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葉酸塩
Folate

写真に掲載している食材の成分表一覧
位置 食品 100gあたりの
含有量(μg)
A 豆類・ひよこ豆・全粒・乾(ささげ・全粒・乾) 350(300)
B 嗜好飲料類・抹茶 1200
C 豆類・だいず・全粒・国産・黄大豆・乾 260
D 藻類・あまのり・焼きのり 1900
E 魚介類・うに・生うに 360
F 藻類・あまのり・味付きのり 1600
G 肉類・ぶた・肝臓・生 810
H 野菜類・えだまめ・冷凍 310
I 果実類・ドライマンゴー 260
J 嗜好飲料・青汁・ケール 820

[補足]
本文中の必要摂取量、推奨摂取量、上限値・下限値等はアメリカ人を対象としたデータです。日本人に関するデータについては「日本人の食事摂取基準(厚生労働省)」などをご覧ください。
日本人の食事摂取基準(厚生労働省)

本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。

最新版(英語版オリジナルページ)はこちら
英語版改訂年月(翻訳時):2020年6月3日

このファクトシートは、医療関係者向けです。平易な葉酸塩の概要については、「一般向け:葉酸塩」をご覧ください。

はじめに

葉酸塩は水溶性のビタミンBで、一部の食物中に天然に存在し、他の食物に添加されたり、サプリメントとして市販されたりしている。「葉酸塩」は、もともと「フォラシン」、時には「ビタミンB9」として知られ、天然に存在する食物中の葉酸塩と葉酸などのサプリメントや強化食品に含まれる葉酸の総称である。食物中の葉酸塩はテトラヒドロ葉酸(tetrahydrofolate:THF)の形で存在し、通常は複数のグルタミン酸残基を有してポリグルタミン酸を形成する。葉酸は、強化食品や多くのサプリメントに用いられる完全酸化されたモノグルタミン酸型ビタミンである。モノグルタミン酸型の葉酸塩である5-methy-THF(L-5- MTHF、5-MTHF、L-メチル葉酸塩、およびメチル葉酸塩)を含有するサプリメントもある。

葉酸塩は、核酸(DNAおよびRNA)合成ならびにアミノ酸の代謝において、一炭素転移の補酵素または補助基質として機能する[1-3]。極めて重要な葉酸塩依存性反応の一つは、重要なメチル基供与体であるS—アデノシルメチオニンの合成におけるホモシステインからメチオニンへの変換である。別の葉酸塩依存性反応である、DNA形成過程のデオキシウリジル酸からチミジル酸へのメチル基転移は、正常な細胞分裂に必要な反応である。この反応が阻害されると、葉酸塩欠乏症の特徴の一つである赤芽球性貧血を引き起こす可能性のある変化が始まる[4]。

摂取された食事由来の葉酸塩は、腸管粘膜を介する能動輸送により吸収される前に、腸管で加水分解を受け、モノグルタミン酸型葉酸になる[2]。薬理学的な量の葉酸が摂取された場合には、受動的拡散も起こる。モノグルタミン酸型葉酸は、血中に移行する前にジヒドロ葉酸還元酵素によってTHFに還元され、メチル型かホルミル型のいずれかに変換される[1]。血漿中の葉酸塩は主に5—メチルテトラヒドロ葉酸(5-metyl-THF)の形で存在する。

ジヒドロ葉酸還元酵素の活性は、個人間で大きく異なる[3]。ジヒドロ葉酸塩還元酵素の活性を超えていると、葉酸の未変化体が血中に存在する可能性がある。[1,5,6]。葉酸の未変化体が何らかの生物学的活性を有しているのか、あるいは葉酸塩の状態を評価するバイオマーカーとして活用できるのかについては不明である。[7]葉酸塩は、結腸微生物叢により合成される場合もあり、結腸から吸収されるが、葉酸塩の状態に対する結腸葉酸塩の寄与度がどの程度であるかは明らかにされていない[8]。葉酸塩の体内総含有量は15~30 mgと推定されており、このうち半量が肝臓に貯蔵され、残りは血中や体組織に存在する[1]。

血清中葉酸塩濃度は葉酸塩の状態を評価するためによく用いられ、3 ng/mLを上回る値であれば摂取量が十分であるとされている[1,2,9]。しかし、この指標は直近に摂取した食事由来の葉酸塩摂取量に感応するため長期間の状態を反映していない可能性がある。長期間の葉酸塩摂取量は、赤血球葉酸塩濃度から得られる。140 ng/mLを上回る濃度であれば葉酸塩の状態は適切であるとされる[2,3,7,9]。

血清中や赤血球中の葉酸塩濃度と代謝機能の指標を組み合わせて、葉酸塩摂取状況を評価することも可能である。5-methyl-THF欠乏症のため身体がホモシステインをメチオニンに変換できない場合にホモシステイン濃度が上昇することから、血漿中ホモシステイン濃度は葉酸塩摂取状況の機能的指標としてよく用いられる[9] 。しかし、ホモシステイン濃度は、腎機能障害やビタミンB12や他の微量栄養素の欠乏症をはじめとする他の因子の影響を受けることがあるため、葉酸塩の状態に対する特異性はそれほど高くない[1,3,9,10]]。最も一般的なホモシステイン濃度のカットオフ上限値は16µmol/Lであるが、これより少し低い12~14µmol/Lも用いられている[2]。集団における葉酸塩摂取状況の評価には、ホモシステイン濃度のカットオフ値として10µmol/Lが提唱されている[3]。

推奨摂取量

米国科学アカデミー医学研究所(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)の食品栄養委員会(Food and Nutrition Board:FNB)が設定した食事摂取基準(Dietary Reference Intake:DRI)には、葉酸塩や他の栄養素の推奨摂取量が提示されている[2]。DRIは、健常人の栄養摂取の計画と評価に関する一連の基準値に対する総称である。これらの基準値は年齢や性別毎に異なり、次のような項目がある。

  • 推奨栄養所要量(Recommended Dietary Allowance:RDA):ほとんどすべての(97~98%)健常人が栄養所要量を満たすのに十分な平均1日摂取量。
  • 適正摂取量(Adequate Intake:AI)RDAを設定するための科学的根拠(エビデンス)が不十分である場合に示され、十分な栄養が確保できると推定される値に設定されている。
  • 推定平均必要量(Estimated Average Requirement:EAR):健常者の50%において所要量を満たすと推定される平均1日摂取量。通常、母集団の栄養摂取量の妥当性を評価し、栄養学的に適切な食事を計画するために使用される。また、個人の栄養摂取量の評価にも利用できる。
  • 許容上限摂取量(Upper Intake Level:UL):健康上の有害作用を引き起こすとは考えにくい最大1日摂取量。

表1は、最新の葉酸塩のRDAを食事性葉酸塩当量(dietary folate equivalent:DFE)マイクログラム(µg)で列挙している。FNBは、葉酸の方が食物中の葉酸塩よりもアベイラビリティ(生物学的利用能)が高いことを考慮してDFEを設定している。食物と一緒に摂取された葉酸の85%以上は生物学的に利用可能であると推定されているが、一方で、食物中に天然に存在している葉酸塩は約50%しか利用できない[1,2,4]。これらの値に基づいてFNBはDFEを以下のように規定した。

  • 1 µg DFE = 食事性葉酸塩1 µg
  • 1 µg DFE = 食物と共に摂取された栄養強化食品やサプリメント由来の葉酸0.6 µg
  • 1 µg DFE = 空腹時に摂取したサプリメント由来の葉酸0.5 µg

サプリメント中の5-methyl-THFの形で存在する葉酸塩をµg DFEからµgに変換する因子は、公式的には確立されていない。

FNBは、アメリカ国内の健常母乳栄養児の平均葉酸塩摂取量に等しい値を、生後〜12カ月齢までの乳児に対する葉酸塩のAIに設定した。 (表1参照)

