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補完代替または統合医療:その名の意味するところは?
Complementary, Alternative, or Integrative Health:What’s In a Name?
本項目の説明・解説は、米国の医療制度に準じて記載されているため、日本に当てはまらない内容が含まれている場合があることをご承知ください。
英語版最終アクセス確認日:2022年12月1日
「補完」、「代替」、「統合」といった言葉を目にしますが、実際には何を意味するのでしょうか?
このファクトシートでは、これらの用語の解説とともに、この分野の研究における国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health :NCCIH)の使命と役割について説明します。「補完」、「代替」、「統合」という用語は、その領域とともに進化を続けています。しかし米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)は現在のところ、以下のように定義しています。
補完VS代替
2012年のアメリカの国民健康調査によれば、成人の30%、そして小児の12%を超える多くの米国人が、一般的に従来の医療とはみなされていない、または一般の西洋医学以外から派生したヘルスケアアプローチ(施術・療法)を用いています。これらの施術・療法に対し、しばしば「代替」、「補完」という言葉が同義語として使われています。しかしこの二つの言葉は、異なる概念を示すものです。
- 従来の医療とはみなされていないアプローチが、従来の治療と併用されると、「補完」と言います。
- 従来の医療とはみなされていないアプローチが、従来の治療の代わりに使われることを「代替」と言います。
従来の医療とはみなされていないアプローチを使う人も、ほとんどは従来の医療も利用しています。
補完療法や代替療法に加え、「機能性医学」という言葉を聞いたことのある人もいるでしょう。この言葉は、時には(以下に述べるような)統合医療に似た概念を指す場合があります。しかし時には、伝統的な西洋医学と19世紀のヨーロッパで広まっていたヘルスケア・アプローチ(施術・療法)の組み合わせから発展したナチュロパシーにより近いアプローチを指すこともあります。
統合医療
統合医療では、従来の医療と補完療法を状況に合わせて併用します。統合医療では、マルチモーダルな介入も重視します。これは、従来のヘルスケアアプローチ(薬物療法、身体的リハビリテーション、心理療法など)と補完療法(鍼治療、ヨガ、プロバイオティクスなど)の二つ以上の介入をさまざまに組み合わせ、例えば、一つの臓器系ではなく、ホールパーソン(1人の人間全体)として治療することに重点を置いたものです。統合医療は、従来の医療と補完医療を融合させ、異なる医療提供者や医療機関の間でうまく連携して、ホールパーソンとしてのケアを行うことを目的としています。
健康とウェルネスへの統合医療の使用は、全米の医療機関でも広がっています。現在、研究者らは、軍人や退役軍人の疼痛管理、がん患者やサバイバーの症状緩和、健康的な行動を促進するプログラムなど、さまざまな場面で統合医療がもたらす潜在的な効果を探っています。
ホールパーソン・ヘルスとは、単に疾患を治療するだけでなく、生物学的、行動学的、社会的、環境的なさまざまな相互関連性のある領域において、個人、家族、コミュニティ、集団が健康を改善し回復できるよう支援することを指します。ホールパーソン・ヘルスに関する研究には、臓器や身体システム間のつながりを含め、これらの健康のさまざまな側面のつながりの理解を深めることが含まれます。
現役および退役軍人の疼痛管理に対する統合医療
- 慢性的な痛みは、現役および退役軍人に共通する問題です。統合医療が有用かどうかを調べる研究に、NCCIH、米国退役軍人省(U.S. Department of Veterans Affairs)、およびその他の機関が資金提供をしています。例えば、
- 軍人、退役軍人の疼痛管理に関するさらなる情報は、NCCIHの軍人、退役軍人、その家族のための補完療法のウェブサイト「Complementary Health Practices for U.S. Military, Veterans, and Families(米国軍人、退役軍人とその家族のための補完療法) [英語サイト]」をご覧ください。
がん患者とサバイバーの症状管理への統合医療
- 統合医療ケアプログラムを持つがん治療センターでは、従来のがん治療を受けている患者の症状や副作用管理の一助として、鍼治療や瞑想などのサービスを提供している場合があります。こうした統合医療プログラムの潜在的な価値に関する研究は始まって間もないのですが、一部の研究で有望な結果が示されています。例えば、NCCIHが資金提供した研究では、以下のような結果が示されています。
