海外の情報
S-アデノシルメチオニン (SAMe)
S‐adenosylmethionine、SAM-e
[補足]
本文中の必要摂取量、推奨摂取量、上限値・下限値等は米国人を対象としたデータです。日本人に関するデータについては「日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」などをご参照ください。
日本人の食事摂取基準(厚生労働省)
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版改訂年月(翻訳時):2017年1月
要点は?
SAMeについて解明されていることは?
S-アデノシルメチオニン(S‐adenosylmethionine、SAM-e)におけるさまざまな潜在的応用については複数の研究が進められており、これまでにうつ病や肝疾患について相当数の試験が完了している。しかし、一部の試験ではSAMeの注射剤を用いており、これはサプリメントとして経口摂取するSAMeとは効果が同一ではない可能性がある。
SAMeの有効性についてわかっていることは?
SAMeは、主にうつ病、変形性関節症、肝疾患を対象に研究が続けられてきた。このような疾患にSAMeが有用である可能性が示されているが、科学的根拠(エビデンス)は決定的なものではない。
SAMeの安全性について
- SAMeの長期的な使用に対する安全性や妊娠中に使用した場合の安全性についてはデータが少ないため、結論は出ていない。
- SAMeは双極性障害の人では安全ではない可能性がある。
- SAMeは、一部の医薬品あるいは他のサプリメントと相互作用することがある。
- 作用機序から考えるとHIV陽性の人など免疫不全の人では、SAMeの摂取によって、ニューモシスチス感染を助長する可能性があるとされている。
SAMeとは?
S-アデノシル-L-メチオニン(アメリカではS-adenosyl methionine、S-adenosylmethionine、SAMeあるいはSAM-e、ヨーロッパではアデメチオミンともいい、SAMやAdoMetと略されることが多い)は、生体内にもともと存在する化学物質である。アメリカでは、SAMeはサプリメントとして販売されている。
SAMeは1950年代初頭に発見された。SAMeは、食物に含まれるアミノ酸の一種であるメチオニンから体内で合成され、生細胞における重要な機能を調節することが、これまでに分かっている。
肝疾患やうつ病では、体内のSAMeが異常値を示すことが報告されている。このようなことから、研究者はSAMeが肝疾患やうつ病の治療に役立つのではないかと考え、研究を始めた。SAMeが変形性関節症に効果がある可能性があるとする考えは、うつ病を対象としたSAMeの研究に基づいている。うつ病研究に参加した、変形性関節症を合併する患者の一部で、SAMeを摂取すると関節症状が改善したとの報告があった。
SAMeの効果に対する科学的根拠
SAMeは、うつ病、変形性関節症、および肝疾患での研究が最も進んでいた。この3つの疾患すべてについて、研究からSAMeの有用性が決定的に示されているわけではない。
うつ病
全体的に、SAMeの経口(口から)摂取がうつ病に有用であるというエビデンスは決定的なものではない。
少なくとも40件の試験がうつ病に対するSAMeを評価しており、その多くが有効であるというエビデンスを示している。しかし、これらの試験のほとんどはわずか数週間で終了し、参加者が少数であり、質の高い試験とはいえない。また、一部の試験では、経口摂取ではなくSAMeを注射によって投与していた。
変形性関節症
変形性関節症のSAMeに関する試験結果は混在している。
人を対象とした試験では、膝または股関節の変形性関節炎の患者に、経口SAMeと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、変形性関節炎の痛みを緩和するために使用される医薬品)またはプラセボ(不活性物質)と比較している。
- 一般に、SAMeとNSAIDsを比較した試験では、疼痛緩和と関節機能の改善は類似しており、さらにSAMeを摂取している患者の副作用が少なかったことが示された。
- 数の少なかったSAMeとプラセボを比較した試験では、SAMeが有効であることを一貫して示さなかった。
肝疾患
体内のSAMeレベルの低下と肝疾患の発症との関連を示すエビデンスがいくつかあり、動物実験ではSAMeが肝障害に有用であるかもしれないことが示唆されている。しかし、SAMeが人の肝障害に有益であるかどうかは確立されていない。
- 胆汁うっ滞は、肝臓からの胆汁の流れが減速または遮断される状態である。複数の試験では、妊娠中肝胆汁うっ滞(intrahepatic cholestasis of pregnancy :ICP)と呼ばれる一種の胆汁うっ滞についてSAMeが評価されている。ICPは、通常、妊娠第3期に発生し、特徴的な症状としてかゆみを伴う。この試験では相反する結果があり、現時点のデータはSAMeがICPに役立つかどうかを示すには不十分である。
- SAMeは、アルコール性肝硬変、C型肝炎、各種胆汁うっ滞、非アルコール性脂肪性肝炎などの他の肝疾患や肝臓がんの予防についても研究されているが、確定的ではない。
その他の状況
SAMeは線維筋痛症、片頭痛、統合失調症、アルツハイマー病および注意欠陥多動性障害を含む他の疾患についても研究されているが、これらの疾患での効果についての結論に到達するには十分なエビデンスはない。禁煙援助としてのSAMeの試験では、禁煙率の上昇、禁断症状の軽減はなかったことが示された。
SAMeの安全性および副作用
- ほとんどの研究では参加者のSAMe摂取期間が短かったことから、SAMeの長期的な安全性に関する情報は限られている。しかし、アルコール関連肝疾患を対象としたある研究では、参加者のSAMe摂取期間は2年に及んだ。この試験では、重篤な副作用は報告されなかった。
- SAMeは躁症状を悪化させることがあるため、双極性障害の人(うつ状態から躁状態まで気分が変動する特徴がある疾患)は、医療スタッフの管理下にない限り、うつ症状に対してSAMeを摂取すべきではない。
- SAMeは妊娠時胆汁うっ滞の治療に用いられてきましたが、妊娠中の使用について安全性は確立していない。