表1:葉酸塩の推奨栄養所要量(Recommended Dietary Allowance:RDA)[2]
表1:葉酸塩の推奨栄養所要量(Recommended Dietary Allowance:RDA)
年齢 男性 女性 妊婦 授乳婦
誕生0~6カ月* 65 µg DFE* 65 µg DFE*
生後7~12カ月* 80 µg DFE* 80 µg DFE*
1~3歳 150 µg DFE* 150 µg DFE*
4~8歳 200 µg DFE* 200 µg DFE*
9~13歳 300 µg DFE* 300 µg DFE*
14~18歳 400 µg DFE* 400 µg DFE* 600 µg DFE* 500 µg DFE*
19歳以上 400 µg DFE* 400 µg DFE* 600 µg DFE* 500 µg DFE*

* 適正摂取量(AI)

葉酸塩の摂取源

食物

葉酸塩は野菜(特に濃緑色葉物野菜)、果物、果汁、ナッツ類、インゲン豆、エンドウ豆、魚介類、卵、乳製品、肉、鶏肉、および穀類(表2)などの多様な食物に含有されている(表2)[4,12]。ホウレン草、レバー、アスパラガスおよび芽キャベツは最も葉酸塩含有率が高い食物のうちの一つである。

神経管欠損症(neural tube defect:NTD)のリスク(危険)を低減するため、米国食品医薬品局(U.S. Food and Drug Administration:FDA)は、製造業者に対し、1998年1月から栄養強化パン、シリアル、小麦粉、コーンミール、パスタ類、米およびその他の穀物製品について100g当たり葉酸140µgを添加するよう要請した[13]。シリアルや穀物はアメリカ国内で広く消費されているため、これらの製品はアメリカ人の食事における非常に重要な葉酸供給源となった。強化プログラムによって、アメリカでは、平均葉酸摂取量が1日あたり約190µg増加した[14] FDAは、2016年4月には、トウモロコシ粉100gあたり最大154µgまで葉酸の自主的な添加を認めた[15] 。

カナダ政府も、1998年11月1日から栄養強化パスタ、コーンミール、精製小麦粉をはじめとする多数の穀物類に対し100gあたり葉酸150µgの添加を求めた[6,16] 。コスタリカ、チリ、南アフリカを含む他の国々も、強制的葉酸強化プログラムを立ち上げた[6,17]。

表2:葉酸・葉酸塩供給源となる食物例[12]
表2:葉酸・葉酸塩供給源となる食物例
食物(1オンスは約28g、1カップは240ml) 1食あたりのマイクログラム(µg) DFE %DV*
牛レバー、蒸し煮、3オンス(約90g) 215 54
ホウレンソウ、茹で、1/2カップ(120ml) 131 33
ササゲ、茹で、1/2カップ(120ml) 105 26
朝食用シリアル、DVの25%強化 ** 100 25
白米、中粒、加熱調理、1/2カップ(120ml) ** 90 22
アスパラガス(茹で)、4本 89 22
芽キャベツ、冷凍、茹で、1/2カップ(120ml) 78 20
スパゲティ、加熱調理、栄養強化、1/2カップ(120ml) ** 74 19
ロメインレタス、細切り、1カップ(240ml) 64 16
アボガド、生、薄切り、1/2カップ(120ml) 59 15
ホウレンソウ、生、1カップ(240ml) 58 15
ブロッコリ、冷凍、刻み、加熱調理、1/2カップ(120ml) 52 13
からし菜、冷凍、刻み、茹で、1/2カップ(120ml) 52 13
精白パン1枚 50 13
グリーンピース、冷凍、茹で、1/2カップ(120ml) 47 12
赤インゲン豆、缶詰、1/2カップ(120ml) 46 12
麦芽、大さじ2杯 40 10
トマトジュース、缶詰、3/4カップ(180ml) 36 9
カニ、アメリカイチョウガニ、3オンス(約90g) 36 9
オレンジジュース、3/4カップ(180ml) 35 9
カブの葉、冷凍、茹で、1/2カップ(120ml) 32 8
ピーナッツ、ドライロースト、30 ml 27 7
オレンジ、生、小1個 29 7
パパイヤ、生、さいの目切り、1/2カップ(120ml) 27 7
バナナ 中1本 24 6
パン酵母、¼ティースプーン 23 6
卵、丸ごと、固ゆで、大1個 22 6
カンタロープメロン、生、さいの目切り、1/2カップ(120ml) 17 4
ベジタリアン用ベイクドビーンズ(インゲン豆を甘辛いソースで調理した料理)、缶詰、1/2カップ(120ml) 15 4
魚、オヒョウ、加熱調理、3オンス(約90g) 12 3
牛乳、乳脂肪1%、1カップ(240ml) 12 3
牛ひき肉、85%赤身、加熱調理、3オンス(約90g) 7 2
鶏むね肉、焼き、3オンス(約30g) 3 1

*DV = 1日摂取量。FDAは、消費者が食事全体における食物およびサプリメントの栄養素含有量を比較するのに役立つよう1日摂取量(Daily Value: DV)を設定した。最新の栄養成分表示と補足成分表示のラベルに記載され、表2の値に使用されている葉酸塩のDVは、成人よび4歳以上の小児で400µg DFEである[11]。ここで、µg DFEは、µg 天然葉酸塩+(1.7 xµg 葉酸)である。新しいラベルには、1食分あたりµgDFEで葉酸塩含有量を記載する必要があり、製品に葉酸を追加する場合は、括弧内にµgでの葉酸の量も記載する必要がある。FDAは、製造業者に2020年1月より最新の栄養成分表示 を使用するよう義務付けているが、年間売上1千万ドル以下の業者に関しては、2021年1月までは葉酸塩DV400µgの古い表示の継続使用を許可している。[18,19]。FDAは、葉酸が食物に追加されていない限り、葉酸塩含有量を食品ラベルに表記することを要求していない。DVが20%以上となる食物は高栄養源と考えられるが、DVのパーセンテージが低い食物でも健康的な食事をとることができる。

**葉酸塩強化プログラムの一貫として、葉酸が強化されている。

米国農務省(The U.S. Department of Agriculture:USDA)のFoodData Central (英語サイト)では、多くの食物の栄養素含有量をリストアップし、栄養素含有量別および食物別に整理された、葉酸塩を含む食物の総合リストを提供している。

サプリメント

葉酸は、マルチビタミンや妊婦用ビタミンのサプリメント、葉酸以外のビタミンB群を含むサプリメント、および葉酸単体のサプリメントから摂取可能である。一般的な摂取量は、成人用サプリメントで680~1,360µgDFE(葉酸400~800µg)、小児用マルチビタミン剤で340~680µgDFE(葉酸200~400µg)である。[20,21]

食物と一緒に摂取された場合、サプリメント由来の葉酸の約85%が体内に吸収される[2,4]。食物なしで摂取されたときは、サプリメント中の葉酸のほぼ100%が体内に吸収される。

還元型葉酸塩である5-methyl-THF(別称:メチル葉酸塩)を含有するサプリメントも市販されている。一部の人には、5-methyl-THF含有サプリメントの方が葉酸含有サプリメントよりも効果的である可能性がある(以下の「MTHFR多型を有する人」を参照のこと)[22,23]。サプリメント中の5-methyl-THFのバイオアベイラビリティは、葉酸のバイオアベイラビリティと同等であるか、または高い[24-29]。ただし、5-メチル-THFのµgとµgDFE間の換算係数は正式には確立されていない。FDAは、製造業者が葉酸に匹敵する1.7の換算係数、または1.7を超えない独自の確立された換算係数のいずれかを使用することを許可している[11]。

葉酸塩の摂取状況

2013~2014年の米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)のデータによれば、ほとんどのアメリカ人は適正量の葉酸塩を摂取している。食事由来の平均葉酸塩摂取量は、2歳〜19歳までの子供では417〜547µg DFE/日であった[30]。食事由来の平均葉酸塩摂取量は、20歳以上の男性では602µg DFE/日、女性では455µg DFE/日であった。