- さらに情報を知りたい方は、NCCIH’s fact sheet on cancer[英語サイト] をご覧ください。
統合医療と健康関連習慣
- 良い食生活や十分な運動、喫煙しないなどの健康的な生活習慣は、深刻な病気を発症するリスク(危険)を下げる可能性があります。研究では、補完・統合医療が、健康的な習慣の促進に有用かどうかを調べています。例えば、
- 予備的研究では、ヨガと瞑想をもとにした療法が、禁煙に役立つ可能性があることが示されています。
- 米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)が資金提供した研究では、補完療法の施術者(カイロプラクター、鍼治療師、マッサージ師)が研修を受けることで、エビデンス(科学的根拠)のある禁煙介入策を患者に提供することができました。
- NCCIHが資金提供した研究では、家族全員を対象としたマインドフルネスをもとにしたプログラムで、肥満の若年者の食生活を変え、減量できるかどうかを研究しています。
- さらなる情報は、NCCIHのウェブページ「禁煙[英語サイト]」と「体重管理[英語サイト]」をご覧ください。[eJIM内:禁煙、体重管理]
補完療法
補完療法は、主要な治療介入(治療の取り込み方や提供方法)によって分類することができ、それは次のとおりです。
- 栄養学的アプローチ(例:特別食、ダイエタリーサプリメント(栄養補助食品)[eJIM内:一般向け・医療関係者向け]、中薬やハーブ、プロバイオティクスなど)
- 心理学的アプローチ(マインドフルネスなど)
- 身体的アプローチ(例:マッサージ、脊椎マニピュレーションなど)
- 心理と身体(例:ヨガ、太極拳、ダンスセラピー、アートセラピーなど)の組み合わせのアプローチ(心理・身体的アプローチ)、または心理と栄養(例:マインドフルな食事など)の組み合わせのアプローチ(心理・栄養学的アプローチ)
栄養学的アプローチには、これまで米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)が天然物に分類していたものが含まれ、心理・身体的な補完療法には、これまで心身療法と呼ばれていたものが含まれます。
カテゴリーに該当する補完療法の例心理・身体・栄養の組み合わせのアプローチ(心理・身体・栄養学的アプローチ)
栄養学的アプローチ
これらのアプローチは、ハーブ(ボタニカルと呼ばれることもあります)、ビタミンとミネラル、プロバイオテックスなどさまざまな製品が含まれます。これらは広く市販され、消費者が簡単に入手できます。しばしばダイエタリーサプリメントとして販売されています。
米国人の補完療法の利用についての包括的調査を含む2012年の米国国民健康調査(National Health Interview Survey:NHIS)によれば、17.7%の成人が前年にビタミンやミネラル以外のダイエタリーサプリメントを利用していました。これらの製品は、この調査でもっとも利用される補完療法でした。(図を参照)ビタミン、ミネラル以外のダイエタリーサプリメントで最も多く使用されているのは魚油でした。
研究者らは、いくつかのダイエタリーサプリメントについて大規模で厳格な研究を行ったが、その結果の多くは、研究対象となった症状に対してその製品が有効でないと示しました。その他の進行中の研究いくつかは有用な可能性が示されていますが、その一方で、これらの製品が人体にどのような影響を与えるか、また安全性や、他の医薬品や天然物との潜在的な相互作用について知るために、さらなる研究が必要です。
心理・身体的アプローチ
心理・身体的な補完療法には以下のようなものがあります。 太極拳、ヨガ、鍼治療、マッサージ療法、脊椎マニピュレーション、アートセラピー、音楽療法、ダンス、マインドフルネス・ストレス軽減法など。これらのアプローチは、多くの場合、訓練を受けた施術者や指導者によって実施されたり、教えられたりします。2012年のNHISによれば、ヨガ、カイロプラクティック、オステオパシー・マニピュレーションおよび瞑想が、成人にもっとも多く利用されている補完療法でした。2017年のNHISによれば、近年、ヨガの人気は著しく高まり、2012年にヨガを行っているアメリカの成人は9.5%だったのに対し、2017年には14.3%に増えました。2017年のNHISでは、瞑想の利用も2012年の4.1%から3倍以上も増え、14.2%だったことが示されました。
