、検討してください。
- 自分の健康を守るために、自分が行っている補完療法について今かかっている医療機関※に相談しましょう。
一般向け
医療関係者向け
関連するファクトシート
(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)そうすることで、十分な情報を得た上で意思決定をすることができます。
さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
米国内の無料通話:1-888-644-6226
テレタイプライター(TTY、聴覚障害者や難聴の方用):1-866-464-3615
ウェブサイト: https://nccih.nih.gov/(英語サイト)
E-mail:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)
■ Know the Science(科学を知ろう):
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)と米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、科学研究の基礎と用語を理解し、自分の健康について十分な情報を得た上で意思決定できるようにするためのツールを提供しています。「Know the Science(科学を知ろう)(英語サイト)」(eJIM内)は、インタラクティブなモジュール、クイズ、ビデオなどのさまざまな教材や、消費者が健康情報を理解できるように設計された連邦政府のリソースから有益なコンテンツへのリンクを提供しています。
Explaining How Research Works(研究のしくみを知る)(英語サイト)(NIH)
Know the Science: How To Make Sense of a Scientific Journal Article(科学を知ろう:科学雑誌の論文を理解する方法)(英語サイト)(eJIM内)
Understanding Clinical Studies(臨床試験を理解する)(英語サイト)(NIH)
■ PubMed®
米国国立医学図書館(National Library of Medicine, PubMed®:NLM)のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、「補完・統合医療に関する情報をPubMed® で検索する方法」をご覧ください。
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監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2024年5月28日
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