ほとんどの人が十分な量の葉酸を摂取しているが、出産適齢期の女性や非ヒスパニック系黒人女性を含む特定のグループは、十分な葉酸が摂取できないリスクがある。サプリメント由来の葉酸が摂取量に含まれている場合でも、14歳〜18歳の青年期女性の19%および19歳〜30歳の女性の17%がEARを満たしていない[31]。同様に、総摂取量が適正値に満たない人の割合は、非ヒスパニック系白人女性では13%であったのに対し、非ヒスパニック系黒人では23%であった。

アメリカでは、成人の約35%および1~13歳までの小児の約28%が葉酸を含有するサプリメントを利用している[31,32]。51~70歳までの成人は、他の年齢層と比較して、葉酸含有サプリメントを摂取する傾向がある。また、非ヒスパニック系白人では、非ヒスパニック系黒人またはメキシコ系アメリカ人と比較して、利用率が高い。葉酸含有サプリメントを利用する2歳以上の人は、そのようなサプリメント類から平均712µg DFEを摂取している[30]。

赤血球葉酸塩濃度の測定値からも、アメリカではほとんどの人が適切な葉酸塩摂取状況にあることが示唆される。2003〜2006年のNHANESデータ解析によると、1歳〜18歳の青年において赤血球葉酸塩濃度が低値を示した割合は全体の0.5%未満であった[20]。この年齢層の平均濃度は211〜294 ng/mLで、年齢や食事習慣、サプリメント摂取の有無によって値が異なる。成人では、平均赤血球葉酸塩濃度は216〜398 ng/mLで、葉酸塩摂取状況は適切である[33]。

一部の母集団では、葉酸塩を過剰に摂取する危険性がある。50歳以上の人は総葉酸塩摂取量が最も高く、約5%がUL(1000µg)を上回る量を摂取していた。これは主として葉酸サプリメント摂取が原因である[31]。また、多くの小児においても、摂取量がULを上回っている。食事由来の葉酸とサプリメント由来の葉酸の両方を考慮した場合、1歳〜13歳の小児の30%〜66%が、年齢別に設定されたUL(300~600µg/日)を上回る量を摂取していた[32]。サプリメントから少なくとも200µg/日の葉酸を摂取している1歳〜8歳の小児では、ほぼ全員の葉酸塩総摂取量がULを超えていた[20]しかしながら、小児が高用量の葉酸を長期間摂取した場合の影響についてはほとんど知られていない[7]。

葉酸塩欠乏症

弧発性葉酸塩欠乏症の発症はまれである。本症は偏食やアルコール依存症そして、時には吸収不良といった障害に強く関連していることから、通常は他の栄養障害を併発する[4]。大型の異型核を有する有核赤血球の出現を特徴とする巨赤芽球性貧血は、葉酸塩またはビタミンB12欠乏症の主な臨床徴候である[1,4]。巨赤芽球性貧血の症状には、脱力感、疲労、集中力低下、易刺激性、頭痛、動悸、息切れなどがある[2]。

葉酸塩欠乏症ではまた、舌や口腔粘膜に痛みを生じたり、浅い潰瘍を形成したりすることがあり、皮膚、毛髪、または指爪の色素沈着に変化が認められ、血中ホモシステイン濃度が上昇する[1,2,4,34]。

作用機序は不明であるが、葉酸塩摂取量が不十分な女性では、神経管閉鎖障害(NTD)の乳児を出産するリスクが高まる[2]。母親の葉酸塩摂取量不足は、低出生体重児、早産、胎児発育遅延とも関連している[1,35]。

葉酸塩欠乏のリスク群

明らかな葉酸塩欠乏症はアメリカではまれであるが、一部の人では葉酸塩摂取状態が適切ではない可能性がある。以下が、葉酸塩欠乏症のリスクが最も高い集団である。

アルコール依存症の人

アルコール依存症の人は、葉酸塩含有量が低い質の低い食事を摂取していることが多い。さらに、アルコールは葉酸塩の吸収および代謝を阻害し、分解を促進する[1,4,9]。食糧に葉酸が添加されていないポルトガルにおける慢性アルコール依存症の人の栄養状態に関する試評価により、60%以上が低葉酸塩状態にあることが確認された[36]。1日あたり赤ワイン240g(8液量オンス)、または1日あたりウオッカ80g(2.7液量オンス)を2週間飲用するといった中程度のアルコール摂取量であっても、葉酸塩摂取状態の基準下限値(3 ng/g)を下回りはしないものの、健康な男性の血清中葉酸塩濃度が顕著に低下する[37]。

妊娠可能年齢の女性

妊娠可能なすべての女性は、NTDや他の出生異常のリスクを減らすために十分な量の葉酸塩を摂取すべきである[2,38,39]。残念ながら、一部の妊娠可能年齢の女性は、食事とサプリメントの両方の摂取量を含めても葉酸塩摂取量が不十分である[31]。妊娠可能年齢の女性は、さまざまな食事由来の葉酸に加えて、サプリメントや強化食品から400µg/日の葉酸を摂取する必要がある[2]。

妊娠中の女性

葉酸塩は核酸合成に関与しているため、妊娠中は葉酸要求量が増加する[35]。FNBは、この需要に対応するため、妊娠していない女性の葉酸塩の推奨栄養所要量が400µg/日であるのに対して、妊娠中の女性に対する基準値を600µg/日まで引き上げた[2]。この摂取基準は、一部の女性にとって食事のみでは達成が難しい可能性がある。米国産科・婦人科学会(American College of Obstetricians and Gynecologists)は、ほぼ全ての妊娠中の女性に対し、適切な量の葉酸や他の栄養素を確実に摂取するために、妊婦用ビタミンサプリメントを摂取するよう推奨している[40]。

吸収不良疾患の人

ある種の疾患は、葉酸塩欠乏症のリスクを高める。例えば、熱帯性スプルーやセリアック病、炎症性腸疾患のような吸収不良疾患を有する人[4]はこれらの障害のない人と比較して葉酸塩の吸収率が低下している可能性がある[41]。萎縮性胃炎や胃の手術、他の疾患に伴う胃酸分泌の減少によっても、葉酸塩の吸収が低下するおそれがある[4]。

MTHFR多型を有する人

メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(methylenetetrahydrofolate reductase:MTHFR)遺伝子に遺伝子多型677C>Tを有する人は、葉酸塩を活性型の5-MTHFへ変換する際に必要なメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の活性が低いため、この変換能力に障害がみられる[23]。ヒスパニック系の約25%、白人およびアジア人の10%、アフリカ系アメリカ人の1%がMTHFR多型の677C>Tホモ接合体を有している。この多型を有すると、生物学的に利用可能な5-MTHFが少ないためメチル化能の低下をきたし、それによってホモシステイン濃度が上昇しNTDのリスクが増大する[1,3,22,42]。この遺伝子多型を有する人における葉酸塩サプリメントの有用性に関する研究は結論に至っていないものの、このような人には5-methyl-THF(葉酸の「活性型」)の補充が効果的であるかもしれない。

葉酸塩と健康

ここでは、葉酸塩が関与していると考えられる以下の7つの疾患および症状について述べる。自閉症スペクトラム障害、がん、心疾患・脳卒中、認知症・認知機能・アルツハイマー病、うつ病、神経管閉鎖障害(NTD)、早産・先天性心疾患・他の先天性異常。

自閉症スペクトラム障害

自閉症スペクトラム障害(Autism spectrum disorder:ASD)は、他者とのコミュニケーションや交流が困難、興味関心の偏り、反復的な行動を特徴とする神経発達障害である。2013年にASDの分類および診断が変更され、以前は障害、アスペルガー症候群および特定不能の広汎性発達障害として知られていた疾患が含められている [43] 。ASDの原因は明らかになっていないが、遺伝的因子および環境因子(感染症など)や、特定の薬物や汚染物質、殺虫剤への出生前曝露が一因であると考えられている [44-47] 。