その他、心理的・身体的アプローチとして リラクゼーション法 (呼吸法や誘導イメージ療法など)、 気功、催眠療法フェルデンクライス法(Feldenkrais method)、アレクサンダー・テクニック(Alexander technique)、ピラティス、ロルフィング構造的身体統合(Rolfing Structural Integration)、 トレーガー心理物理学統合などがあります。
研究結果によると、いくつかの心理・身体的アプローチを単独で、あるいは組み合わせて行うことが、さまざまな症状に有用であることが示唆されています。いくつかの例を挙げると、次のようになります。
- 鍼治療は、腰痛、頸部痛、変形性(膝)関節症など、慢性化しやすい痛みを緩和するのに有用である可能性があります。また、鍼治療は、緊張性頭痛の頻度を減少し、片頭痛を予防するのに有用である可能性があります。
- 瞑想は、血圧、不安や抑うつの症状、過敏性腸症候群の症状、潰瘍性大腸炎の人の再燃を抑えるのに有用である可能性があります。また、瞑想は不眠にも有用である可能性があります。
- 太極拳は、平衡感覚と安定性を高め、背部痛や変形性膝関節症の痛みを軽減し、心疾患、がん、その他の慢性疾患を持つ人々の生活の質を向上させるのに有用であると考えられています。
- ヨガは、ストレスを和らげ、良い健康習慣をサポートし、精神的・感情的な健康、睡眠、平衡感覚を改善することによって、人々の一般的な健康に有用であると考えられます。また、ヨガは腰痛や頸部痛、困難な状況に伴う不安や抑うつ症状、禁煙、慢性疾患を持つ人の生活の質(Quality of Life、QOL)にも有用である可能性があります。
心理・身体的アプローチに対する研究の報告数は、その種類によって大きく異なります。例えば、鍼治療、ヨガ、脊椎マニピュレーション、瞑想については多くの研究がなされていますが、その他のアプローチについてはあまり研究がなされていません。
他の補完療法
一部の補完療法は、これらのどのグループにもうまく当てはまらないかもしれません。例えば、伝統的なヒーラーや、アールヴェーダ医学、中国の伝統医学、ホメオパシー、ナチュロパシー、機能性医学などです。
NCCIHの役割
NCCIHは、補完・統合医療について科学的な研究を率いる連邦政府機関です。
NCCIHの使命とビジョン
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary 、and Integrative Health:NCCIH)の使命は、厳格な科学的研究を通して、補完・統合医療の有用性と安全性、さらに健康と医療の向上における役割を明らかにすることです。
NCCIHのビジョンは、一般市民、医療専門家、医療政策立案者が、ホールパーソンの健康の枠組みの中で補完療法を統合的に利用する際に、エビデンス(科学的根拠)に基づいて意思決定を行うことです。
関連トピック
関連するファクトシート
さらなる情報
■ NCCIH戦略計画
NCCIHの現在の戦略計画は、戦略計画2021-2025年度 [英語サイト]:「Mapping a Pathway to Research on Whole Person Health(ホールパーソン・ヘルス研究への道筋を描く)」 [英語サイト]は、補完療法に関する将来の研究の優先順位を決定するための指針となる、一連の目標と目的を提示しています。
■ NCCIH 情報センター
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health:NCCIH)の情報センターは、NCCIHに関する情報、ならびに連邦政府が管理運営する科学・医学論文データベースから関連する文献や検索・調査などを含む補完・統合医療に関する情報を提供しています。情報センターでは、医学的なアドバイス、治療の推奨、施術者の紹介はおこなっていません。
米国内の無料通話: 1-888-644-6226
テレコム・リレー・サービス(Telecommunications relay service:TRS)。7-1-1
ウェブサイト:https://nccih.nih.gov/(英語サイト)
Email:info@nccih.nih.gov(メール送信用リンク)
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(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)
更新日:2023年3月7日
監訳:大野智(島根大学) 翻訳公開日:2021年3月12日
(※補足:原文では、healthcare provider。米国では主に医療サービス等のヘルスケアを提供している病院/医師を指す。また、健康保険会社や医療プログラムを提供する施設等も含む。)この資料に記載されている特定の製品、サービス、治療法のいずれも、NCCIHが推奨するものではありません。