- SAMeは、パーキンソン病の治療に用いる医薬品のレボドパ(L-dopa)の効果を減弱させるおそれがある。また、SAMeは、抗うつ薬やL-トリプトファン、セイヨウオトギリソウなどのセロトニン(神経細胞によって合成される化学物質)の血中濃度を上昇させる医薬品やサプリメントと相互作用する可能性もある。
- 作用機序を考慮すると、免疫不全の人(HIV陽性など)でのSAMe使用には懸念がある。免疫不全の人はニューモシスチス感染のリスクがあるが、SAMeはこの原因微生物の増殖を助長する。
- SAMeの副作用はまれで、副作用がみられる場合でも、通常は悪心や消化不良など軽微な副作用にとどまる。
NCCIHによる研究助成
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)による最新の研究では、以下の評価を実施中である。
- 非アルコール性脂肪肝におけるSAMeの役割
- 結腸がんの発生に関与するSAMeおよび酵素の潜在的役割
さらに考慮しなければならないこと
- 医療機関への受診を先延ばしにする理由としてSAMeを用いるべきではない。
- SAMeサプリメントを摂取する前に医療スタッフが相談にのるとよい。妊娠中や授乳中である場合、医薬品や他のサプリメントを摂取する場合、または双極性障害やパーキンソン病、HIV陽性である場合、あるいは小児にSAMeを飲ませようと検討している場合は、かかりつけの医療スタッフに相談することが特に重要である。
- 患者が自分の健康に責任を持ち、行っている補完療法をすべてのかかりつけの医療スタッフに相談することが重要である。それによって連携のとれた安全な治療が可能になるだろう。
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さらなる情報
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(NCCIH)[米国]の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースの文献や調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
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E-mail:info@nccih.nih.gov
■ PubMed®
国立医学図書館(NLM)[米国]のサービスであるPubMed®には、科学・医学雑誌に掲載された論文の情報(掲載号、出版年月日など)および(ほとんどの場合)その論文の要約が掲載されています。NCCIHによるPubMed使用のガイダンスは、<89>How To Find Information About Complementary Health Approaches on PubMed89>(英語サイト)をご覧ください。
■ NIH Clinical Research Trials and You
米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は、人々が臨床試験について知り、なぜ臨床試験が重要なのか、どのように臨床試験に参加するかを学べるよう、ウェブサイトNIH Clinical Research Trials and Youを開設しました。このサイトには、臨床試験に関する質問と回答、ClinicalTrials.govから臨床試験を見つける方法に関するガイダンス、そのほかのリソース、臨床試験参加者の個人的な経験談などが含まれています。臨床試験は、病気の予防、診断、治療のよりよい方法を見つけるために必要です。
■ MedlinePlus
健康に関する質問に答えるリソースを提供するため、MedlinePlus(米国国立医学図書館のサービス)が国立衛生研究所および他の政府機関と健康関連団体からの信頼できる情報をまとめています。
ウェブサイト: www.medlineplus.gov(英語サイト)
参考文献
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- De Silva V, El-Metwally A, Ernst E, et al. Evidence for the efficacy of complementary and alternative medicines in the management of osteoarthritis: a systematic review.(英語サイト) Rheumatology. 2011;50(5):911–920.
- Gurung V, Stokes M, Middleton P, et al. Interventions for treating cholestasis in pregnancy.(英語サイト) Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013;(6):CD000493 [edited 2014]. Accessed at www.cochranelibrary.com on August 11, 2015.
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謝辞
NCCIHは、このファクトシート2015年版からの更新におけるレビューに対して次の人に感謝します。
Craig Hopp, Ph.D., and David Shurtleff, Ph.D., NCCIH
【免責事項】
ダイエタリーサプリメント室が作成したこのファクトシートは、情報を提供するものであり、医師のアドバイスの代わりになるものではありません。サプリメントに関する興味・関心、疑問、利用法、何があなたの健康全般のために最善かについて尋ねたい場合は、医療スタッフ(医師、管理栄養士、薬剤師など)に相談することをお勧めします。この文書内で言及している個別の商品名は、その製品を推奨しているものではありません。
監訳:大野智、佐々木淳一(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
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