妊娠前後の葉酸補充によってASDリスクを減少させる、あるいは特定の薬剤や有害化学物質への出生前曝露によるASDリスク上昇を軽減することが可能かもしれない。このような潜在的有益性(ベネフィット)のメカニズムは解明されていないものの、葉酸がDNAメチル化に果たす役割に関連している可能性があり、それが、神経発達に影響を及ぼす可能性がある[48-50]。

すべてではないが一部の観察研究から、妊娠前および/または妊娠期において母体の葉酸および/またはマルチビタミンサプリメントの摂取と出生児のASD発現リスクの低下には相関がみられることが示されている。例えば、85,176例の3.3~10.2歳までの小児を対象としたノルウェーの前向き母子コホート研究(Norwegian Mother and Child Cohort Study)では、妊娠4週間前から妊娠後8週間の期間に葉酸400µg/日を摂取した母親の出生児は、サプリメントを摂取しなかった母親の出生児と比較すると自閉症性障害を有する可能性が39%低いことが明らかにされた[51]。しかし、この結果からは、アスペルガー症候群または特定不能の広汎性発達障害と葉酸補充には有意な相関はみられなかった。アメリカで実施された小児837例の集団ベースの症例対照研究では、妊娠直後から1カ月間サプリメントおよび朝食用強化シリアルによって葉酸600µg/日以上を摂取した母親の出生児は、600µg/日未満の摂取量の母親の出生児と比較して、ASD発現リスクが38%低かった[52]。この相関は、MTHFR遺伝子多型 677C>Tを有する母親と子に最も強く認められた。同様に、イスラエルで小児45,300例を対象に実施された2018年の症例対照コホート研究から、妊娠前後に葉酸および/またはマルチビタミンサプリメントを摂取した母親の出生児ではASD発現リスクが大幅に減少したことが示された[53]。これとは反対に、デンマークの妊婦およびその出生児35,059例を対象とした集団ベースの長期コホートでは、妊娠前後の葉酸またはマルチビタミン剤の摂取とASDとに相関はみられなかった[54]。

妊娠前後の葉酸摂取は、子宮内で特定の薬物や神経毒に曝露した小児のASD発現リスク増大の可能性を低下させるかもしれない [45-47]。小児104,946例を対象としてノルウェーで実施された母子コホート研究のデータ解析から、子宮内で抗てんかん薬(in vivoで葉酸塩を減少させることが知られている)に曝露した小児は、母親が妊娠前後に葉酸を摂取しなかった場合には、摂取した場合と比較して、出生後36カ月時および18歳時に自閉症的特性がみられる頻度が5.9~7.9倍であることが示された[45]。また、自閉症的特性の重症度は、母親の血漿中葉酸塩濃度および葉酸摂取量のいずれとも逆相関を示していた。同様に、小児712例を対象としたアメリカの研究では、母親が妊娠期に室内用殺虫剤へ曝露し、妊娠直後1カ月間に葉酸800µg/日以上摂取した場合、室内用殺虫剤への曝露歴がなく同量の葉酸を摂取した場合と比較して、出生児にASDが認められる可能性は1.7倍であった[46]。室内用殺虫剤への曝露歴を有し葉酸摂取量が800 µg/日未満であった場合も、ASD発現リスクは高かった(2.5倍)。これは、殺虫剤への曝露によるASD発現リスク上昇の可能性を葉酸が減弱させる可能性を示唆する。

全体として、これまでのエビデンスは、母親の妊娠前後における葉酸摂取と出生児のASD発現リスクには逆相関があるとの可能性を示唆する。しかし、すべてではないにしろ現在利用可能なデータのほとんどが観察研究によるものであり、交絡により因果推論の実証力が弱められている。確固たる結論を導くには、他の研究においてさらに調査と検証を積み重ねる必要がある。

一部の疫学研究により、葉酸塩摂取状況と大腸がんや肺がん、膵がん、食道がん、胃がん、子宮がん、卵巣がん、乳がん、他のがんのリスクは逆相関することが示唆されている[1,9,55,56]。葉酸塩は、葉酸塩—メチオニン代謝系(one-carbon metabolism)やそれに続くDNA複製および細胞分裂における役割を介して、がんの発症に影響する可能性がある[56,57]。がんの発症と進行に、葉酸塩が二重に役割を果たしている可能性もエビデンスから示されている[58]。すなわち、前がん病変が生じてから高用量葉酸を摂取すると、がんの発症および進行を促進するおそれがある一方で、葉酸塩は発がんの初期段階で一部のがんを抑制する可能性がある。

葉酸補充に関する臨床試験の結果はさまざまなである。さらに、ほとんどの臨床試験では、他のビタミンB類(1日当たりの推奨用量を優に超える用量である場合が多い)や時には他の栄養素も含まれており、他の栄養素の効果があると、葉酸の効果のみを分離して示すことが困難である。例えば、フランスで行われた心血管疾患の既往のある2,501例が、葉酸560µg、ビタミンB6 3mg、ビタミンB12 20µgを含有するサプリメントを5年間連日摂取した[59]。結果、ビタミンB補充とがんの転帰との間に関連は認められなかったノルウェー(この国では食物に葉酸を強化していない)で実施された2試験の併合解析では、虚血性心疾患患者3,411例に中央値39カ月間にわたり葉酸(800µg/日)+ビタミンB12(400µg/日)を補充した結果、補充しない場合と比較して、がんの発生率が21%、がんによる死亡率が38%増加した[60]。このノルウェーでの臨床試験結果を受けて、葉酸補充によってがんのリスクが上昇する可能性に対する懸念が浮上している。

大腸がんやその前がん病変である腺腫の発生に対する葉酸塩の効果に焦点を置いた、非常に綿密な研究が実施された[1,56,61]。いくつかの疫学研究では、食事由来葉酸塩の高摂取と大腸腺腫と大腸がんのリスクとの間に逆相関を明らかにした [62-65]。例えば、50歳〜71歳のアメリカ人525,000例以上を対象に行われたコホート研究NIH-AARP Diet and Health Study(食事・健康調査)では、総葉酸塩摂取量が900µg/日以上の人は、総摂取量が200µg/日未満の人と比較して大腸がんのリスクが30%低いことが明らかになった[63]。しかし、他の研究では、食事由来の葉酸塩摂取量[66,67]や血中葉酸塩濃度[68,69]と大腸がんリスクとの間に相関関係は認められなかった。

複数の臨床試験では、腺腫の既往歴の有無にかかわらず、葉酸補充(一部に他のビタミンB類との併用あり)が大腸腺腫のリスクを減少させる可能性を検証している。心血管疾患リスクの高い1,470例の高齢女性が参加した女性における抗酸化物質および葉酸と心疾患に関する研究(Women’s Antioxidant and Folic Acid Cardiovascular Study)では、1日あたり葉酸2500µg、ビタミンB6 50mg、ビタミンB12 1,000µgを7.3年間摂取した結果、摂取期間およびその後の約2年間の追跡期間を通して、大腸腺腫の発生率に対する影響はみられなかった[70]。3件の大規模臨床試験(1試験はカナダで、1試験はアメリカおよびカナダで、1試験はイギリスおよびデンマークで実施)の統合解析により、腺腫の既往歴のある人に最大3.5年間にわたり葉酸補充を行った結果、腺腫の再発率は増加も減少もしないことが明らかになった[71]。また、葉酸補充は、あらゆる種類のがんを総合したがん全体のリスクにも影響を及ぼさなかった。しかし、解析対象のうち1研究では、葉酸補充(1,000µg/日)により、3個以上の腺腫および大腸がんを除く消化器がんのリスクが有意に増加した(一方で、大腸がんのリスクには影響を及ぼさなかった)[72]。

また、上記に引用した臨床試験3試験の統合解析では、葉酸補充はあらゆるがん種を総合したがん全体の発症リスクにも影響を及ぼしていなかった。同様に、ランダム化試験13試験のメタアナリシスでは、がん発生率全体や大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がんまたはこの他のがん種の発生率に関し、平均摂取期間5.2年にわたる葉酸補充(1日摂取量の中央値は2,000µg)が、統計学的に有意な効果を有するとは示されなかった。

一部の研究では、葉酸補充とがん発症リスクの上昇との間に相関があることが示されている。血中ホモシステイン濃度が高い65歳超の高齢者2,919例を対象に骨粗鬆症関連骨折の発生率を検討したランダム化臨床試験において、2年にわたり葉酸400µg、ビタミンB12 500µg、ビタミンD3 600 IUを併用摂取した人では、ビタミンD3 600 IUを単独摂取した人と比較して、がん発生率、特に大腸がんや消化器がんの発生率が有意に高かった[74]。さらに、2018年の前向き研究では、筋層非浸潤性膀胱がん患者619例において、天然に存在する葉酸塩の摂取では有意な相関はみられなかった一方、強化食品やサプリメントによる葉酸摂取は、がん再発リスクと正の相関を有することが示されている。また、血漿中葉酸塩濃度の高値は、BRCA1またはBRCA2変異を有する女性の乳がん発症リスク増大との相関が認められている[76]。Coleらによる研究[72]の二次解析では、葉酸補充は前立腺がんの発症リスクを有意に上昇させることが示された [77]。その後の研究では、前立腺がんの男性におけるがん細胞増殖の亢進と血清中葉酸塩濃度との相関が示されている[78]。男性25,738例を対象としたランダム化比較試験6研究のメタアナリシスでは、葉酸補充を行った男性では、プラセボ摂取の男性と比較して前立腺がんの発症リスクが24%高かった[79]。

臨床試験の相反する結果は、葉酸塩濃度の高値が腫瘍増殖を促進することを示す試験室研究や動物実験のエビデンスと併せて考察すると、葉酸塩が、摂取量および摂取の時期によってがん発症リスクに異なる2つの役割を果たしている可能性を示唆している。前がん病変の形成前に少量の葉酸を摂取すると正常組織におけるがん発生を抑制する可能性がある一方、前がん病変の形成後に高用量の葉酸を摂取した場合にはがんの発生と進行を促進する可能性がある[9,61,80-83]。この仮説は、葉酸塩摂取と大腸がんとの間に逆相関がみられたのは腺がん病変形成前の早期段階のみであったとする2011年の前向き研究を根拠としている。

2015年に米国国家毒性プログラム(National Toxicology Program:NTP)および米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)のダイエタリーサプリメント室(Office of Dietary Supplements :ODS)が招集した専門委員会は、ベースラインの葉酸塩状態が適切な人において葉酸補充はがん発症リスクを低減しないと結論を出した。また、委員会は、人を対象とした研究から得られた、葉酸補充はがん増殖に対し悪影響を及ぼすとする一貫した結果は、葉酸補充ががん発症リスクに及ぼす影響についてさらに研究を進める妥当性を支持しているとの決定を下した [85] 。このような影響に関し、腫瘍促進効果をもたらす可能性のある葉酸補充の用量および時期やこの効果は人工的に合成された葉酸や他の葉酸塩類に特異的なのかどうかなど重要な疑問がいくつか残されている [58] 。

全体として、現在までのエビデンスから、食事由来の葉酸塩の適切量の摂取は、一部のがん種の発症リスクを低下させる可能性を有することが示されている。しかし、葉酸補充ががん発症リスクに及ぼす影響は不明であり、特に大腸腺腫や他のがん種の罹患歴を有する人における影響は未知である。食事由来の葉酸塩および葉酸補充ががん発症リスクに及ぼす影響や曝露の時期の違いによる影響の相違を十分に解明するため、さらに研究を重ねる必要がある。

心血管疾患と脳卒中

ホモシステイン濃度の上昇は、心血管疾患のリスクの増加と関連している[1,2]。葉酸塩をはじめとするビタミンB群はホモシステイン代謝に関与しているため、ホモシステイン濃度を低下させることによって心血管疾患のリスクを低下できるという仮説が立てられている[1,86]。

葉酸(およびビタミンB12)を補充するとホモシステイン濃度が低下する。これらのサプリメントを摂取することで脳卒中の予防効果は期待できるかもしれないが、心血管疾患のリスクは実際には低下しないことが研究により示唆されている[86-95]。例えば、心血管疾患リスクが高い42歳以上のアメリカ人女性4,442例では、葉酸2,500µg、ビタミンB12 1mg、およびビタミンB6 50mgを含むサプリメントを7.3年間毎日摂取した結果、重度の心血管イベントのリスクは減少しなかった[90]。300例の部分集団を対象に調査した結果、サプリメント摂取による血管炎症のバイオマーカーに対する効果は有意ではなかった[92]が、ホモシステイン濃度は平均18.5%低下した[90]。別の臨床試験では、葉酸添加プログラムを採用している国(アメリカ、カナダを含む)および採用していない国において、55歳以上の血管疾患または糖尿病の患者5,522例が参加した。試験参加者は葉酸2500µg+ビタミンB6 50mg+ビタミンB12 1mgまたはプラセボを平均5年間摂取した。プラセボ群と比較して、ビタミンB群摂取群ではホモシステイン濃度が有意に低下したが、心血管系疾患や心筋梗塞による死亡のリスクは低下しなかった。しかし、ビタミンB群補充によって脳卒中のリスクは有意に25%低下した。

高血圧の成人患者のうち脳卒中または心筋梗塞の既往歴がない20,720例を対象とし、葉酸添加プログラムを実施していない中国の一部の地域で実施した大規模試験では、葉酸800µg+エナラプリル(高血圧薬)10 mgを4.5年間(中央値)摂取した結果、エナラプリル単剤の場合と比較して、脳卒中リスクが21%減少した[93]。この効果は、ベースラインの血漿中葉酸塩濃度が最も低い参加者で著しかった。本試験参加者10,789例の解析から、血小板数が低値でホモシステイン濃度が高値(脳卒中リスクを上昇させる)の人では、葉酸補充によって脳卒中リスクが73%と大幅に減少するものの、血小板数が高値でホモシステイン濃度が低値の人では有意な効果はみられないことが示された[96]。このような知見から、葉酸補充は葉酸塩濃度が不十分な人には主に有用である可能性が示唆されるが、アメリカなどの葉酸添加プログラムを採用している国では葉酸濃度が不十分な人は少ない[97]。

2012年に報告された無作為化比較対照試験19件(参加者数47,921例)のメタアナリシスの著者らは、ビタミンB補充は脳卒中のリスクを12%低下させるものの、心血管疾患や心筋梗塞、冠動脈性心疾患、心血管疾患による死亡のリスクには全く影響しないと結論付けた[87]。同様に、ホモシステイン濃度低下のための介入による心血管イベントに及ぼす影響に関するコクランレビュー改訂第3版の著者らは、葉酸単剤補充またはビタミンB6とビタミンB12との併用補充は心筋梗塞および全死因死亡のリスクに影響を及ぼさないが、脳卒中リスクを低下させるとの結論に達した。このほか、メタアナリシス3件からも、葉酸は脳卒中予防に効果があり、特に葉酸添加食品を未利用または一部利用する集団において効果がみられることが示されている。

全体として、入手可能なエビデンスから、葉酸単剤補充または他のビタミンB群との併用補充により、脳卒中のリスクが低下する、特に葉酸塩摂取状況が不十分な集団で脳卒中のリスクが低下するものの、他の心血管エンドポイントには影響を及ぼさないことが示唆される。

認知症、認知機能、およびアルツハイマー病

多くの観察研究により、ホモシステイン濃度の上昇とアルツハイマー病および認知症の発生率との間に正の相関が示されている[34,80,101-105]。研究者らは、ホモシステイン濃度が高値であると、神経細胞死をきたす脳血管虚血や濃縮体の蓄積を引き起こすタウキナーゼの活性化、メチル化反応の抑制などの多くの機序を通じて脳に悪影響があるとする仮説を主張している。すべてではないが、一部の観察研究により、血清中葉酸塩濃度の低下と、認知機能の低下や認知症およびアルツハイマー病のリスクの上昇との相関関係も認められた[80,101,102,104,106]。

このようなエビデンスがあるにもかかわらず、多くの研究では、葉酸補充が認知機能あるいは認知症やアルツハイマー病の発症に影響を与えることは示されていない。オランダで行われたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、認知機能障害が認められないか軽度である70歳以上の参加者195例が、葉酸(400µg)+ビタミンB12(1 mg)、ビタミンB12 (1 mg)、またはプラセボの3種類のうちいずれかを24週間摂取した。[107]。葉酸+ビタミンB12摂取群では、ホモシステイン濃度が36%低下したが、認知機能は改善しなかった。ホモシステイン濃度が高値の高齢者(平均年齢74.1歳)を対象とした別の臨床試験では、葉酸400µg+ビタミンB12 500µg+ビタミンD3 600 IUを2年間摂取した結果、ビタミンD3 600 IUのみの場合と比較して、ホモシステイン濃度は低下したものの認知能力に対する効果はみられなかった[108]。

「女性における抗酸化物質および葉酸と心疾患に関する研究」の一部として、心血管疾患のリスクが高い65歳以上のアメリカ人女性2,009例を、葉酸(2500µg)+ビタミンB12 (1 mg)+ビタミンB6 (50mg)を含むサプリメントあるいはプラセボを毎日摂取する群に無作為に割り付けた[109]。平均1.2年後にプラセボと比較評価した結果では、ベースラインと比較した認知機能変化の平均値に対するビタミンB補充の影響はみられなかった。しかし、ベースライン時に食事由来のビタミンB摂取量が低かった女性の小集団では、ビタミンB補充により認知機能低下速度が有意に抑えられた。アメリカにおいて軽度から中等度のアルツハイマー病患者340例を対象とした試験では、葉酸(5,000µg)+ビタミンB12(1 mg)+ビタミンB6(25 mg)を含有するサプリメントを18カ月間連日摂取した場合、認知機能低下速度にプラセボとの違いは認められなかった[110]。

オーストラリア(当時は強制的な葉酸強化を行っていなかった)で行われた研究の2次分析により、抑うつ症状を呈する60歳〜74歳の成人900例に葉酸(400µg)+ビタミンB12 (100µg)を2年間毎日補充した場合、認知機能の測定値の一部、特に記憶について改善が認められた[111]。このほかに、合計20,00例超の高齢者(平均年齢60~82歳)を対象とした0.3~7.1年にわたるランダム化比較試験11件を組み入れた別のメタアナリシスがあり、そのうちの10件では葉酸400~2,500µg+ビタミン12 20~1,000µgを投与し、8件では葉酸400~2,500µg+ビタミンB6 3~50 mgを投与していた。補充により、ホモシステイン濃度が有意に低下したが、認知的加齢、全般的な認知機能、または特定の認知領域(記憶、速度および実行機能)に対する影響はみられなかった[112]。

多くの大規模なレビューにより、ビタミンBが認知機能に及ぼす効果に関する評価が行われた。著者らの多くは、葉酸単剤補充またはビタミンB6あるいはビタミンB12との併用補充は、認知障害の有無にかかわらず、認知機能を改善しないようであると結論づけている[113-116]。しかし、一部の研究者は、ベースラインのホモシステイン濃度およびビタミンB摂取状況を考慮した場合、認知機能低下のハイリスク群においてビタミンB補充は認知機能低下を遅らせたと指摘している[104,105]。例えば、オランダで実施された1試験では、ホモシステイン濃度が高値(13 µmol/L以上)でビタミンB12濃度が基準値にある50~70歳の818例を対象に、葉酸800µgまたはプラセボのいずれかを3年間投与した[117]。葉酸補充により、プラセボ群と比較して、ホモシステイン濃度は26%低下し、全般的な認知機能、記憶および情報処理速度が有意に改善したが、感覚運動速度、複合的速度または言語の流暢さには影響がみられなかった。

認知機能および認知機能低下に対する葉酸補充の効果に関して一層理解を深めるため、さらに臨床試験を実施する必要がある。

うつ病

すべてではないが、一部の研究では、葉酸塩の摂取が不十分であることがうつ病の発症や抗うつ薬に対する反応の不良に関連を示している。考え得るメカニズムは不明であるが、脳内のメチル化反応、神経伝達物質の合成、およびホモシステイン代謝において葉酸塩が果たす役割に関連している可能性がある[118,119]。しかし、不健康な食事パターンやアルコール使用障害などのうつ病に関連する二次因子も、葉酸塩摂取が不十分であることとうつ病との間に認められる関連性に寄与している可能性がある。

アメリカにおいて民族構成が多様な15~39歳の集団2,948例を対象に実施された研究では、大うつ病患者の血清中葉酸塩濃度および赤血球葉酸塩濃度は、うつ病既往歴のない人と比較して有意に低値を示した[120]。2005~2006年のNHANESデータの解析では、20歳以上の成人2,791例において、血清中葉酸塩濃度の高値はうつ病罹患率の低さと関連していた[118]。この関連性は、女性では統計学的に有意であったが、男性では有意ではなかった。しかし、別の解析結果では、67~84歳の健康なカナダ人成人1,368例において、食事やサプリメントからの葉酸塩摂取とうつ病との間には関連がみられなかった[119]。大うつ病性障害を有する男女52例を対象とした研究の結果、抗うつ剤による治療が奏効したのは、血清葉酸塩値が正常な患者では38例中17例であったのに対し、血清葉酸塩値が低値の患者では14例中1例のみであったことが示された[121]。

一部の研究では、葉酸塩摂取状況が妊娠期間中または分娩後のうつ病発症リスクに影響を及ぼすのか否かについて検討している。上記研究のシステマティックレビューでは、結果の一致をみなかった[122]。シンガポール女性709例のレビューに組み入れたある研究では、妊娠26〜28週に血漿中葉酸濃度が高い女性(平均40.4 nmol/L[17.8 ng/mL])と比較して、血漿中葉酸濃度が低い女性(平均27.3 nmol/L[12.0 ng/mL]は妊娠期間中のうつ病発症リスクが有意に高かったが、分娩後は有意差が認められなかった[123]。イギリス人女性2,856例を対象とした別の研究では、赤血球葉酸塩濃度または妊娠前や妊娠期間中の食物やサプリメントからの葉酸塩摂取と分娩後の抑うつ症状との間に有意な関連はみられなかった[124]。最近では、中国人女性1,592人を対象に実施されたコホート研究により、妊娠期間中に6カ月以上葉酸サプリメントを摂取した女性では、摂取期間が6ヵ月未満であった女性と比較して分娩後のうつ病罹患率が低いことがわかった[125]。

葉酸補充を従来の抗うつ剤投与と併用した場合に、うつ病のアジュバント療法として有益か否かに関しては、複数の研究においてさまざまな結論が示されている。イギリスで実施された臨床試験では、大うつ病患者127例を、フルオキセチン(20 mg)+葉酸(500µg)またはフルオキセチン(20 mg)+プラセボのいずれかの投与群に無作為に割り付け、10週間連日投与した[126]。男性における効果は統計的に有意差が認められなかったが、フルオキセチン+葉酸を摂取した女性では、フルオキセチン+プラセボを摂取した女性と比較して抑うつ症状が有意に改善した。イギリスで実施された別の臨床試験では、中等度~重度のうつ病成人患者で抗うつ剤の投与を受けている475人を、使用中の抗うつ剤に加えて葉酸5,000µgまたはプラセボのいずれかの投与群に無作為に割り付け、12週間連日投与した[127]。プラセボ摂取群と比較して、葉酸摂取群のうつ病の程度は改善しなかった。大うつ病性障害患者を対象に、フルオキセチンまたは他の抗うつ剤と併用投与した葉酸に関する4試験(2試験で5,000µg/日未満、2試験で5,000µg/日を投与)のメタアナリシスおよびシステマティックレビューの著者らは、葉酸5,000µg/日未満はセロトニン再取り込み阻害薬(serotonin reuptake inhibitor:SSRI)療法の補助として有用である可能性があると結論付けている[128]。しかし、この結論は質の低いエビデンスを根拠としていると著者らは指摘している。臨床試験4件を検討したもう一つのメタアナリシスでは、アジュバント療法として葉酸500~10,000µg/日を6~12週間投与しても、プラセボと比較してうつ病の程度に有意な影響を及ぼさなかった[129]。

他の研究では、抗うつ剤のアジュバント療法として5-methyl-THF補充の効果を検討した結果、葉酸よりも有望である可能性が示唆されている[128-131]。大うつ病性障害の成人患者148例を対象とした臨床試験では、いずれもSSRIとの併用で5-methyl-THF 7,500µg/日を30日間投与後、さらに15,000µg/日を30日間投与した場合、SSRI+プラセボ投与と比較してうつ病の程度は改善しなかった[132]。しかし、成人75例を対象とし同一デザインで実施された後続試験では、SSRI+プラセボと比較して、60日間の5-methyl-THF 15,000µg/日の補充+SSRI療法は、うつ病を有意に改善した[132]。

フルオキセチンまたは他の抗うつ剤と併用投与した5-methyl-THFに関する3試験(1試験で15,000µg/日未満、2試験で5,000µg/日を投与)のメタアナリシスおよびシステマティックレビューの著者らは、大うつ病性障害患者において、5-methyl-THF 15,000µg/日はSSRI療法の補助として効果を有する可能性があると結論付けた。ただし、この結論は質の低いエビデンスを根拠としていると著者らは指摘している[128]。さらに、英国精神薬理学会(British Association for Psychopharmacology)[130]およびCanadian Network for Mood and Anxiety Treatments[131]のエビデンスに基づくガイドラインには、5-methyl-THFは抑うつ障害に対するSSRI療法の補助として有効であるとの記載がある。

葉酸塩摂取状況とうつ病との関連を詳細に理解するため、さらに研究を重ねる必要がある。特定の形および用量の葉酸塩を補充することは抑うつ障害に対するアジュバント療法として有用である可能性が、限られたエビデンスから示唆されているものの、この知見を裏付けるため、さらに研究を重ねる必要がある。さらに、うつ病に関する研究に用いられた葉酸塩の用量の多くはULを超過しているため、医学的管理のもとでのみ投与すべきである。

神経管閉鎖障害(Neural Tube Defects:NTDs)

NTDでは、脊椎の奇形(二分脊椎)、頭骨の奇形および脳の奇形(無脳症)が認められる。これらの疾患は、最もよくみられる中枢神経系の重度の先天性奇形であり、受胎後21日目〜28日目に神経管の上端または下端のいずれかで閉鎖不全が生じることが原因である[133,134]。アメリカでの二分脊椎および無脳症(NTDでよくみられる型の2つ)の発生率は、出生児10,000例に対して5.5~6.5例である[135]。

葉酸塩はDNAおよびその他の重要な細胞構成要素の合成に関与しているため、細胞が急速に発育する時期には特に重要になる[136]。そのメカニズムは完全には確立されていないものの、臨床試験から得られたエビデンスから、女性が妊娠前後に適切に葉酸を摂取した場合、NTDの予防効果が非常に高いことが示されている[3,82,133,134,137,138]。

アメリカで葉酸添加プログラムが義務化された1998年以降、NTD発生率は28%低下している[135]。しかしながら、NTD発生率は人種間および民族間で大きく異なる。NTD発生率は、ヒスパニック系女性で最も高く、非ヒスパニック系黒人女性で最も低い。このような差異を生じうる要因には、食事習慣やサプリメント摂取の習慣[139]の相違のほか、NTD発生リスクに影響を及ぼすとされている母体の糖尿病、肥満および他の栄養素の摂取(例:ビタミンB12)などの葉酸塩摂取状況以外の要因が挙げられる[133,138,140-142]。さらに、白人やアジア人、アフリカ系アメリカ人と比較してヒスパニック系に多く見られるMTHFR多型677C>Tを有する女性は、NTDのリスクが高い可能性がある[1,3,29,42]。もう一つ考慮に入れるべきことは、NTD発生率に関するデータは2016年以前に集められたものであり、この年に、主にヒスパニック系の人が消費する食材であるトウモロコシ粉への葉酸の自主的な添加をFDAが承認した事実である[15]。この政策変更が、ヒスパニック系女性と他の集団におけるNTD発生率の差異に影響を及ぼしているのかどうかは、いまだ不明である。

アメリカでは、妊娠の約50%が予定外妊娠であるため、女性が妊娠していると自覚する以前の受胎前後の期間の適切な葉酸塩摂取状況が特に重要である。FNBは、妊娠可能な女性は「多様な食事由来の葉酸塩に加えて、サプリメントや添加食品、またはその両方から葉酸400µgを毎日摂取」するようアドバイスしている[2]。アメリカの公衆衛生局(Public Health Service)およびCenters for疾病予防管理センター (Disease Control and Prevention)は、同様の推奨を報告している[38]。

2017年のシステマティックレビューの著者らは、食物への葉酸添加がアメリカで開始される以前に実施された研究において、葉酸サプリメントは摂取した人のNTDリスクを予防する、と結論付けている[143]。この時期以降に実施された研究では予防的相関性が明確に実証されていない(おそらく、食品添加による影響、研究デザインの欠陥、あるいは不適切なサンプルサイズが要因)[143]ものの、米国予防医療専門委員会(U.S. Preventive Services Task Force)は、妊娠を予定している女性または妊娠可能な女性はすべて葉酸400~800µgを含有するサプリメントを、少なくとも受胎前1ヵ月間と妊娠後も2~3カ月間継続して毎日摂取するよう推奨している[39]。

FNBはNTDの既往があり、再度妊娠を希望する女性に対する推奨量は設定していない。しかし、他の専門家は、このような女性は4,000~5,000µg/日の葉酸補充を、少なくとも受胎前1~3カ月間と妊娠後も継続して2.5~3カ月間行うよう推奨している[133,144]。これらの用量はULを上回っているため、医師の監督下に限って摂取すべきである[144]。

早産、先天性心疾患および他の先天性異常

葉酸補充により平均在胎期間が延長し、早産のリスクが低下することが立証されている[1,145]。さらに、葉酸をマルチビタミン剤と併用した場合、先天性心疾患のリスクを最小限に抑えるのに役立つことも示唆されている。これは、心組織の発達が大量の葉酸塩を必要とする細胞に依存するためと考えられる[1,2,133]。

1990~2011年のカナダの出産総数の約98%をカバーした大規模集団コホート研究の著者らは、食物への葉酸添加によって、非染色体性先天性心疾患の発生率が11%低下したと結論づけている[146]。アトランタの地域住民を対象とした症例対照研究では、乳児3,987例において、受胎前後に葉酸を含むマルチビタミン剤を摂取した女性の産児では、マルチビタミン剤を摂取していない女性の産児と比較して、先天性心疾患の発生率が24%減少した[147]。カリフォルニアで実施された症例対照研究でも同様の結果が得られた[148]。しかし、これらの研究で得られた結果が、マルチビタミン剤の葉酸以外の構成要素に起因する可能性も否定できない。

複数の研究では、葉酸とマルチビタミン剤の併用と、出生時の尿路異常、口唇顔面裂、四肢欠損および水頭症の発生率の低下の間にも関連性が認められた[2,133]。

母親の葉酸摂取量が、これらの出生時の有害転帰のリスクにどの程度の影響を与える可能性があるかを十分解明するためには、さらに研究を行う必要がある。しかし、NTDや場合によってはその他の出生時異常の予防における葉酸の既知の役割から、受胎前後における葉酸の重要性が強調される。

葉酸塩過剰摂取による健康上のリスク

高用量の葉酸は巨赤芽球性貧血を改善するが、ビタミンB12欠乏症の結果生じることもある神経障害を改善することはできない。したがって、一部の専門家は、葉酸の高用量摂取が、神経に不可逆的な影響が生じるまでビタミンB12欠乏症を「隠す(mask)」かもしれないことを懸念している。この可能性について疑問は未だ残されているが、高用量の葉酸塩がビタミンB12欠乏症に関連する貧血や認知症状を突然引き起こしたり、悪化させたりする可能性へと関心事が移っている[2,86,149-154]。

また、葉酸の高用量摂取によって、前がん病変の進行が加速し、特定の人では大腸がんリスクや他のがんの発症リスクが上昇するのではないかとの懸念が提起されている。さらに、サプリメントから葉酸1,000µg/日以上を妊娠前後の期間に摂取していた場合、その母親の産児は、400~999µg/日を摂取していた母親の産児と比較して、4~5歳時における認知発達に関する複数のテストで得点が低かった[155]。

身体が持つTHFへの還元能力を超える葉酸を摂取すると、代謝されない葉酸が体内に残るが、これがナチュラルキラー細胞の細胞数減少や活性を弱めることにつながるため、免疫系に影響を及ぼす可能性が示唆される[5,157]。さらに、一部の研究者は、高齢者では代謝されない葉酸が認知障害に関与しているとする仮定を提起している[156]。健康に及ぼす可能性のあるこのような悪影響は十分に理解されておらず、今後さらに研究を進める必要がある[1,9]。

代謝されない葉酸が、幼児、青年および成人の血中[1,5,158,159,160]ならびに新生児の臍帯血[161,162]に存在することが、複数の研究から明らかになった。少数の研究では、葉酸300µgまたは400µg(葉酸含有サプリメントや朝食用シリアルなどの強化食品では一般的な用量)を単回投与すると、血清中に代謝されない葉酸が検知されたが、100µgまたは200µgの用量では検知されなかったと示唆されている。[163,164]。さらに、総摂取量を同一にして1回摂取量を増やし摂取回数を少なくしたときと比較して、少量の葉酸を高頻度に摂取したときに未代謝葉酸の血中濃度が高くなる場合は、摂取回数の交互作用が生じると考えられる[165]。

葉酸塩とビタミンB12との間の代謝上の相互作用に基づいて、FNBはサプリメントや強化食品として市販されている葉酸塩の合成型(すなわち葉酸)に対するULを設定した(表3)[2]食事由来の葉酸塩の過剰摂取による有害作用は報告されていないため、FNBは食事由来の葉酸塩に対するULは設定していない[2]。したがって、RDAとは異なり、ULはµg DFEではなくµgで表示している。葉酸については、葉酸0.6µg=1µg DFEであるため、1,000µgは1,667µg DFEと等価である[11,18]。ULは、医師の指示のもとで高用量の葉酸を摂取している人には該当しない[2]。

表3:サプリメントおよび強化食品からの葉酸の許容上限摂取量(Tolerable Upper Intake Level:UL)[2]
表3:葉酸の許容上限摂取量(UL)
年齢 男性 女性 妊婦 授乳婦
生後0~6カ月 設定不可* 設定不可*
生後7~12カ月 設定不可* 設定不可*
1~3歳 300 µg 300 µg
4~8歳 400 µg 400 µg  
9~13 歳 600 µg 600 µg
14~18歳 800 µg 800 µg 800 µg 800 µg
19歳以上 1,000 µg 1,000 µg 1,000 µg 1,000 µg

※乳児の葉酸塩摂取源は母乳、乳児用調合乳、および乳児用食物に限る。

医薬品との相互作用

葉酸塩サプリメントは医薬品と相互作用を起こす可能性があります。以下に例を記載する。定期的にこれらの医薬品を服用している人は、葉酸塩摂取について医療スタッフと話し合う必要がある。

メトトレキサート

メトトレキサート(Rheumatrex®、 Trexall®)は、がんおよび自己免疫疾患の治療に用いられる葉酸拮抗薬である。がん治療でメトトレキサートを服用している患者は、葉酸がメトトレキサートの抗がん作用を妨げるおそれがあるため、葉酸サプリメントを摂取する前に腫瘍科医に相談する必要がある。[166]。しかしながら、関節リウマチあるいは乾癬の治療で低用量のメトトレキサートを服用している患者では、葉酸補充がこの医薬品の消化器系の副作用を軽減する可能性がある[167,168]。

抗てんかん薬

フェニトイン(Dilantin®)、カルバマゼピン(Carbatrol®、Tegretol®、Equetro®、 Epitol®)およびバルプロ酸塩(Depacon®)のような抗てんかん薬は、てんかん、精神疾患および他の疾患の治療に用いられる。これらの医薬品は血清葉酸値を低下させることがある[169]。さらに、葉酸サプリメントによってこれらの医薬品の血清中濃度が低下するため、抗てんかん薬を服用している患者では、葉酸サプリメントを摂取する前に医療スタッフに確認する必要がある[166]。

スルファサラジン

スルファサラジン(Azulfidine®)は、主に潰瘍性大腸炎の治療に用いられる。この医薬品は腸管での葉酸塩吸収を阻害し、葉酸塩欠乏症を引き起こすおそれがある[170]。スルファサラジンを服用中の患者は、食事由来の葉酸塩摂取の増量、葉酸サプリメントの摂取、あるいはその両方について医療スタッフに確認する必要がある[166]。

葉酸塩と健康的な食事

米連邦政府が公表する「アメリカ人のための食生活の指針2015-2020」では、「栄養は主として食事から摂取すべきである。(中略)栄養分を豊富に含む食物には、必須ビタミン・ミネラル、食物繊維、健康に良いと考えられるその他の天然成分が含まれている。栄養分を豊富に含む食物(多くは未加工品)には、サプリメントに含まれることの多い必須ビタミンやミネラルだけでなく、食物繊維や体によい天然成分も含有している。場合によっては、強化食品やサプリメントは、補充しなければ推奨量を下回る可能性のある1つ以上の栄養素の摂取に有用と考えられる」と指摘している。

健康的な食事に関する詳細はDietary Guidelines for Americans(アメリカ人のための食生活指針)(英語サイト)と米国農務省の食事の指針システム、MyPlate(私の食事)(英語サイト) を確認すること。

「アメリカ人のための食生活指針」では健康的な食事を次のように述べている。

  • さまざまな種類の野菜、果物、全粒穀物、無脂肪もしくは低脂肪ミルクと乳製品、油を重視している
    さまざまな果物と野菜はすぐれた葉酸塩供給源である。アメリカではパン、シリアル、小麦粉、コーンミール、パスタ、米、および他の穀物製品に葉酸が強化されている。
  • 魚介類、赤身の肉、鶏肉、卵、豆類、マメ科植物(インゲン豆、エンドウ豆)、ナッツ類、種子、大豆食品などさまざまなタンパク質食物を含んでいる
    ウシの肝臓には多量の葉酸塩が含まれている。エンドウ豆、インゲン豆、ナッツ類および卵にも葉酸塩が含まれている。
  • 飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、添加糖質、塩分および(ナトリウム)を少なくする。
  • 1日に必要なカロリー摂取量を超えない。
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監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日

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